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1つの恋の終わりと

 アルメリアの女王就任を見届けた私は、エーデルワールを去ることになった。


 けれど去り際。アルメリアは、わざわざリュシオンとは別に私を呼び出すと


「最後にもう1つだけ助言をいただいてよろしいでしょうか?」


 彼女がフィーロに問うたのは


「わたくしが王になったからには、王の義務として後継者を産まなければいけません。子の父として、共に国を護る伴侶として、わたくしは誰を選ぶべきか? フィーロ殿に助言を乞いたいんですの」


 まさかの発言に私は驚いて


「リュシオンのことはいいの?」


 アルメリアは頑なに認めなかったけど、彼女はリュシオンが好きなんじゃないかと思っていた。


 けれどアルメリアは「しっ」と私にジェスチャーしながら


「この国でみだりにその名を口にしてはいけません。もう彼は、この国の民ではないのですから。存在しない人間と、結婚することはできません」


 その言葉にハッとする。


 以前のリュシオンなら古くから王家に仕える騎士の家系であり、本人も竜騎士なので相手として申し分なかった。だけど今のリュシオンには家柄も名声も無い。


 一方のアルメリアは王女から女王へと、さらに身分が高くなった。一国の女王が独断で、どこの馬の骨とも分からぬ相手と結婚することはできないのだろう。


「それにわたくしは女王で彼は守護竜。恋情によって結ばれたら、公私の区別がつかなくなります」


 アルメリアは全てを悟ったような、だからこそ悲しい微笑みで


「わたくしは自分を女としては愛していないリュシオンが、それでも王にはわたくしが相応しいと言ってくれたから、守護竜の力と威光を借りられたのです。そこに男女の情が混ざってしまえば、わたくしは自分が女王だと胸を張って言えなくなります」


 そこまで言うと、悪戯っぽく笑って見せて


「まぁ、あくまで例え話ですわ。わたくしはもともとリュシオンなんて、オモチャ程度にしか思っていませんから。玉座(ぎょくざ)と引き換えに失うものなどありません」


 アルメリアは国家の安寧のために、きっと幼い頃から大切に抱き続けていた夢を密かに諦めた。


 涙を見せないアルメリアを、私は泣きながら抱き締めた。


「……本当に大丈夫ですのよ。わたくしは強い女なので。そのうち竜の守護など無くとも瓦解しない、真に強く平和な国を築いてみせますわ」


 アルメリアは宥めるように私の背を叩くと体を離して


「そのためにもわたくしには、よき伴侶が必要なのです。ですからこの国の未来のために、最もよき男性をフィーロ殿に教えていただければと」


 しかし彼女の問いに、全知の賢者は優しい声で


「アルメリア。自暴自棄にならなくても、出会いは自然に訪れる。君は彼が自分の伴侶になることを、女王としての冷徹な判断ではなく、君自身の心に再び温かな血が通う感覚によって知るだろう」


 フィーロの予言に、アルメリアは泣きそうに顔を歪めて


「……本当ですか? わたくしに、いつかそんな出会いが?」

「男女ともに素晴らしい人間には、奇跡のような出会いがあるものさ。だから女王になるからと言って、君自身の幸せを諦めなくていい」

「フィーロの言うとおりだよ。皆を幸せにすることは絶対に、自分が不幸になることじゃない。だからアルメリアも必ず幸せになるよ」


 私たちの言葉に、アルメリアは穏やかに目を閉じると


「仮に愛する人が現れなくても、あなたたちのような友がいるだけで、とても幸せですわ」


 フィーロの鏡とともにギュッと私を抱き締めて


「ですが、ええ。勝手に人生を悲観して、望まぬ決断をするのはやめることにします。わたくしが望まずとも、しばらく周りが縁談縁談とうるさいでしょうが、その時はフィーロ殿の名を出させてもらいますわよ」

「ああ、存分に利用してくれ」


 その後。私たちはリュシオンにも会った。


「リュシオンは、これからどうするの?」


 実家にも兵舎にも戻れないだろうし、どこで暮らすのだろうと問うと


「俺は王都にはいられないから、しばらくはあなたのように各地を転々としながら、この国と民のために自分ができることを探そうと思う」


 王家には『竜笛(りゅうてき)』というアイテムがあり、それを吹けば遠くにいても、呼ばれているのが分かると言う。


「ただその前にミコト殿が良ければ、最後の悪魔の指環の入手を手伝いたい。しかしもうフィーロ殿がいるから、俺の助けは要らないだろうか?」


 リュシオンの問いに、私ではなくフィーロが


「いや、そんなことはない。最後の指環である『傲慢の指輪』は、かなり厄介なヤツが持っているからな」

「厄介なヤツとは?」


 眉をひそめるリュシオンに、フィーロは鏡の中で肩を竦めて


「ソイツの厄介さを知るには、実際に問題に直面するのが早いだろう。我が君。一足飛びのブーツで、マティアス殿のところに飛んでくれ」


 マティアスさんは、確か憤怒の指輪の件で出会ったレティシアさんの旦那さんだ。


「どうしてマティアスさんと会うことが、最後の悪魔の指輪の所有者を知ることに繋がるの?」

「会えば分かる」

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