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ひとりぼっちの守護竜【視点混合】

【リュシオン視点】


 エーデルワールに戻った後。誰か1人でも自分を覚えている者はいないか、試さずにはいられなかった。けれど部下や同僚や友人だけでなく家族までもが、やはり俺を覚えていなかった。


 それだけでなく公式の記録からも消えていた。最年少で竜騎士に選ばれたと、記録されたはずなのに。


 王族であるアルメリア様とだけは会って確認できなかった。しかし、ここまで来て例外はあり得ない。人間としての自分は本当に、この世界の全ての人から忘れられてしまった。


 ただフィーロ殿によれば消されたのは過去の記憶であり、これから出会う人たちとは新たに知り合っていけるそうだ。だったら嘆くほどのことではないと、自分に言い聞かせた。


 けれど新しい友人は作れても、親兄弟だけは永遠に取り戻せない。何よりミコト殿の記憶から消えてしまったことが、いちばん悲しかった。


 彼女にとって俺はただの友人にすぎない。しかし俺にとってのミコト殿は、いつからか決して忘れられない人になっていた。


 この身と命は祖国のために。そう思って生きて来たのに。


 彼女の安否が気になって、思わず国を飛び出すほど。世界の滅びと彼女の死の可能性を同時に知って、後者を重く感じるほど。彼女はいつの間にか俺の中で、とても大きな存在になっていた。


 その人からも忘れられた孤独と喪失感に、どうしようもなく打ちのめされる。守護竜になったからには偉大な先輩たちのように、私情を捨ててエーデルワールに尽くすべきなのに。


 生まれ育った王都には知った顔が多すぎる。こちらは知っているのに、向こうには背景の一部のように流されてしまう。その苦しみに耐えかねて王都を去ろうとした。


 ところが故郷に背を向けて歩み出した瞬間。


「リュシオンさん」


 背中にかかった声にバッと振り向くと、まるで優しい幻のようにミコト殿が立っていた。


「ミ、ミコト殿? どうしてここに?」


 まさか思い出したのかと、心が勝手に期待する。けれど、すぐに名前だけは名乗ったことを思い出した。だから呼び捨てではなく『さん』付けで呼んだのだ。


 きっと、また困りごとが起きて、力を借りに来たのかもしれない。内心の失望を隠して「何か用か?」と不器用に微笑み返すと


「ゴメンなさい」


 彼女は俺に駆け寄って、そのまま抱き着いた。


 予期せぬ接触に時が止まる。早鐘のように打つ鼓動が再び時を動かして


「ご、ゴメンって、どうして?」

「リュシオンさんを忘れてゴメンなさい。思い出せなくてゴメンなさい」


 彼女は俺に抱き着いたまま泣いて謝った。俺を思い出せないが、忘れたことは知っている。


「フィーロ殿が教えたのか!? どうして!?」


 俺はこの状況に、喜ぶより怒った。こんな風にミコト殿を泣かせるくらいなら、忘れられたままで良かった。


 しかしフィーロ殿は静かな声で


「俺は守護竜になれば、人間としての君は世界から忘れられると言ったが、そのままにするとは言っていない。だから我が君に教えた。君とのこれまでと払った代償について」

「俺はそんなこと望んでいない! こんな風に悲しませるくらいなら独りで良かった!」


 思わずフィーロ殿に怒鳴ると


「独りでいいわけない!」


 いつも穏やかなミコト殿が珍しく声を荒げて


「自分の大切な人が世界中の人から忘れられて、独りで苦しんでいるなんて絶対に嫌です! だから独りでいいなんて言わないでください!」


 泣きながら怒る彼女に、俺はかえって戸惑って


「だが俺は自分の悲しみに、あなたを巻き込みたくない……」


 けれどミコト殿は涙に光る目でキッと俺を見上げると


「もう知っちゃったからダメです」


 俺の弱気を強く否定して


「私はリュシオンさんのことを何も覚えていないけど、こうして話しているだけで、あなたがとても優しい人であることは分かります。きっと私は、あなたが大好きだったんだって」


 体を離して俺の手を取ると


【ミコト視点】


 フィーロによれば竜神の手甲を受け継いだ代償として、私はリュシオンさんを忘れてしまった。


 フィーロから彼との出会いや、実はサーティカと旅していた間も一緒だったと聞いたけど、情報として知るだけで、自分自身の記憶としては思い出せない。


 それでもリュシオンさんと話すたびに、いま誰よりも辛いはずの彼が、自分より私を気遣ってくれていることは分かる。


 こんな優しい人が皆から忘れられて、独りぼっちなんて絶対に嫌だ。


 それに私だって、こんなに大切な友人を失いたくないと


「だから記憶を失くしたからって、あなたの手を放したくありません。関わらせてください」


 彼の手を取りながら強く申し出ると


「……なんで、あなたは」


 リュシオンさんは声を震わせて何か言いかけると、今度は自分からきつく私を抱きしめて


「俺がいちばん辛い時に、いつも助けてくれるんだ……」


 彼の言う「いつも」が私には分からなかった。それでもリュシオンさんが落ち着くまで、彼の背を撫で続けた。


 やがて落ち着いたリュシオンさんは、ハッと私から身を離すと


「す、すまない。感極まってしまって……」


 真っ赤になって謝罪する彼に、私は「気にしないでください」と笑顔で首を振った。


 リュシオンさんはホッとしたように顔を和ませて


「状況が変わったわけではないのに、こうしてあなたと話しているだけで、とても気持ちが楽になる。来てくれて、ありがとう」


 彼はそう言うけど、私にはまだ痛みを隠した笑みに見えた。

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