第16話 浩人の異変
「おい、顔色悪いぞ? 体調でも悪いのかよ」
「そういうわけじゃないよ。心配してくれてありがとね」
翌日、学校に登校して最初に小田に声をかけられた。
昨日はあれから今後の事とか配信の事とか、身近に関係者が多すぎることとかに頭を抱えて中々寝ることができなかったから寝不足気味なだけだ。
ずっと頭痛がしてるけど、まあいずれ収まると思う。
収まってくれないと困る。
「そうか? ならいいんだけど」
「あれ~? 天雲くんめっちゃ体調悪そうだけど、どしたの? 大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと寝不足ってだけで」
「珍しいな。いっつもお前寝不足とかしないじゃん。オタクにしては珍しいって言うのは偏見だけど、規則正しい生活してるし」
確かに世間一般のイメージではオタクは不規則な生活を送っているという印象を抱かれがちだけど。
僕は健康的な生活を心がけてたし、莉乃姉さんに心配をかけないためにも風邪を引くわけにはいかないと思ってたから体調管理には気を付けてた。
だから、こんなにも体がだるいのは久しぶりだ。
「あはは、そうなんだけどね。昨日は寝付けなかったんだよ」
頭は痛いし少し気分も悪い。
気持ちが悪いという表現が一番正しい。
正直、少し寒気だってする。
でも、莉乃姉さんに心配をかけるわけにはいかないし。
聖奈の夕飯だって作りに行かないといけない。
「それって昨日私が夜遅くまで付き合わせたからかな?」
「違う違う。個人的な悩み事があって寝付けなかっただけだよ。全然藤波さんのせいじゃない」
「ん? 天雲と藤波さんってそんなに仲良かったか? 昨日遅くまでとかなんとか」
「そういうわけじゃないんだけどね。昨日私がバスケの自主練をしてる時に偶然通りかかった天雲くんに付き合ってもらっただけ」
藤波さんはおどけた様子でそう言って見せる。
多分だけど、こういう自然な仕草が彼女の魅力であり数多の男子生徒を死地へと駆り立てる原因なのだろう。
「そうなのか? 天雲」
「まあな。偶然会って成り行きで一緒にバスケをしたんだよ。まあ、相手には全くならなかったけどね」
「まあ、天雲ってそこまで運動できるイメージ無いわな。そういう事なら納得だわ。でも、あんまり無茶すんなよ? お前の今日の顔色マジで悪いぞ」
「だね。無理はしない方がいいよ? 本当にやばくなったら保健室に行くんだよ?」
二人にかなり心配をかけてる時点でかなり申し訳ないのに、この状態を家で見せたら莉乃姉さんにも聖奈にも心配をかけちゃう。
絶対に学校にいるうちに体調を整えないと。
「もちろんわかってるよ。ぶっ倒れるまで無理するつもりは無いから」
ぶっ倒れるまで頑張ったら、莉乃姉さんに連絡が行ってしまう。
両親は二人とも海外だから、下手したら莉乃姉さんに迎えに来てもらうとかそういう事態が起きてしまうかもしれない。
絶対にダメだ。
莉乃姉さんは今日大学もあるし、迎えに来てもらうのも申し訳ない。
「ならいいんだけどね。小田くんは天雲くんの事を注意してみてあげてよ。お友達でしょ?」
「まあ、任せておいてくれ。こいつは俺が今からオタクにする人間だから絶対にぶっ倒れさせはしないさ」
「おい、お前僕の事めちゃくちゃ勧誘する気なのかよ。てか、こういう時くらい友達って言いきってくれ」
小田の謎のこだわりを鑑みた気がするけど、それに構っている余裕があるほど僕の体調は良くない。
今にも倒れてしまいそうだけど、何とか根性で意識を繋ぎとめてるようなものだ。
何とかして、午後の授業を乗り切らなければ。
◇
「本当に大丈夫? 結局保健室で寝てるけど……」
「大丈夫ではないけど、まだ平気。ごめんね、わざわざお見舞いに来てもらっちゃって」
結局、一限目で僕は倒れた。
小田が僕を保健室まで連れて行ってくれたらしいから、今度しっかり感謝しないといけない。
それに、まだ家には連絡が行ってないらしいから安心だ。
「いやいや、私が昨日夜遅くまで付き合わせちゃったからって言うのも原因かもしれないし」
「本当にそれは関係ないよ。寝付けなかっただけだし」
「さっきも言ってたね。悩み事があるとか。どんな悩みなの?」
「人に話すような事じゃないよ」
もっと言えば、誰かに話せるような事でもない。
だって藤波さんは甘雲ヒロを推してくれてるんだ。
中身が僕だと知られて失望させたくない。
僕の正体がバレたら莉乃姉さんにも迷惑が掛かる。
生半可な覚悟で誰かに相談していいような事じゃないんだ。
「え~ちょっとくらい相談してくれてもいいでしょ。私達友達なんだし!」
「友達……?」
「えっ!? 違った? もしかして私の勘違い?」
今にも泣き出してしまいそうな表情で藤波さんは訴えかけてくる。
なんだか、ものすごく申し訳ない気持ちがこみ上げてくるがここで話していい問題でもない。
そもそもとして、僕は悩んではいるけど迷っているわけじゃない。
どうすればいいのか、何をするのが正解なのか。
それがわからない。
「いや、勘違いじゃないよ。僕たちはれっきとした友達だ」
「ふぅ~よかった。ここで友達じゃないとか言われたら泣いちゃうところだったよ。まあ、話せないことを無理に話せとは言わないけど、話せるようになったら話してよね」
ニカッと太陽のような笑みを見せて、藤波さんは保健室を後にした。
全く、あんなに可愛い人にあんなことを言われると心臓に悪い。
多くの男子生徒が死地に赴いた理由の一端がわかった気がしたね。
「にしても、本格的にしんどくなってきたな。風邪でも引いたか?」
だとしたら不味い。
莉乃姉さんは今日の夜配信があったはずだし、聖奈はイラストの仕事で忙しい。
二人の夕飯を作る人間がいなくなってしまう。
早く治さなくては。
「天雲くん、完全に熱あるから早退しなさい。親御さんには連絡を入れておくから」
「いえ、自分で帰るので連絡はしなくて大丈夫です」
「そう? なら気を付けて帰りなさいよ」
「はい。失礼します」
なんとか自分で保険室を後にして帰路に就く。
今すぐにでも倒れそうだったけど、何とか学校の敷地を出ることができた。
いや、マジでしんどい。
視界もぐらついてきたし、頭は重い。
「あ、これマジであかんやつ」
自分の足で体を支えられなくなった僕はそのまま地面へと倒れこんだ。
息を吸うのも苦しい。
地面は熱されたアスファルトで物凄く熱い。
背中からは燦々と光り輝く太陽が降り注いでいて、体調不良が悪化する。
「ははっ、流石に無茶だったか」
地面に倒れ伏して僕は後悔をする。
朝の時点で休んでおけば良かったと心の底からそう思った。
「え、だ、大丈夫ですか?」
誰かに声をかけられたけど、返事をする元気も顔を見る元気すら残っていなかった僕はそのまま意識を手放した。
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