第3話 僕にもママが見つかりました
「聖奈ってイラストとか描けたのか!?」
「まあね。というか、これでも結構有名なんだよ? 自分で言うのもなんだけどさ」
確かに、イラストレーターことユッキーは凄く有名なイラストレーターだ。
Vtuberの立ち絵からライトノベルのイラストまで。
数多くの美少女や美男子を生み出している。
ネットで言う所の《《神絵師》》という存在だ。
「ほ、本当なのか?」
「こんな嘘ついても惨めなだけでしょ。というか、莉乃さんに聞けばわかることだと思うし」
「いや、そこまでは疑ってないんだけどね。でも、すごいね。ずっとタブレット触って何をしてるんだろうって思ってたけど、まさかあのユッキーだなんて」
「まあ、昔から絵を描くのは好きだったし。それを続けてたら気が付いたらこうなってだけ」
だけって本人は言ってるけどかなりすごい事だと思うんだけどな。
というか、そこまで人気なら僕に教えてくれても良かったのでは? と思わなくもないけどただの幼馴染に全部話せって言うのも気持ち悪いか。
「でも、ほんとにすごいじゃん。僕、かなりユッキーのイラスト好きなんだよ」
「そ、そうなの?」
「当たり前でしょ。莉乃姉さんの甘雲このりの立ち絵もそうだし、他のラノベとかのイラストもめっちゃ好きなんだよ。だから、聖奈がユッキーだって知ってなんだか嬉しいよ」
「ほ、褒め過ぎだよ。そんなに褒めても何も出ないからね」
褒め過ぎではない気がする。
だって、僕は本当にユッキーのイラストが好きでイラストをユッキーが担当してるからという理由で即買いしたラノベが何冊もある。
透き通るようなタッチで描かれた絵が本当に美しいんだ。
「で、なんで今日はいきなりそのことを教えてくれたんだ?」
「だから、浩人がVtuberを始めるなら私がイラスト担当してあげるよって事。それに私も浩人がVtuberしてるところを見てみたいしね」
「……本当にいいのか?」
「もちろん。いつも浩人にはお世話になってるからそれくらいはね」
「そんなにお世話してる覚えはないんだけどね」
僕がこうやって聖奈の夕飯を作りに来てるのだって自己満足だし、部屋を片付けに来ていることだって自己満足。
全部自己満足だからお礼を貰うのはお門違いのような気がしなくもない。
「それは噓でしょ。ここまでお世話してもらってるし。今日だって部屋の片づけしてくれたし。ありがと」
「僕の自己満足でやってることだし。それよりも本当にいいのか? 僕が自己満足で聖奈の身の回りのことをしてるのとは違って、聖奈はしっかりプロとして描いてるんだろ?」
「だから、良いんだって。というか、ずっとお世話されっぱなしなのは私が気に食わないからちょっとくらいは借りを返させてよね」
「そ、そこまで言ってくれるならお願いしてもいいかな。聖奈と莉乃姉さんに言われてるんだし僕、やってみるよ。Vtuber」
「いいね! じゃあ、私はさっそく浩人のキャラデザ考えるから機材とかのことは莉乃さんと相談してきなよ」
聖奈は楽しそうにタブレットを持って部屋に戻っていった。
あそこまでウキウキしていているのを見るのは久しぶりな気がする。
「さて、僕も帰って莉乃姉さんにVtuberの件について相談しに行かないとな」
◇
「というわけで、僕もVtuberになることにしたよ。できれば機材とかその他もろもろを用意してくれると嬉しい」
「やったぁ~じゃあ、すぐに注文しちゃうね! これでひろくんと一緒に姉弟Vtuberとして活動できるんだね」
家に帰ってすぐに莉乃姉さんにVtuberの件を相談したらこの反応が返ってきた。
飛び跳ねて喜ぶ莉乃姉さんは家族でありながら見惚れそうになってしまう。
サラサラと流れる綺麗な黒髪から一本はねたアホ毛がぴょこぴょこ動いていて可愛い。
「えっと、まあ、うん。莉乃姉さんの弟として恥ずかしくないVtuberになろうと思う」
