第十一話 悪霊王の番い
「……ええと」
「きょ、凶祐様、本気なのですか?」
現在――《祝魂の儀》の会場である地下空間から出たワタシ達は、狗羽多本家の敷地内にある、修練場の一つに来ていた。
板張りの床で、広々とした――体育館のような場所だ。
こんな施設がいくつもあるのだから、本家のお屋敷は凄まじい。
ちょっとはワタシ達の離れにも分けて欲しいくらいだ。
で……何でワタシ達がこんな場所に居るのかというと。
「ああ、マジだ」
当主が去り、ワタシ達は帰宅を指示された。
案内人の初老男性、蛭間さんに連れられてそれぞれの屋敷へと帰るはずだった。
その直前で、凶祐が待ったを掛けた。
そして、ワタシに行ったのだ。
『おい、魎子! お前、今から俺と勝負しろ!』
……と。
というわけで現在、修練場の中央で、ワタシと凶祐が向かい合った状態となっている。
ちなみに、その他の兄様姉様達は、またしても観客と化している。
「言っとくが、手加減するんじゃねぇぞ」
向かい側――凶祐が、敵意を宿した双眸でワタシを睨んでいる。
「父上がお前を認めるなんてありえねぇ……俺には一言も無かった……俺じゃなく、側室の子供の、女のお前なんかを……」
ブツブツと呟き、どんどん怒気を膨らませていく。
これは……どうやら。
『なんだ、この小僧。随分とお前に立腹しているな』
そこで、ワタシの頭の中に狼斬の声が響いた。
どこか、せせら笑うような声だった。
(……そりゃそうだよ。今日の《祝魂の儀》は、言わば凶祐のためのイベントだったんだから。主役の座をなぁなぁにされて、怒らないわけないよ……)
『ふん、ガキだな。ちょうど良い機会だ。魎子、軽く揉んでやれ。どちらが格上か体に覚え込ませてやればいい』
狼斬が荒い事を言っている。
でも、まぁ、仕方が無い。
ワタシも覚悟を決める。
先程、狗羽多家の当主を目指していると、ハッキリと宣言したのだ。
つまり、凶祐を始め、他の狗羽多の子供達とも争う立場にある。
その運命からは逃れられないし、自分で選んだ道だ。
(……じゃあ、早速だけど、狼斬の力を貸してもらうよ……)
ワタシは、小声で「ステータスオープン……」と呟く。
そして、目の前に表示されたウィンドウに、スッと指を伸ばした。
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【スキルマップ】 スキルポイント[66→61]
『悪霊王の番い[5/200]』【+5】
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溜まりに溜まったスキルポイントの内、試しに5ポイントを、スキルマップ『悪霊王の番い』に振り分ける。
瞬間、ワタシのステータス画面が変化した。
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【スキルマップ】――『悪霊王の番い』が[5/200]進行したため、武装スキル《悪霊王ノ牙》を取得しました
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おお!
早速攻撃系のスキルが手に入った!
「おい! とっとと始めろ!」
「は、はい!」
そこで、痺れを切らした凶祐が吠える。
こちらの意思も確認せず、勝手に戦いを開始した。
「は、始め!」
言われるがまま、蛭間さんが腕を振り上げる。
「はぁっ!」
凶祐が気合いを込めるように声を張り上げる。
瞬間、彼の身の回りに炎の渦が発生し、その炎が一つ一つ――野球ボールくらいの大きさの火球へと変化した。
凄い! 陰陽術だ!
流石天才、狗羽多凶祐。
この歳にして、既に火行の陰陽術を巧みに操作できている。
「食らえ!」
って、感心している場合じゃない!
凶祐が、その火球を容赦無くワタシに放つ。
迫る火球。
ワタシは即座――今し方手に入れたスキル、《悪霊王ノ牙》を発動。
――次の瞬間、ワタシの両手にそれぞれ、一対の短刀が握られていた。
「これって……」
反りのある、太い刀身の短刀。
右手と左手に一振りずつ。
まるで、狼の牙のような短刀だ。
『振れ。それで全てが終わる』
狼斬の声が聞こえた。
ワタシは言われるまま、渾身の力で刃を振るう。
――二つの刃が、伸びた。
「た、多節剣!?」
刀身がバラバラに分裂し、一列の――そう、まるで顎のようになった刃が、空中をうねる。
そして、迫り来る凶祐の火球を、まるで囓り取るように消し去った。
パチン、パチン、パチン、と、火球の群れが水風船のように、容易く掻き消える。
「は……っ!?」
驚愕する凶祐。
その凶祐の胸に、伸びた刀身の切っ先が突き刺さった。
「がふっ!」
凶祐が膝を突く。
あ、やばい!
直撃しちゃった!?
『安心しろ、切っ先は直前で曲がっていた。刃の腹で殴打した形に近い』
よく見ると、凶祐は跪き咳き込んでいる。
蛭間さんはどうすればいいのかわからずオロオロしているが、誰の目から見ても、ワタシの勝利だろう。
『これが、《悪霊王ノ牙》。まず最初の、お前の武器だ』
頭の中で、狼斬が高らかにそう言った。
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