いつかこの旅が終わったら
サーティカの占いは、私に旅が終わった後の未来を考えさせた。
サーティカが寝た後。リュシオンからも
「サーティカじゃないが、ミコト殿は旅が終わったら、どうするんだ?」
「まだ分からないや」
苦笑いで返す私に、彼は少し言いづらそうに
「ミコト殿が良ければ、俺たちとエーデルワールで暮らさないか?」
思いがけない提案に目を丸くすると、リュシオンは切なげに私を見つめて
「お節介かもしれないが、あなたが1人で旅を続けるとしたら心配で、できれば俺の目の届くところにいて欲しい」
私は一度、彼の前で死にかけた。よほど心配をかけちゃったんだろうな。
フィーロにも、もしまた離れ離れになったら、エーデルワールかマラクティカで暮らすように言われた。
それでもリュシオンの誘いに、すぐに「うん」と言えずにいると
「サーティカの言うとおり、マラクティカで獣人たちと暮らすほうがいいか?」
その問いにも、私は言い淀む。
エーデルワールにもマラクティカにも大好きな人たちがいて、一緒に暮らせたらきっと幸せだ。
それでも今のところ定住しようと思えないのは
「私は目的を果たした後も、まだ旅を続けたいのかもしれない」
「どうして? 明日どうなるかも分からない暮らしは不安じゃないか?」
リュシオンの問いに、私は自分でもハッキリしない胸の内を語った。
前世の私は動きたくても動けず、人生のほとんどを変わらない景色の中で過ごした。
だからそれがどんなにいい場所でも、今はまだ変わらない景色の中に戻りたくない。
「1人で旅を続けるのは確かに不安だけど、毎日たくさんのものに驚きながら、変わる景色の中で生きていたいんだ」
最初はフィーロが、今はリュシオンとサーティカがいて、なんとか旅をしている半人前のくせに、身のほど知らずだなと苦笑しながら答えると
「そうか……あなたは根っからの旅人なんだな」
リュシオンは複雑な表情で微笑むと「でも」と続けて
「俺にミコト殿を引き留める権利は無いが、今は前に別れた時のように、半年に1回も顔を見られればいいとは思えない。あなたが傍にいないことに、きっと3日も耐えられない……」
繋ぎ留めるように私の手を取った。
「私がいないと耐えられないって、どうして?」
私もリュシオンが好きだけど、友人はひと時楽しい時間を共にしても、基本は別々の道を歩むもの。
彼といるのは楽しいけど、永遠の別れでなければ、私は「またね」と笑顔で旅立てる。
けれどリュシオンは苦しそうに私を見つめて
「俺はあなたが――」
何かを言いかけた瞬間。
ブッ。
私の膝で気持ちよく眠っていたサーティカが、おならをした。
「~っ、サーティカぁぁ……!」
話の腰を折られたリュシオンは、打ち震えながらサーティカに文句を言った。眠っていてもリュシオンを困らせるサーティカに、私はクスクスと笑ってしまった。
リュシオンもどうでもよくなったようで、ふっと顔を和ませると
「俺たちももう寝ようか」
「うん。おやすみ」
私たちはお休みの挨拶をすると、それぞれの寝袋に入った。けれど私は寝袋に入った後も、リュシオンの問いについて考えていた。
この旅が終わった後どうするか?
私の望みは先ほどリュシオンに話したとおり。まだどこかに落ち着く気にはなれなくて、変わる景色の中で生きていたい。
でも本音を言えば、それは1人ではなく、この世界に来た頃と同じ。
なんでも知っている気さくな鏡と、また旅をしたかった。
「……フィーロ」
彼といた時間を思い出し、少し涙すると静かに目を閉じた。