「そんなの気にしなくてもいいのに。ひろくんはひろくんがやりたいようにやればいいんだよ。途中でやめちゃっても私は責めないしさ」
姉さんはずっと僕に優しい笑みを向けてくれている。
普通の姉弟がどんな感じなのかはわからないけど、莉乃姉さんは特段僕に優しい気がする。
その優しさに僕はいっつも助けられてるわけだけど。
「そんなことしないよ。聖奈……ユッキーにイラストを担当してもらうんだから中途半端な真似はできない」
「そっか。聖奈ちゃんひろくんに話したんだ。てっきり隠したいのかと思ってた」
「どうなんだろ。でも、今日はすぐに教えてくれたよ。しかも、すぐに立ち絵の件も提案してくれたし」
「よかったじゃん。ひろくんユッキーのイラスト大好きでしょ?」
「うん。結構嬉しいかも」
大好きなイラストレーターが僕のために描いてくれた立ち絵でVtuber活動ができるなんて夢みたいな話だ。
振られてどん底の気分だったのに、今ではそんなことを忘れてしまうくらいには気分が高揚している。
「なら……よかったね。今のひろくん本当に嬉しそうだから。私はそういうひろくんの顔見てたいな」
「今の僕ってそんなに嬉しそうな顔してるかな」
「うん! 昨日は人生のどん底みたいな顔でちょっと心配だったんだけど、今の顔を見たら安心できる。よかった」
「心配かけてごめんね。莉乃姉さん」
僕が不安を感じてる時、寂しい時、悲しい時。
そのすべてに置いて莉乃姉さんは僕のことを気遣ってくれている。
いつかちゃんと恩返ししないとな。
「謝るような事じゃないでしょ。ひろくんは被害者なんだし。膝枕してあげよっか? ほら」
莉乃姉さんはベッドに腰かけて膝をポンポンと叩いている。
本当に膝枕をして貰ってもいいのだろうか。
「いや、流石に……」
「え~そっかぁ。残念だなぁ~」
途端に姉さんがしょんぼりした様子でうつむいてしまう。
心なしか頭に生えているアホ毛も萎れているように見える。
凄く心苦しい。
「い、いや。やっぱりしてもらおっかな!」
「そう? じゃあ、遠慮なくここに頭をのせてね」
莉乃姉さんはぱぁっと明るい笑顔になって膝をポンポンと叩く。
素直に莉乃姉さんの膝の上に自分の頭をのせる。
柔らかい太ももが僕の後頭部に当たって、幸せな気分になる。
膝枕ってどうしてこんなに素晴らしいんだろう。
「なんだか懐かしいね。ひろくんに膝枕をしたのって結構久しぶりな気がする」
「うん。僕も膝枕してもらったの久しぶりな気がする。まあ、この年でお姉ちゃんに膝枕をして貰ってる弟なんてほとんどいないと思うけどね」
「そこら辺は個人の自由ってことで。私はこうやってひろくんに膝枕するの好きだから」
「僕も莉乃姉さんに膝枕をして貰うの好きだよ。なんだか落ち着く」
このままずっとこうしてもらいたいけど、いつまでも膝枕をして貰っていると莉乃姉さんの膝がしびれてしまう。
「さぁて、ひろくん成分も補給できたし配信頑張りますか!」
「莉乃姉さんこれから配信だっけ?」
「うん。9時からだから後一時間後かな。安心して! 今回はそもそもパソコンすら起動してないから」
莉乃姉さんに言われて部屋の中にあるモニターを見るけど、言う通りモニターは全て真っ暗で僕が莉乃姉さんに膝枕されている姿が反射しているだけだった。
「そっか。じゃあ、僕は部屋に戻るね。配信頑張って! 莉乃姉さん」
「うん。ありがとうね。機材に関しては注文しておくから届いたら使うアプリとか設定とかを教えるね」
「ありがと莉乃姉さん。それじゃ」
これ以上は莉乃姉さんの配信準備の邪魔になると思って部屋を後にした。
この後の甘雲このりの配信では、「今回は失恋弟でないの?」とか「甘々なこのりちゃんが見たい!」とかいうコメントが流れていた。
コメント欄が温かいのは喜ばしい事だけど、なんかこれ……ハードル上がってないか?
↓にある☆☆☆☆☆評価欄を、★★★★★にして応援して頂けると励みになります!




