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女王様のお怒り

 私たちはさっそくアルメリアに会いにエーデルワール城に行った。


 最近は頻繁に頼みごとに来てしまっているけど、彼女は快く私を出迎えて


「ミコトさん! またいらしてくださったのです、ね」


 彼女はなぜか私の隣に立つリュシオンを見て、カチンと動きを止めた。


 まさかリュシオンを覚えている?


 「アルメリア?」と声をかけると


「あっ、いえ。その、そちらの方は?」


 やっぱりアルメリアもリュシオンを覚えていないようだ。


 彼がいきなり自分の騎士だったことを話しても混乱させてしまうだろうと


「えっと、友だちのリュシオン」

「まぁ、そう。ミコトさんのご友人ですの」


 アルメリアはなぜかそわそわと髪を整えながら呟くと


「あの、ちょっと、お待ちくださいね、リュシオン様。少しミコトさんと2人で話させて欲しいんですの」


 彼女の要望に、リュシオンは首を傾げながらも「どうぞ。俺はここで待っているので」と退席を了承した。


 なんの用だろうと、アルメリアの部屋について行くと


「以前お借りした自在のブラシで、髪を整えさせてくれません?」


 思いがけない頼みに私はキョトンとして


「ブラシを貸すのはいいけど、わざわざ髪を整えなくても、アルメリアは今日も完璧に綺麗だよ?」


 逆にどこを直したいのかと思うくらい、アルメリアの身だしなみは眩いほどに整っている。


 しかし本人は


「それでもいちおう! 髪を整えて、お化粧も直させて欲しいんですの!」


 私は首を傾げながらも、アルメリアの要望に応えようとしたけど


「我が君。女性同士の会話に割り込んで悪いが、彼女に無駄な努力をさせないために、早くリュシオンを思い出させてやろう」


 フィーロの介入に、彼女はキョトンとして


「なんですの? リュシオン様を思い出させるって。一度お会いしたら、そうそう忘れるような方ではないと思いますが」


 私は説明するよりも実行したほうが早いと、忘却の小槌の使用を求めた。


 忘却の小槌についてはアルメリアも知っている。加えて彼女は、私を全面的に信じてくれているので


「何か事情があるんですのね? 分かりました。どうぞ、コツンとやってくださいな」


 私はアルメリアの許可を得ると


「『リュシオンの記憶よ、戻れ』」


 その後。リュシオンのもとに戻ったアルメリアは


「リュ~シ~オ~ン!」

「いきなりの雷撃!」

「わたくしの許可も無く! 何を勝手に人の身を捨てているんですの~!?」


 アルメリアは雷撃を浴びせただけでは飽き足らず、リュシオンを平手でビシバシと叩き始めた。


 私は荒ぶる彼女を必死に止めながら


「心配をかけてゴメンね! でも急がないと神樹が切られて、世界が滅びるところだったの! アルメリアの許可を取りに行く暇は無かったんだよ!」


 それは先ほどフィーロも説明したことだけど


「仕方ないとは分かっています! 他にどうすることもできなかったんだと! でもわたくしが渡した道具のせいで、リュシオンが全ての人から忘れられてしまうなんて! ああっ! フィーロ殿を割ってしまいたい!」


 泣きながら激怒するアルメリアに、私ももらい泣きしながら


「ゴメンね!? でも、もうフィーロを壊さないで!」


 大混乱する私たちを見かねてか、リュシオンはアルメリアの肩を掴んで


「落ち着いてください、アルメリア様。ミコト殿はようやくフィーロ殿と再会できたのです。それにフィーロ殿が竜神の手甲を持って来てくれなかったら、世界は滅亡へと向かい、彼女も全知の大鏡に殺されていました。それを防いだフィーロ殿の判断を、アルメリア様は否定なさるのですか?」


 けれど彼の冷静な物言いは、かえって彼女を怒らせて


「だからやむを得ない状況だったことは、理解していると言っているでしょう!? でも理解できることと許せることは違うんです! ミコトさんと大事な鏡を傷つけられたくなかったら、あなたがわたくしの怒りを受け止めなさい!」


 全身にバチバチと雷をまとう彼女を見て


「あ、アルメリア。リュシオンが悪いわけじゃないのに」


 咄嗟に止めようとするも、リュシオンは「いい」と拒んで


「俺に当たって気が済むなら構わない。見るのが辛ければ、あなたは目を閉じていてくれ」


 それからアルメリアは雷撃と(こぶし)で、リュシオンを力の限り折檻(せっかん)した。


 彼女の怒りを受け止めると決めた彼は、うめき声一つ漏らさずに苦痛に耐えた。


「……落ち着かれましたか?」


 リュシオンの問いに、アルメリアは息を乱しながらもコクンと頷いた。


 次に疲れ切った目を私に向けると


「取り乱してしまってゴメンなさい。あなたやフィーロ殿は悪くないと頭では分かっていても、あれだけ努力して竜騎士になったリュシオンが、誰からも忘れられてしまったことが、どうしても許せなかったんですの……」


 リュシオンが竜騎士の称号を得るまでに、どれほどの苦労をしたか私は知らない。でも幼馴染でもあるアルメリアは、ずっとリュシオンの夢と努力を見て来た。私よりもずっと彼を大事に想っているからこそ、あれだけ激怒したんだろうな。


 そんなアルメリアに、リュシオンは神妙な顔で


「アルメリア様。心配なさらずとも、俺は竜騎士の座に未練はありません。ただの自分まで忘れられたことをいいとは言えませんが、父母と兄の記憶はミコト殿が取り戻してくれました。俺は本当に大事な数人に自分を覚えていてもらえれば、それで十分です」

「あなたは本当に人が良すぎて、歯がゆくてムカつきますわ……」


 なかなか怒りの解けないアルメリアに、リュシオンはうんざり顔で私を見て


「やはりアルメリア様に思い出させるべきでは無かったのでは? 俺の在り方はいつもアルメリア様の御心を逆なでするだけのようだし。なんなら忘却の小槌で、もう一度忘れさせたほうが」

「冗談でもそんなことを言うなら、今度は鞭で打ちますわよ」


 リュシオンがアルメリアを恐れる理由が私にも分かって来た頃。

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