第2話 僕の幼馴染は莉乃姉さんのママだった!?
「いや、なんで僕がVtuberになることになるの?」
「さっきも言った通り有名になっちゃったし、ここまで話題に上がってるんならこのままVtuberとしてデビューしたら絶対に売れると思うんだよね」
「……それはそうかもしれないけど。僕は配信の仕方なんてわかんないよ? それに莉乃姉さんみたいに機材があるわけじゃないし」
僕の部屋には莉乃姉さんの部屋にあるようなデスクトップパソコンは置いてない。
もちろんモニターとかもないし、それを買揃えるお金だってない。
莉乃姉さんみたいに絵が描けるわけでも作曲できるわけでもない。
そんな僕がVtuberになって本当に売れるんだろうか?
ましてや、莉乃姉さんの……いや、甘雲このりの弟としてなんて。
「機材は私が用意するし、配信の仕方についてもちゃんと教えるから心配しないでもいいよ~」
「……でも」
「本気でやりたくないんなら私は無理強いはしないけどね。ひろくんが自由に決めたらいいと思う。でも、やるなら今が一番いいと思うからしっかり考えといてね」
「わかった。っと、ごめん。そろそろ聖奈の夜ご飯を作りに行ってくる」
「りょ~かい。聖奈ちゃんによろしくね」
莉乃姉さんに見送られながら僕は幼馴染の冬樹 聖奈の家に向かう。
僕と同じ高校二年生で親元を離れて一人暮らししている彼女に僕はいつも夕飯を作りに行っている。
「聖奈……またこんなに散らかして。ちょっとは片付けてよね」
「あ、浩人。もう来たんだ」
「もう来たって……というか、聖奈はなにしてたの? なんだかやけに機嫌が悪そうだけど?」
普段から聖奈の家には来てるけど、いつも少し目を離すとゴミや着替えが散乱している。
少しは自分でも片付けて欲しいと思っているんだけど、何回言っても改善される気配がない。
「別に……なんでもないし」
「絶対に何でもないやつではないよね。それ」
ふくれっ面で聖奈は僕のことを睨んできている。
ベッドの上からは出てくる様子は無くて、翡翠色の瞳がジト目で僕のことを睨んでくる。
昔からこんな風に不機嫌になることがよくあったけど、毎回理由はあんまりわからない。
聞いても教えてくれないし。
「浩人……恋人に振られたの?」
「なんでそのことを知ってるの!?」
その事は莉乃姉さんにしか話していない。
いや、正確には莉乃姉さんと甘雲このりの配信を見ていた約五万人しか知られていないはず。
という事は……聖奈は甘雲このりの配信を見てたってことか?
「だって……さっき配信で言ってたし。私は莉乃さんがVtuberしてるの知ってたし。適当に見てたら浩人の失恋話が飛び込んできたわけ。どんまい」
「適当だな。これでも結構傷心中なんだよ?」
「……私を選ばずに他の女なんかを選ぶからそんな目に遭うのよ」
「ん? 何か言ったか?」
聖奈はたまにボソボソと何かを呟くから何を言ってるのかわからない。
でも、表情を見るに不機嫌なことは間違いがなさそうだった。
何か怒らせるような事したかな僕。
「なにも言ってない。それよりもおなか減った」
「はいはい。今から作るからちょっと待っててね」
誰かのために料理を作るのは嫌いじゃないし、なんだかんだ言っても聖奈は僕の幼馴染だ。
それに、こうやって何かをしていたほうが気が紛れる。
莉乃姉さんに相談しても心の傷はまだ癒えていない。
「莉乃姉さんに言われたVtuberのこともちゃんと考えないといけないな」
考えはするものの答えは出ない。
どうしてもあと一歩が踏み出せない。
どうせ僕なんかと思ってしまうんだ。
「こんなこと考えても意味ないか」
とりあえず、僕がいま集中するのは料理を作ることだ。
聖奈は結構好き嫌いが多いから気を使わないとな。
◇
「というか、浩人トレンド入りしてたね。すごいじゃん」
「凄く不名誉だけどね」
