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新たな守護竜との契約

 今にもアルメリアによるお仕置きが再びはじまりそうな不穏な空気の中。


「まぁ、リュシオンへの責めはそのくらいにしてやってくれ。他国の問題に首を突っ込んで悪いが、この国が抱えている問題は、今や守護竜無しには収まらないだろう」


 フィーロの助け舟で、アルメリアが困っているらしいと思い出した。


「アルメリア様。フィーロ殿がおっしゃる我が国が抱える問題とはいったい? 俺が留守にしている間に何か起きたのですか?」


 リュシオンの問いに、アルメリアは「実は……」と重い口を開いた。


 エーデルワールは守護竜の加護のもとに発展した国だ。具体的に言うと、守護竜の加護を求めて、周辺国が自ら併合を求めて大きくなったらしい。


「守護竜がいなくなった時点で懸念されていましたが、竜の加護無きエーデルワール王家に仕える意味があるのかと、領主たちが荒れていますの」


 さらに先王と兄王子は危うくマラクティカと戦争を起こしかけた。


 アルメリアが女王になるより、有力な領主と結婚させて、その者を新たな王にすべきだと主張する勢力があると言う。


 さらにフィーロによれば


「先王と兄王子の評判は悪いが、アルメリアは兵を護るために自らの命を差し出した慈悲深き王女として人気がある。だからこそアルメリアを女王と仰ぐ者と、この機会に王座を奪いたい者で内乱が起こりかけているんだ」

「そんな大変な状況なら、もっと早く相談してくれたら良かったのに」


 思わず口にすると、アルメリアはすまなそうに眉を下げて


「秘密にしてゴメンなさい。ですが、これは我が国の問題。できるだけ自国の者で解決すべきだと思ったのです」

「ちなみにアルメリアと結婚したがっている人って、どんな人なの?」


 私の問いに、彼女ではなくフィーロが


「残念ながら、人品能力ともに王に相応しい人物ではない。彼に王位を与えれば、身内のみを優遇し、その他は踏みにじる絵に描いたような悪政が始まるだろう。けれど結婚を拒否すれば、王座を巡って争いになる。アルメリアが勝つまでに多くの人命が失われる」


 その流れはアルメリアも予見しているようで、彼女は重々しく「はい」と答えると


「ですから正直、リュシオンが守護竜になったのは好都合なのですわ。再び現れた守護竜が、衆目の前でわたくしに忠誠を誓えば、反旗を翻す理由が無くなりますから」


 守護竜の加護を失ったことが反発の原因なら、再び守護竜の加護を得れば元のさやに収まるはず。


 それなのにアルメリアの顔が暗いのは


「ですが、それはとても卑怯な手段ですわ。自力では納得させられないから、竜と言う強大な存在を使って無理やり従わせるなんて」

「アルメリア様。俺はその守護竜ですが、守護するのは王家ではなく、この国と民たちです。ですから王も血筋ではなく、人を見て決めます」


 リュシオンは忠誠を示すように、アルメリアの前に(ひざまず)くと


「アルメリア様なら、きっと自身の得より民を想えるよき女王になられます。ですから俺はあなたを助ける。あなたのためでも、王家への忠誠でもなく、この国の皆の幸せのためにです」


 彼は信頼に満ちた目で未来の女王を見上げて


「ですからアルメリア様も、この国と民のために最良のご決断をしてください」

「……あなたに諭されるなんて屈辱ですが、民のためを想えば、何がいちばんかは明らかですわね」


 迷いが晴れたアルメリアは決意の眼差しで


「あなたの力と威光をお借りしますわ、リュシオン……いえ、エーデルワールの新たな守護竜よ」


 後日。アルメリアは結婚による同盟強化への回答をするとして、関係者を王城に招いた。


 結婚を断れば凄惨な内乱が起きるのは明らか。王位を狙う者たちは、女のアルメリアは要求を飲むしかないだろうと侮っていた。


 ところが彼女を見くびる男たちに


「実は先日、ある夢を見ましたの」


 アルメリアはおっとりと切り出すと


「亡くなったはずの守護竜が夢に現れて、わたくしにこう告げたのです。「竜の守護を失ったと嘆くことはない。自分は何度でも蘇り、この国の正統な王に仕える。それはあなただ、アルメリア」と」


 彼女は優雅な微笑みで王位を狙う求婚者を見据えると


「ですからわたくしは、あなたと結婚して王座を譲るわけにはいきません。女が王になるのは前代未聞(ぜんだいみもん)ですが、神にも等しい守護竜が、わたくしを王にとおっしゃったのですから」


 アルメリアの発言に男たちは呆れて


「今は亡き守護竜が夢で、あなたを王に指名した? だから自分が王として正統だと? 馬鹿らしい! もし本気でおっしゃっているとしたら正気を疑います! いまだに守護竜の威光を当てにしていることといい、やはり女に王は務まらな……」


 しかし言いかけた瞬間。アルメリアたちのいる会議室がずずんと揺れた。


「な、なんだ!? 今の揺れは!」

「竜です! 竜が現れました!」

「竜だと!?」


 兵士の知らせに、その場にいた全員が城を出た。すると広大な前庭に、巨大な青い竜の姿があった。


「ああ、あの青き鱗の竜は……」

「まさか本当に守護竜が蘇ったのか!?」


 守護竜の復活に、アルメリアから王位を奪おうとしていた人たちは、かえって震え上がった。


 領主たちの前に姿を現した守護竜は(おごそ)かな口調で 


「姫に夢で告げたとおり、この国の民たちが善良である限り、私は何度でも蘇り、この国と民を守護する。その国の王として私が指名するのはアルメリア姫だ。この決定が不服なら、エーデルワールの傘下から外れるがよい。それでも王位を欲するなら、この国の守護竜たる私を倒してみよ!」


 脅すように足を踏み鳴らして大地を揺らした。


「ひっ、ひぃ!」


 私たちの狙いどおり、守護竜を恐れた反対派たちは元のさやに収まった。


 その数日後。延期されていたアルメリアの戴冠式が行われた。


 アルメリアの女王就任を祝うように、竜に変身したリュシオンが王都の空を舞う。


 それを見た国民たちは


「すごい! 戴冠式に竜が姿を現すなんて、初代の王様以来だ!」

「守護竜様は、それだけアルメリア姫に期待されているんだ!」

「アルメリア新女王陛下バンザーイ!」


 これで我が国は安泰だと歓喜に()いた。


 アルメリアの女王就任と守護竜の復活によって、不安定だったエーデルワールの情勢は落ち着いた。

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