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獣王さんの贈り物

 リュシオンの許可を得て、今日は私だけ黄金宮に泊まることになった。


 王の泉で体を清めた後。シャノンさんが用意してくれた服に驚いた。確かに綺麗だけど、またしても露出の多い服だった。


「あの、いつものお年寄り向けの服をください……」


 羞恥に震えながらお願いするも


「今日はダメ。若い女の服着せる。王の命令」


 仕方なくシャノンさんの用意した服を着て、獣王さんのもとに行った。


 私は手でお腹を隠しながら獣王さんにも


「あの、やっぱりこういう服は恥ずかしいので、お年寄り向けの服を……」

「今日は諦めろ。年寄りの服に、この飾りは合わん」


 そう言って獣王さんは、私に赤い宝石のついた黄金の髪飾りと腕輪を渡した。彼は私にこの飾りを着けさせたくて、それに似合う女性らしい衣装を着せたみたいだ。


 アクセサリーと言うより財宝と言ったほうがしっくり来るような眩いほどの装飾品に


「あの、すごく綺麗ですけど、こんな高そうなものを着けるのは怖いです。うっかり壊したら弁償できないので」


 辞退しようとするも獣王さんは


「それは貸すんじゃなくて、お前のために作ったものだ。粗末に扱うのは許さないが、わざとじゃなければ壊しても構わない」

「私のために作った? えっ、誰が?」

「俺以外に誰がいる」


 呆れ顔の獣王さんに、私は「えっ!?」と驚いて


「このアクセサリー、獣王さんが作ったんですか!? どっちも!?」

「そうだ」

「すごい! こんな綺麗なアクセサリーが作れるなんて!」


 この世界に来てから高価なアクセサリーや調度品は、たびたび目にした。でも自分で作ったと聞くのは初めてなので、ものすごく感動してしまった。


「もうサーティカから聞いたかもしれないが、俺は先王の実子ではない。だから王になるつもりも無かった」


 その頃の獣王さんは弟さんたちの邪魔にならないように戦士としての実力を隠して、金細工師を目指していたそうだ。


 でも様々な仕事から金細工師を選んだのは諦めではなく、最愛のお父さんと未来の王である弟さんたちにいちばん素晴らしい宝物を捧げたかったから。


 けれどお父さんと弟さんたちは、王座を狙う悪い獣人に殺されて、自分が王になってしまった。


「マラクティカで金を身に着けられるのは王だけ。自分のために作るのはあまりに空しいから、俺が王になった以上は、二度と作ることは無いだろうと思っていた」


 それで最近まで金細工をやめていたそうだけど


「でもお前と出会ったら、自然と作りたくなった。だから受け取れ、旅人。それはお前がいたから生まれたものだ」

「だけど、この国で金や赤い宝石を身に着けられるのは王だけなんじゃ?」

「王の泉と同じだ。王が許した者なら特別の証として着けられる」


 それを聞いても私は


「あの、でも、こんな素晴らしいアクセサリーもったいなくて、もらえません」


 『身に余る光栄』って言葉があるけど、眩いばかりの黄金と深紅の宝石は、ちっぽけな私の身には余りまくった。


「そうか。残念だが、お前がいらないなら処分するしかないな」

「えっ!? なんで、そうなるんですか!?」

「これはお前のために作ったと言ったはずだ。他のヤツにくれてやる気は無いから、お前がいらないなら、誰にも触れられないように無に還す」


 言いながら獣王さんは手の平に炎を出した。獣神の腕輪を装備した獣王さんは、変身しなくても自在に炎を操れるようだ。


「ダメです! こんな素晴らしい作品を消しちゃうなんて!」


 慌てて獣王さんを止めると


「だったら、やはりお前が受け取れ。ここにあるものだけじゃなく、これから俺が作るものは全部」

「あの、でも、そんなにもらって私は何を返せばいいんでしょうか?」


 そもそもマラクティカに来て以来、私は獣王さんからもらいっ放しだ。なんの恩返しもできていないのに、借りばかり増えていくのが申し訳なかった。


「俺が勝手にしたいだけのことに、お前が何か返す必要は無い。お前はただ俺が作るものを、さっきみたいに笑って受け取ればいい」


 確かに獣王さんの金細工を見た時、あまりの素晴らしさに感動して自然と笑顔になった。


「もし本当にそれでいいなら、これからも獣王さんの作品が見たいです」


 高価なものをもらうのは抵抗があるけど、綺麗なものを見るのは好きだ。獣王さんの作品を見せてもらうと考えればいいのかも。


 笑顔で答えると、獣王さんも微笑みながら私の頭を撫でて