「でも、まさかあの甘雲このりがあそこまで甘々な声を出すなんて思ってもなかったみたいでコメント欄はすごい事になってたよ」
「……それって批判されたりしてるのかな?」
もし、僕のせいで莉乃姉さんの活動に支障が出てるのならそれは凄く嫌だな。
僕の力でどうにかできる問題じゃないし。
「いや、批判殺到というよりはむしろ新しい一面が見れて喜んでる人が多いかな。甘雲このりの視聴者は良い人が多いみたい」
「ならよかった」
「浩人は少し心配しすぎだよ。幸いなことに配信に乗ってる内容で不味い話はしてなかったし。それに、身バレとかの心配もないから大丈夫だよ」
「そか。聖奈はVtuberとか結構見るの?」
昔から家にこもりがちなインドアな子だったけど、動画配信を見ているというよりはタブレットとかで何かをしているというようなイメージが強い。
長い付き合いだけど、新たな発見だ。
「う~ん、別にそこまで頻繁に見ることは無いけど。莉乃さんの配信はたまに見る感じかな」
「そうなんだ。なんか意外だね」
「そう? 私だってVtuberの配信くらいは見るよ。私のことを何だと思ってるのかな。全く」
聖奈はちょっと怒った風な素振りを見せて僕が作ったカレーライスを頬張っている。
相変わらず食べている姿はリスみたいで可愛い。
ウルフカットの茶髪が左右に揺れている。
どうやら、カレーライスの味が大層気に入ったらしい。
「いや、そう言うのを見てるイメージがあんまりなくてね。偏見とかじゃないし、聖奈のことは凄く可愛い幼馴染だと思ってるよ」
「……そういうことをサラリと言うなバカ」
「ごめんって。おかわりいる?」
「……もらう」
可愛い幼馴染に追加のカレーライスをよそって持っていくとうれしそうに食べ始める。
自分の作った料理をこうもおいしそうに食べてくれるんだから作り甲斐があるってものだ。
「一つ相談してもいい?」
「いいよ。美味しいご飯も食べれて機嫌がいいし」
カレーライスを食べ終わって食器を洗い終わった僕はリビングの椅子に座って対面の聖奈を見つめる。
勿論相談内容はVtuberの件についてだ。
「実は……莉乃姉さんにVtuberにならないかって誘われてるんだ。でも、僕なんかができるのかって思って不安でさ。返答は保留にしてもらってるんだ」
「へぇ~いいんじゃない? 今ならインパクトあるだろうし。浩人の声は凄く良いからヒットすると思うよ」
「本当に? 僕の声って良いのかな?」
「自分の声っていいかどうかあんまりわかんないよね。少なくとも私は浩人の声好きだよ」
シンプルにこの言葉は嬉しかった。
聖奈は僕に対して嘘なんかつかないし、お世辞だって言わない。
だからこそ、聖奈が今言ってくれたことが本心からの物だとわかって嬉しい。
「ありがとう。僕も聖奈の声好きだよ」
「だから、そういう事をサラッと言わないで! 恥ずかしいから!」
聖奈は気恥ずかしそうに顔を背けてから立ち上がる。
自分の部屋に戻るのだろうか?
そうなら僕もそろそろ家に帰る時間なのかもしれない。
「ちょっと待ってて! 浩人に見せたいものがあるから」
「え? あ、うん。わかった」
家に帰ろうと椅子から立ち上がりかけた僕はもう一度座り直す。
リビングはさっきまでゴミの山みたいな惨状になっていたけど、すでに片付け済みだ。
綺麗な部屋を見ていると気分が良くなる。
「これ」
そう言って聖奈が僕の前に持ってきたのは彼女が普段愛用しているタブレットだった。
画面に映し出されているのは甘雲このりの立ち絵だった。
「これって甘雲このりだよな? 莉乃姉さんのVtuberとしての姿の」
「そうだよ。この絵を描いたの私」
「……へ?」
「だから、甘雲このりのイラストレーターのユッキーって事」
え?
僕の幼馴染がイラストレーターって事?
しかも莉乃姉さんの?
「えええ~!?」
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