第三話 ナンバーワンよりオンリーワン!
お屋敷の中庭で低級悪霊を撃破したワタシは、芝生の上に寝っ転がり、空を見上げていた。
といっても、別に月を眺めているわけではない。
見ているのは、眼前に表示されたワタシのステータス画面である。
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【狗羽多魎子】Lv:3
ランク:駆け出し陰陽師
体力:6/18
気力:1/3
攻撃力:2
防御力:2
速度:4
知力:8
野心:10
運:4
【スキル】なし
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うん、レベルアップした事により、基本ステータスもそこそこ成長している。
性別が男なら、体力、気力、攻撃力、防御力、速度なんかがもっと上がっててもおかしくないだろうけど、どうこう言っても仕方が無い。
逆に、知力と野心が結構上昇しているので良しとしよう。
ちなみに、野心とは『決断力』とか『行動力』とも言い換えられるステータスだ。
悪霊を前にして狼狽えず、劣勢でも自身を奮い立たせられたのは、この数値が高かったお陰だ。
精神異常系のデバフにも抵抗力が働いたりする等、色々と重要な力である。
「さてと……じゃあ、そろそろ、ポイント振り分けに参ろうかな」
『白黎陰陽大戦』におけるプレイキャラのステータス画面は、大まかに三部門に分けられる。
一つ目が、今見ている『基本ステータス』。
体力、気力、攻撃力、防御力、速度、知力、野心、運。
これらはレベルアップと共に上昇する数値だ。
「そして、お次は……陰陽ステータス」
ワタシは、目前に浮かんだ画面を指先でスワイプする。
シュイン――と、基礎ステータスの画面が、別の画面に切り替わった。
二つ目のステータス画面、『陰陽ステータス』。
文字通り、陰陽師にとって必要な能力のステータスだ。
画面の中には大きな三角形が表示されており、それぞれの頂点に『黎力』『曝力』『堊力』と書かれている。
加えて、上方に[取得陰陽ポイント:10]という表示がある。
これは、先程のレベルアップの際に手に入れたポイントのことだ。
陰陽ステータスは、この取得した陰陽ポイントを振り分ける事により上昇させられる。
「それはひとまず置いといて、三つ目のステータス画面を確認、確認……」
スワイプ。
最期のステータス画面、『スキルステータス』が表れる。
『通常スキル』『特殊スキル』『スキルマップ』という項目が並び、全てに『なし』と書かれている。
所持しているスキルが表示されるステータス画面だ。
このステータスも、上方に[取得スキルポイント:10]とあるように、手に入れたポイントを用いて成長させることができるのだが……。
現状、スキル関連で成長させられる項目を持っていないワタシにとっては無駄なポイントである。
「つまり……今のワタシが個人的判断で伸ばせられるのは、陰陽ステータスだけってことか」
ワタシは再び、陰陽ステータスを表示――描かれた大三角形を注視する。
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【陰陽ステータス】
黎力:5
曝力:6
堊力:3(+)
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『白黎陰陽大戦』に登場する陰陽師達は、“三つの力”を用いて戦うという設定だ。
それが、黎力、曝力、堊力。
その中で、最も重要な力はやはり黎力だろう。
黎力とは、陰陽術を構築する根源的な能力値の事。
そして、この世界で単純に陰陽師の才能と指し示されるのは、この黎力の高低だ。
『白黎陰陽大戦』の作中でも、天才と呼ばれるキャラは何人か登場するが、彼等に共通するのは黎力の高さ。
「つまり、黎力が高ければ落ちこぼれと蔑まれることも無いはず……」
現状における、ワタシの黎力値は総合5。
こんな数値じゃ基礎陰陽術の一つも発動できない。
「黎力に10ポイント全部振れば、少なくとも落ちこぼれは脱却できる……」
そうすれば、少なくとも『論外の娘』という立場からも抜け出せれる。
無能脱出の、第一歩に向けて。
ワタシは黎力の項目に指を伸ばす……。
……が。
そこで止まる。
「……本当に、それで正解?」
もっと慎重に、長期的視点で考えてみよう。
そう、忘れるな、この世界は『白黎陰陽大戦』――実力至上主義、男尊女卑の世界。
必死にひたすら黎力を伸ばしたとしても、そんな努力を嘲笑うかのように、他の才能ある者達――男達は自然と伸びていく。
前世でも、このゲームをやり込んでやり込んで、検証したじゃないか。
女性キャラは、黎力伸ばしに全フリするようなプレイをしても、“そこそこ”にしかなれなかった。
決して№1に成れない運命。
そして、今私が居るのはゲームではなく現実。
ゲームのように最善で効率的な人生を歩めるとは限らない。
ならば……どうする?
だったら……どうなる?
「……じゃあ、ワタシにしか出来ない事を身につけるべきでは?」
大多数と同じ土俵に立って蹴落とし合うのではなく、ワタシだけしかいないステージに立てばいい!
なるほど、それがベスト……!
目指すべきは……ナンバーワンより、オンリーワン!
「……なんだろ、今の名言っぽいの。ワタシの前世の記憶かな?」
まぁ、それは一旦置いといて。
そうと決まれば、ここからは更に考察の時間だ。
導き出すぞ。
今のワタシにできる、この世界で勝ち上がるための方程式を!
