恋人の証明
これで問題は解決したかに見えた。
ところが人魚さんたちとの別れ際。彼女たちの1人が、船上の私たちを見上げて
「ねぇ。本当にその青い髪の彼は、あなたの恋人なの?」
やっぱりリュシオンが欲しいみたいだ。
「はい。彼は確かに私の恋人です。どうか奪わないでください」
リュシオンには、この嘘について事前に話していたので、黙って受け入れてくれた。
「じゃあ、恋人だって証拠を見せて。あなたたちが本当に愛し合っていると分かれば諦めるから」
人魚さんの要望に、リュシオンは狼狽えて
「こ、恋人の証拠って、いったい何をすれば?」
「恋人同士がすることと言えばキスじゃない? 人間は違うの?」
悪気なく尋ねる人魚さんに、リュシオンは取り乱して
「き、キス!? そんなことできるはずがない!」
「なんでそんなに動揺するの? やっぱり本当は恋人じゃないんじゃ……」
人魚さんたちの疑いが確信に変わる前に、急いで恋人のフリをしないと。
私とリュシオンはかなり身長差があるので、普通に立った状態では背が届かない。
私はリュシオンの肩に両手を置いて引き寄せると、自分も背伸びしながら彼の頬にキスした。
私にキスされたリュシオンは、遠目からも分かるほど真っ赤になった。
彼の反応を見た人魚さんたちは「なるほど」と瞠目して
「私たちがキスした時は青くなっていたのに、彼女にはあんなに真っ赤に」
「彼は確かにあなたのもの」
「流石に友人の恋人は奪えないわ。邪魔してゴメンね。お幸せに」
人魚さんたちは去って行った。
「やれやれ、やっと去ってくれたニャー」
隠れ蓑で姿を隠したサーティカが小声で呟く。
「リュシオン。ゴメンね。大丈夫?」
頬を押さえて震えている彼に声をかけると
「俺は大丈夫だが、あなたは良かったのか? 頬とは言え、男にキスして」
「よその男の人にするのは初めてだけど、お父さんにはよくしていたから」
年頃になってからは流石にしなくなったけど、子どもの頃は「お父さんにチューして?」と言われて、よくしていた。
「ち、父親以外では、俺が初めてだったのか?」
「うん……流石に、ちょっと恥ずかしかった」
冷静に考えると恥ずかしいなと照れると、リュシオンも「そ、そうか」と赤くなって俯いた。
それを見たサーティカは不穏な鳴き声を発しながら
「お姉ちゃんにチューしてもらったからって調子に乗るニャよ、ヘタレ……。王はお姉ちゃんと、何度も一緒に寝ているんだからニャ……」
「べ、別に調子になんて乗ってない……」
「リュシオンは嫌じゃなかった? リュシオンは女の人が苦手みたいだし、嫌な想いをさせちゃったらゴメンね」
リュシオンはよく色んな種族の女の人に襲われては絶叫している。だから多分、女性にベタベタされるのは嫌なんだろうなと謝ると
「いや、俺は別に……あなたになら……」
彼はもごもごと何か言ったけど、うまく聞き取れない。
はてなを浮かべていると
「って、痛ぁっ!? いきなり何をするんだ、サーティカ!?」
いきなりリュシオンの手を引っ掻いたサーティカは、シャーッと全力で威嚇しながら
「アルメリアとの約束を果たしただけニャ! お前がお姉ちゃんに色目を使う時! サーティカは、この爪でお前を引き裂くニャ!」
「い、色目なんて使ってない! いつも勝手にそういう方向に持って行くな!」
「言ったニャ!? じゃあ、もしお姉ちゃんに好きって言われても結婚しないニャ!?」
その問いにリュシオンは沈黙で答えた。
「シャーッ!」
私は荒ぶるサーティカを懸命に宥めた。
「リュシオンはそういう話題が苦手なだけで、私が好きなわけじゃないから大丈夫だよ」
サーティカはピョンと私に抱き着くと
「お姉ちゃん今度、王にもチューしに行くニャー。王には口にするニャー」
「どさくさに紛れて何を頼んでいるんだ!?」
リュシオンだけじゃなく私も驚いたけど、サーティカは本気みたいで
「だってリュシオンだけズルいニャ! 王だって、お姉ちゃんとチューしたいニャ!」
「理由も無くそんなこと許されるか! 絶対にダメだ!」
2人があんまり揉めるので、すごく困った。




