第十話 当主への一歩
スキルマップ、『悪霊王の番い』。
目前に表示されたウィンドウには、確かにそう書かれていた。
「や……やった」
苦節、二年。
ノースキルで生まれ、一時は絶望したものの、なんとか生き抜いてみせようと今日まで努力を積んできた。
そして遂に、やっと、スキルマップを手にするに至ったのだ。
ここで、スキルマップについて説明しておこう。
スキルマップとは、まぁ、簡単に言ってしまうと、スキルを習得するためのスタンプラリーカードのようなものだ。
本家、『白黎陰陽大戦』の作中にも、多数様々なスキルマップが存在した。
それらのスキルマップはイベントや、他キャラクターとの交流を経て手に入る。
そして、この度私は手に入れたのは――『悪霊王の番い』というスキルマップ。
……原作でも見た事の無いスキルマップだ。
おそらく、狼斬との絆を深める事によって、もしくは、狼斬に憑依されることによって手に入るスキルマップなのだろう。
(さて……)
スキルマップは、陰陽ポイント同様、取得しているスキルポイントを振り分ける事によって進行。
その進行具合により、様々なスキルを取得できるのである。
私には今、溜まりに溜まったスキルポイント[66]がある。
これを注げば、どんなスキルが手に入るのだろう……。
わくわくするのだが、それよりもまず先に、今の状況に対応しなければならない。
「狼斬は……悪霊王・狼斬は、どこに消えた!?」
そこで、振り向いた私の耳に、陰陽師の一人の声が届いた。
「先程の姿、悪霊王・狼斬のはず……」
「馬鹿な、封印されていたのでは……」
「それよりも、どこに行った! まさか、逃がしてしまったのか!?」
あれ?
これは、どういう事だろう。
右往左往し、慌てふためいている大人の陰陽師達を見て、私は疑問に思う。
彼等の目には、狼斬が私に憑依したところが見えていなかったのだろうか?
『ふっ、何を不思議がっている』
そこで、私の中に声が響いた。
狼斬の声だ。
『この場にいる連中は、俺がお前と話していた事も、お前に憑依した事も覚えていない。お前との会話中、俺の力で少しばかり空間を操作させてもらった』
「そんな事ができるんだ……」
『中々の気力を使ったがな』
流石は悪霊王と呼ばれるだけの事はある。
確かに、ワタシが狼斬を憑依させたとなれば、私自身が危険視される可能性が高い。
その危機から救ってくれたという事だろう。
しかし、それはさておき――――ワタシの中に狼斬が居る事は知らないにしても、狼斬の封印が解けた事、そして姿を消した事は、一大事に変わりない。
「早急に狼斬の捜索を開始しろ!」
「急げ!」
最早、《祝魂の儀》どころではない。
陰陽師達は次々に、会場から地上へ繋がる階段を上っていく。
「魎子」
そんな中だった。
騒然とする部下達を尻目に、いつの間にか、当主がワタシの傍に立っていた。
見上げる程の巨体の彼が、ワタシを見下ろしている。
あまりの怖さに、ワタシは息を呑む。
だって堅気の顔じゃありませんもの。
「お前は、この狗羽多家の当主になりたいと思っているか?」
すると、当主はワタシにそう問い掛けてきた。
……この《祝魂の儀》は、次期当主候補の序列も決める意味がある。
だから、当主は確認に来たのだろうか?
本気で、次期当主を目指しているのかと。
「……はい」
ワタシはハッキリと言う。
女のワタシに、当主はもしかしたら冗談で質問したのかもしれない。
本気では尋ねていないのかもしれない。
でもワタシは、真剣に、大真面目に答えた。
「……そうか」
当主はしばらくの沈黙を挟んだ後、そう呟いた。
そしてワタシに背を向ける。
「……成長を楽しみにしている」
「は、はい」
「《祝魂の儀》はここまでだ。俺も狼斬を追う。蛭間、魎子を離れへと送れ」
使用人の男性にそう言い残し(あの人は蛭間さんって言うんだ)、当主も階段へと向かって言った。
後には、ワタシ達子供組だけが残される。
「………」
何となくだけど。
狗羽多家の当主を目指す……その目標に一歩近付いたような、そんな気がした。
「で、では、皆様、お外の方へ」
蛭間さんが、まだこの状況に頭がついて行けていない子供達を連れ、外へと先導しようとする。
蔵人兄様、墨也兄様、重伍兄様、仄火姉様も集まり、皆で階段に向かおうとした。
「待てよ!」
その時だった。
凶祐が皆を――。
いや。
ワタシを、呼び止めた。
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