「まずは黎力」
ワタシは、大三角形の一番上の頂点に位置する文字、黎力をタップする。
画面が切り替わり、今度は五角形が表示された。
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【黎力】総合:5
火行:1
水行:1
土行:1
木行:1
金行:1
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黎力は、具体的には五行に分かれている。
五つの数値の合計値が、総合的な黎力の数値として表示されているのである。
火行の陰陽術を強くするには火行の数値が必要になるし、水行なら水行の数値……というようなイメージだ。
そうだ……五行を満遍なく伸ばすとしても、どれか一つを伸ばすとしても、途方も無い数値が必要になる。
今は無闇に手を付けるべきではない。
「次は、曝力……か」
曝力とは、身体能力を強化できる力のこと。
曝力の文字をタップする。
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【曝力】総合:6
筋力:1
視覚:1
聴覚:1
嗅覚:1
味覚:1
第六感:1
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曝力で強化できる項目も、こんな感じで細分化されている。
筋力値は基礎ステータスの攻撃力・防御力・速度にバフ効果が掛かるし、肉弾戦系スキルと組み合わせれば強力だ。
他の項目も、基礎ステータスの強化に上掛けされるし、感覚系スキルと組み合わせて効果を発揮する。
「……これも、違う」
ワタシは眉間に皺を寄せる。
結局、黎力と同じだ。
女のワタシが悪霊と戦うために重要な要素だとは思うが、生半可に身体能力を上昇させても、男との基礎的な上昇率ではいずれ負けてしまう。
今一番に必要なもの……とは言えない。
「となると、次は……」
ワタシは、三角形の最後の一角を見る。
堊力。
その瞬間、脳内に閃光が瞬いた。
「……これだ!」
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【堊力】総合:+3(白)
◇無垢な魂
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堊力とは、言わば魂の力。
イメージとしては、『魅力』に近いもの、というべきか。
この力は数値の高い低い以外にも、白(+)と黒(-)に方向性が分かれている。
白は清らかな色を示し、《式神》や《英霊》との絆を紡ぐ上で重要な要素。
逆に黒は闇の色を示し、堊力がマイナス方向に高いと悪霊や怨霊に影響を与える力となる。
白の堊力が聖なる力である一方、黒の堊力は悪霊や怨霊をあらゆる意味で“引き付ける”力になるのだ。
つまり――。
「こうだ!」
ワタシは、堊力の項目に陰陽ポイント10を全振りする。
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【堊力】総合:-7(黒)
◆闇の御子
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黒色の堊力、-7。
数値としては大した数ではないが……『闇の御子』という色号がついた。
色号とは、堊力に伴う称号のようなもの。
堊力は黒でも白でも、5以下は『無垢な魂』という状態で、力を発揮しない。
だが、これで状態が変わった。
原作の『白黎陰陽大戦』で、黒い亜力を高めた場合の使い道は、戦闘でも、それ以外でも様々ある。
まず一つ目の効果は……。
「ふぅ……」
ワタシは意識を集中し、体の奥底から堊力を沸き立たせるようにイメージする。
ふわっ――と、ワタシの周囲に冷たく重い風が吹いた気がした。
今のがきっと、ワタシの堊力。
『闇の御子』となったワタシの、黒い堊力。
「……来た」
振り返ったワタシの視線の先――松の木の陰から、黒いモヤがこちらを伺っている。
低級悪霊だ。
ワタシの堊力に呼ばれたのだ。
「よし……行くぞ!」
黒い堊力は悪霊を引き寄せる。
フィールドで黒い堊力を解放すると、悪霊や怨霊を誘き寄せる効果を発揮するのだ。
今のワタシの堊力なら低級悪霊程度だが……それでいい。
低級悪霊の倒し方は学んだ。
ワタシの堊力で寄せ付け、倒し、もっともっと経験値を稼ぐ!
今のワタシにできる、最も効率的な成長方法は、これしかない!
「小さなうちから、どんどんレベルアップだ!」
そんな意識高い系みたいなセリフを叫び。
燃え上がる野心を胸に、ワタシは低級悪霊へと駆け出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はぁ……はぁ……」
気付くと、朝日が昇り始めていた。
流石に、この小さな体で、尚且つ魔除けのお札を探しながら戦うのは思い付きとはいえ短絡的だった。
せめて、お札の位置くらいは確認してから呼び寄せるべきだったな。
「でもまぁ、何はともあれ……」
ワタシは、足下に散らばる炭化したお札の残骸を見下ろす。
倒したのは二体、三体……くらいだったと思う。
ともかく必死で、レベルアップの報告画面を何度か見たが、詳細までは確認できなかった。
「まぁ、何はともあれ朝になったし、後でゆっくり確認しよ。ポイントの振り分けも楽しみだし」
悪霊や怨霊は、夜と闇の生き物。
朝日の下では活動しない。
仮に今堊力を解放しても、姿を現わすことはないだろう。
そうこう考えていると、起床した女中さん達が現れ始めた。
そして、庭先にいるワタシを発見し、ギョッとした顔になる。
「りょ、魎子お嬢様!? どうしたのですか、その体!」
あ、そうか。
夜通し低級悪霊と戦っていたから、今のワタシはそこそこボロボロで生傷だらけなのだろう。
すぐに他の女中さん達も集まってきて、更に嗣麻子さんも慌ててやって来た。
「魎子!? 一体、何があったの?」
流石の嗣麻子さんもビックリしている。
一方、ワタシはその場に嗣麻子さんと、屋敷中の女中さん達が集まったのを見計らい、口を開いた。
「母様、それに皆さん、お願いがあるの」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
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