表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/122

少女を虐めた悪い伯母は

 クリスティアちゃんたちと作戦会議した翌日。


「さて、眠り薬を用意するにあたって、さっそくこの間、手に入れた神の宝が役に立つ。『魔女の万能鍋』で安全かつよく効く睡眠薬を作ろう」


 魔女の万能鍋は、フィーロの案内で訪れた廃屋で発見した神の宝だ。


 「●●を作りたい」と注文すると、必要な材料が書かれたメモが出て来る。


 後は材料を入れて(ふた)を閉じるだけで、自動的に薬や料理ができる魔法の鍋だ。


 フィーロ以外の神の宝を使うのは初めてなので、すごく楽しみだ。


 幸いこの街は大きいので、お金があれば、お店で必要な材料を買える。


 ただ必要な材料をお店で揃えると、思いのほか高くついた。


「ほら、薬代をクリスティアに持ってもらって良かっただろう? 優しさは君の美徳だが、善を()すにもまず自分の基盤を安定させなければな」


 フィーロの言うとおり、自分が不安定な状態で、人を支えることはできない。


 だから誰かと協力する時は、自分のほうも「ここは難しいからお願いします」って言わなきゃいけないんだなと勉強になった。


 必要な材料を投入して蓋をすると、ものの数分で薬が完成した。


「割とかさばる大きさの鍋を苦労して持ち運んだ甲斐があったな」


 フィーロの言葉に、私は笑顔で頷いた。


 眠らせたいのは伯母さんだけだけど、屋敷に侵入するなら2人の娘さんたちにも起きて来られるとまずい。


「どうせ全員が取る食事で1人だけを狙うのは困難だ。クリスティアとばあやさんは彼女たちと食べないから、味の濃いスープにでも入れて、まとめて眠らせてしまおう」


 睡眠薬を作った後。


 私は今日もクリスティアちゃんの代わりに、街で買い出しをした。


 買い物を届けるついでに、ばあやさんに眠り薬を渡すと


「味の濃いスープに入れて、伯母さんとご家族を全員眠らせてください」

「はい。では、また夜に」


 短い約束を交わして夜。


 私は再びクリスティアちゃんの屋敷を訪れた。


「ばあやさんは俺たちの指示どおり、伯母親子を眠らせてくれた。後は怠惰の指輪を引き抜くだけだ」


 これが物語なら一波乱起こるところかもしれない。


 しかし計画を立てたのは、全てを見通す全知の鏡であるフィーロだ。


 イレギュラーが起こることはなく、私は無事に伯母さんの手から怠惰の指輪を引き抜いた。


 終わってみると、あまりに呆気ないので


「こんな簡単なことで、本当に両親と使用人たちは元に戻ったんでしょうか?」


 不安そうなクリスティアちゃんに


「俺が説明するより見たほうが早いだろう。離れに居る両親に会いに行くといい。気力を奪われ体は動かなくても、意識はあるから状況は把握している。向こうも君を捜している」


 フィーロの言葉に、クリスティアちゃんは「お父様! お母様!」と離れに向かって走り出した。


 私は足の悪いばあやさんを心配して振り返ったけど


「私はいいので、あなたも早く。お嬢様についていてあげてください」


 そう言われて、クリスティアちゃんの後を追う。


 フィーロの言うとおり、意識を取り戻したご両親は自ら離れを出たようで、屋敷と離れの間の庭で親子は再会した。


 月明かりの下。久しぶりに対面した親子は


「ああ! クリスティア!」

「可哀想に! 私たちが()せっている間に、こんなにボロボロになって!」


 半分眠ったような状態でも、ご両親は娘が下女のように働かされていることに気付いていたらしい。


 変わり果てた娘の姿に、泣きながら我が子を抱き絞めた。


「お父様、お母様! ああっ、神様! 本当に良かった!」


 クリスティアちゃんもとめどなく涙を流しながら、ご両親と強く抱き合った。


 翌朝。


 謎の不調の真相を知ったクリスティアちゃんのご両親は、伯母さんを問い詰めた。


 寝ている隙に指輪を奪われた伯母さんは青くなって


「確かにその指輪は私のものだけど、そんな効果があるなんて知らなかったの! 人を次々に廃人にするなんて、そんな恐ろしいこと、わざとするはずがないじゃない!」


 伯母さんは効果を知らなかった。わざとではないと言い訳したけど


「そちらの旅人さんによれば、この魔法は指輪を外すだけで解けるそうです。しかし私たちが今日まで正気に戻ることは無かった。つまり姉上はずっと指輪を嵌め続けていた。それなのに、あなた自身は魔法にかからなかった」


 冷たい目で淡々と指摘する夫に続いて、夫人がにこやかに


「指輪を嵌めた手で触れるだけで、自分にすらかかってしまう魔法。知らずに回避できるはずがありませんわよね? 旅人さんによれば、うっかり自分を触らないように、お義姉様は眠っている間すら手袋をしていたようですし」


 夫妻の厳しい追及に、伯母さんは「うっ」と言葉を詰まらせた。


 フィーロによれば悪魔の指輪を嵌めていても、その手を手袋などで覆ってしまえば発動しないそうだ。


「恩人である旅人さんに迷惑がかかるので、悪魔の指輪のことは公表しません。ですが、いくら姉上でも、これだけ私たちを害し娘を下女のように扱き使いながら、まだ共に暮らしたいとは言わないでしょう。荷物をまとめて出て行ってください。我が家からだけでなく、この国から」


 弟の非情な宣告に、伯母さんは床に(ひざまず)くと


「そ、そんな。私には夫も居なければ仕事も無いのよ。娘も2人いるって言うのに、実の弟に見捨てられて、この先どう生きていけと言うの?」


 憐れっぽくすがる伯母さんを、クリスティアちゃんのお母さんのジョセフィーヌさんは、ゾッとするほど冷ややかな微笑で見下ろして


「逆に問いますが、なぜ悪魔の指輪で我々を生き人形にし、娘に地獄の苦痛を与えたあなたの生死を気にかけてやらなければいけないのでしょう? お義姉様は私を気弱な女だと侮っていたようですが、我が子を攻撃されて怒らぬ母はいません。私とこの人が自ら手をくださぬうちに消えてください」


 クリスティアちゃんのご両親に見放された伯母さんは、2人の娘を連れて、その日のうちに屋敷を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