「いつもとは言わないが、マラクティカにいる時くらいは身に着けろ。装飾品は置物ではなく、身を飾るためのものだからな」


 私は素直に獣王さんの要望に応えて、髪飾りと腕輪を身に着けた。


 「お金持ちみたい」と照れ笑いする私に、獣王さんは満足気に笑いながら


「生花も似合っていたが、マラクティカでは身分に応じて相応の財宝を身に着ける。お前は俺の特別な客だから、この姿のほうが相応しい」


 それから私は獣王さんに、美味しい食事をご馳走になった。


 給仕係の女性の獣人さんたちが


「王、旅人にいっぱい金の飾り着けている! 旅人、王妃みたい!」

「あの子いると王、幸せ! ずっとマラクティカいて欲しい!」


 女性同士でキャアキャア言い合っているけど、距離が遠くてちょっと聞こえない。


 満腹になった私は、また1杯だけお酒を飲んで、ふわふわと気持ち良くなり、そのまま眠ってしまった。


【レオンガルド視点】


 旅人はいつもどおり、最初はオドオドしていたが、うまい飯を食わせたら「ごはん美味しい」と一気に緊張が解けて、女が好む甘口の酒を美味そうに飲み、やがてとろとろと眠りについた。


 相変わらず警戒心の無い姿に呆れる反面、俺の頬まで緩む。


 俺は旅人の軽い体を抱き上げると


「コイツを寝かせて来る。片づけたら帰れ」


 給仕の女たちに声をかけて、その場を離れようとしたが


「王その子、お嫁さんにする!?」

「その子となら子ども作る!? 私たち世話する!」


 俺には妻も子もいない。人間の国と違ってマラクティカの王位は必ずしも子が継ぐものではないから、無理に作る気も無かった。


 ただ人気のある王だと、民のほうが王の血を引いた子を後継者にと望む。だから旅人との関係に、妙な期待をされているのは知っていたが


「帰れ」


 不機嫌に命じると、旅人を連れて寝室に行った。


 旅人をベッドに寝かせると、邪魔にならないように金の髪飾りや腕輪を外す。


 暗い部屋の中。旅人の隣に横になると、幼い寝顔をジッと見下ろしながら


「騎士にはああ言ったが、夫婦でもない男女が無目的にただ寄り添って寝るなんて、マラクティカでもあり得ない」


 旅人に手を伸ばして、指通りのよい髪をさらりとかき分けると


「だがお前とは、そのあり得ないことをしたくなる」


 ふっと顔を和ませて


「お休み、旅人」


 額に口づけを落とすと、小さな体を抱き寄せて眠った。


【ミコト視点】


 翌日。私は美味しい朝食をご馳走になると、央華国に戻ってリュシオンたちと合流した。


「けっきょく彼の王とは何も無かったと思っていいのか?」


 難しい顔のリュシオンに、私は笑いながら首を傾げて


「昨日は先に寝ちゃったから分からない。でも何も無かったと思う」


 強いて言うなら目が覚めた時。人型の獣王さんの寝顔が目に入って、人の姿のまま一緒に寝ちゃったんだと、ちょっと驚いた。


 でもただ一緒に寝ただけなら、もともとそういう約束だし、大丈夫だと思う。


 けれど私の報告にリュシオンは


「なぜ!? なぜあなたは男の隣で無防備に寝てしてしまうんだ!?」

「お姉ちゃんがぐっすり寝られたなら、何も無かったってことニャ。お前はいちいち騒ぎすぎニャ」

「お前はそう言うが、結果として何も無かったからって、危険を冒していいことにはならないぞ……」


 2人の会話を聞きながら、私は別れ際、獣王さんに


『また無事に戻って来い』


 と頭にキスされたことを思い出した。


 獣王さんは人嫌いの割にスキンシップが多くてドキドキするけど、露出の多いファッションといい、そういう文化なんだろう。


 恐らくおまじない的な意味だろうけど、リュシオンは怒りそうだから黙っておくことにした。


 それから私は獣王さんにもらった知恵の実を、リュシオンに食べさせた。


「ぐぇぇ、マズい」

「サーティカも吐きそうなくらいマズかったニャ。でも美味しかったら、また食べたくなっちゃうからマズくて良かったニャ」


 もし知恵の実が美味しかったら、食用に乱獲されていたかもしれない。マズいのもきっと意味があるのだろうと、2人の感想を聞いて思った。


「これで本当に異国の言葉が分かるようになったのだろうか?」

「街を歩けばすぐに分かるニャ。街の人の話を聞いてみるニャ」


 さっそく街に出て人々の会話に耳を澄ませると


「すごい! 本当に何を言っているか分かる!」


 リュシオンも異国の言葉が分かるようになり、私たちはグンと行動しやすくなった。

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