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忘れたことすら誰も知らずに

 全知の大鏡の処遇が決まったところで


「息つく暇もなくて悪いが、一足飛びのブーツで央華国に置き去りになっているサーティカと兵士を迎えに行こう。ついでに、その男も一緒に」


 フィーロの指示に、獣王さんは不可解そうな顔で


「サーティカの迎えは分かるが、なぜその男を央華国に?」

「この男は我が君と同じ東洋系だ。大陸だと見た目で転移者だと疑われて襲われる可能性がある。その点、央華国なら現地の人間に似ているから、この男にとって比較的暮らしやすい」


 私は文無しでは大変だろうと、央華国で稼いだお金を彼のポケットに入れてあげた。


「この男は俺が背負うから、あなたは俺と手を繋いで一緒に央華国へ飛んでくれ」


 私は青い髪の男の人の指示に頷きつつ


「あの、今更ですけど、あなたは誰ですか?」


 どうして私やフィーロに、こんなに協力してくれるんだろうと問うと、彼はなぜか一瞬悲しげに顔を歪めた。


 けれど、すぐにやんわり笑って


「俺はリュシオンという旅の剣士で、フィーロ殿に頼まれて彼を手伝っていた。彼とあなたが再会した以上、もう俺がいる意味は無いだろうから、覚えるほどの名でもない。忘れてくれ」


 それから私たちは央華国に飛んだ。


 まだ気絶している男の人を安全なところに寝かせると、宿屋で待っているサーティカたちを迎えに行った。


「ニャー! お姉ちゃん! お姉ちゃん!」


 サーティカは私を見た途端、突進するように抱き着いて


「お姉ちゃん、いきなりいなくなっちゃって! サーティカ1人で異国に置き去りにされて怖かったニャ!」

「ゴメンね。また怖い想いをさせちゃって。1人で大変だったよね」


 1人と言ったけど、実際はフィーロを央華国まで連れて来てくれた兵士さんに加えて、レイファンさんとシュウホウさんが、サーティカに付き添ってくれていた。


「サーティカと一緒にいてくれて、ありがとうございます」

「それは構いませんが、問題は無事に片付いたんですか?」

「はい。もう大丈夫です」


 笑顔で答える私に、レイファンさんは憂い顔で


「あの、あなたのフリをした何かが言っていたんですが、子が作れない体質だったのは私じゃなくて帝だと言うのも嘘だったのでしょうか?」


 それは私にとって初耳だった。


 皇帝さんには悪いけど、レイファンさんたちのためには真実であって欲しい。


「いや、それは嘘じゃない。この世界の国の多くは男尊女卑に加えて医学の進歩も遅いから、何かと女性のせいにされがちだが、子が生まれない体質なのは皇帝のほうだ。だから君とシュウホウ殿なら、そのうち子宝に恵まれる」


 フィーロの答えに、レイファンさんは「良かった!」と涙し、シュウホウさんはその肩を優しく抱いた。


 レイファンさんたちと別れた後。


 サーティカと兵士さんを連れてマラクティカに戻ると


「王~! サーティカ、すごく怖い目に遭ったニャ! ナデナデして慰めるニャー!」

「仮にも最高位の神官だろう。子どもみたいに泣き喚くな」


 獣王さんはそう言いつつも、サーティカを突き放しはせず、頭を撫でてあげた。


 しばらくして落ち着いたサーティカは


「フィーロが戻って来たなら、サーティカこれでお役御免ニャ?」

「うん。これまで、ありがとう。フィーロと無事に再会できたのは、サーティカのおかげだよ」


 ふわふわの小さな体を抱き締めて感謝を告げると


「マラクティカに帰るのはいいけど、お姉ちゃんとお別れは寂しいニャ。サーティカ、まだついて行こうかニャ?」


 サーティカの発言に、獣王さんはジト目で


「さっきまで泣いていたヤツが何を言っている。案内役が他にいるなら、お前は足手まといにしかならない。旅人を想うなら無理について行くのはやめておけ」

「だってお姉ちゃんと離れるの寂しいニャ……。まだ一緒にいたいニャ……」


 私もせっかく仲良くなった彼女とお別れは寂しいので


「必ずまた会いに来るよ」


 約束すると、サーティカはパッと顔を明るくして


「ニャ~、絶対ニャ~? お土産も買って来てくれるニャ?」

「どさくさに紛れてたかろうとするな」


 リュシオンさんの注意に、サーティカは毛を逆立てて


「うるさいぞ、人間! と言うか、お前は誰ニャ!?」

「ソイツが自分では動けない全知の鏡をマラクティカまで運んだらしい。人間ではあるが我らの恩人だ。お前も敬意を払え」


 獣王さんに諭されたサーティカは「そうだったニャ?」と態度を和らげて


「そうとも知らず失礼なことを言ってゴメンなさいニャ。人間さん」

「……いや、構わない。俺も乱暴な口をきいて悪かった」


 私は恩人であるリュシオンさんに


「リュシオンさんはどこの国の人なんですか? 良かったら近くまで送ります」


 その申し出に、彼は少し複雑そうに微笑みながら


「……それではエーデルワールの王都へ」

「おお。リュシオン殿もエーデルワールのご出身なんですか? 実は私もエーデルワールの兵士なんですよ」


 反応したのはフィーロをエーデルワールから央華国まで運んでくれた兵士さんだ。


 フィーロは央華国でリュシオンさんと会い、一気にマラクティカに飛んだらしいのだけど、具体的な方法はまだ聞いてない。


 ともかく全員の行き先がエーデルワールなら話が早い。私はリュシオンさんと兵士さんを連れて、一足飛びのブーツでエーデルワールに飛んだ。


 リュシオンさんとの別れ際。私は改めて彼に


「あの、フィーロは私の大切な友だちなんです。二度と会えないと覚悟していたけど、本当はすごく会いたかったから、また会えてすごく嬉しかった。彼を連れて来てくれて、ありがとうございます」


 丁寧にお礼を言うと、彼は眩しそうに目を細めて


「俺のほうこそ、ありがとう。最後にあなたの力になれて良かった」


 とても綺麗だけど、胸が締め付けられるような悲しい微笑み。


 全知の大鏡の企みを阻止して、全ての問題は解決されて、皆にとって最高の状況のはずなのに、どうして、そんな顔をするんだろう?


「あの、大丈夫ですか?」


 私の問いに、リュシオンさんは「大丈夫だ」と顔を逸らして


「用が済んだから俺はもう行く。さようなら」


 そういうと、すぐに王都の雑踏に紛れて消えてしまった。


 私はなんとなくリュシオンさんの様子が気がかりで、人ごみに消えた彼の姿を目で追っていたけど


「彼のことが気になるだろうが、他にも片づけなければならない問題がある。エーデルワール城へ行こう」

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