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シュウホウの想い

 後宮を出た後。私たちは今後の相談をしに、少し早いけど宿に戻った。


「サーティカ、お姉ちゃんがレイファンとゆっくり話せるように、女官が戻るのを邪魔していたニャ。人知れずお姉ちゃんを助けて、サーティカ、偉いニャ」


 「褒めるニャ!」と抱き着いて来たサーティカを、私はニコニコ撫でながら


「女官さんがなかなか戻って来なかったの、サーティカのおかげだったんだね。おかげでレイファンさんとゆっくり話せたよ。ありがとう」


 私が頼んだならともかく、自分で状況を読んでアシストしてくれたサーティカは本当に賢い子だ。私は彼女の機転を大いに褒めた。


 一方、私の報告を聞いたリュシオンは


「レイファン殿は他に方法が無いからと色欲の指輪で帝と後宮に復讐しているが、本当の願いは自由になることなんだな?」


 彼の確認に、私は「うん」と頷いて


「レイファンさんの本当の願いが叶ったら、もう色欲の指輪はいらなくなるから、皇帝さんも正気に戻ると思う」

「じゃあ、明日はレイファンの恋人を捜すニャ」

「皇都は広いが、彼は常連客の噂になるほど、あの食堂を利用しているようだ。食堂の店員に聞けば、彼の住まいや職場が分かるかもしれない」


 翌日。私はリュシオンの助言で、再び食堂を訪れた。


 店主さんは彼の住まいや職場は知らなかったけど、常連であることは確からしい。


「だとしたら家か職場が近いのだろう」

「後はサーティカ、勘で案内できそうニャ。ついて来るニャー」


 結果として、あの男性は市場で見つかった。彼はシュウホウという名で、市場で自作の刺繍靴を販売していた。


「あの、3年前にシュウホウさんが別れた恋人って、もしかしてレイファンさんですか?」


 私の問いに、シュウホウさんはサッと顔色を変えて


「どうしてレイファンの名を? もしかして君はレイファンを知っているのか? 彼女と会ったのか?」

「は、はい。実は私は商人で、先日後宮に行ったので」

「彼女はどんな様子だった!? ちゃんと幸せに暮らしているのか!?」


 その反応だけでシュウホウさんが、今もレイファンさんを愛していることが分かった。そんな彼女の不幸を知らせるのは、シュウホウさんにとって残酷かもしれない。


 それでも私は、レイファンさんが後宮で受けた仕打ちを正直に伝えた。


 2年も寵愛しながら、子どもが産めないからと捨てられたことを知ったシュウホウさんは「ああ……」と嘆いて


「世継ぎを作るのは皇帝の義務であることは分かる。だがレイファンがいらないなら、どうして不要な女を閉じ込める? 帝にとっては数多いる女の1人でも、俺にとっては唯一の女性なのに」


 私はシュウホウさんに、引き続き彼女について話した。


 レイファンさんが本当は後宮を出たがっていること。


 けれど単に仕来りで閉じ込められているだけでなく、すっかり穢れて子どもも産めない自分は、後宮を出たところでシュウホウさんの妻にはなれないと思い込んでいること。


 私はそれらを伝えた上で


「もしレイファンさんと生きて行くなら、彼女を後宮から脱走させなきゃいけませんから、皇都では暮らせなくなります。それでも彼女と一緒になりたいですか?」


 レイファンさんも懸念していたとおり、シュウホウさんにも犠牲が大きすぎる話だ。


 受け入れてくれるか不安だったけど


「3年前。彼女を手放した時には俺にも病気の母がいた。だが母は1年前に亡くなった。もう俺にはレイファンのために捨てられないものは何も無い」


 シュウホウさんは目に涙を浮かべながらも力強い声で


「レイファンが俺を選んでくれるなら、地の果てで暮らすことになろうと、彼女と一緒になりたい」


 シュウホウさんの答えに感動したのは私だけではなく


「よく言ったニャー。女は真に愛する者のためなら、どんな苦労も厭わないニャ。お前となら貧しくても、彼女きっと幸せニャー」

「い、今の声は?」

「訳あって姿を隠しているが、俺たちの仲間だ。怪しいだろうが、悪いヤツでは無いから気にしなくていい」


 私たちはシュウホウさんに会って、彼の想いを聞いた。


 だから彼の言葉を信じられるけど、レイファンさんは酷い自己嫌悪のせいで、それが嬉しい知らせであるほど信じられないかもしれない。


「どうにかしてシュウホウ殿の気持ちを、直接彼女に届けられたらいいのだが」


 リュシオンの言葉に、私も首をひねる。


 例えば一足飛びのブーツなら、直接レイファンさんのもとへ飛べる。けれど一の姫であるレイファンさんの部屋には、常に女官さんが控えているようだった。


 夜。眠っている時間を狙うとしても、彼女は帝の寵姫。帝と共寝している可能性がある。


「シュウホウどころか、お姉ちゃんだけ会いに行くのも難しそうニャ」

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