サーティカの占いコーナー
長い船旅。娯楽が無くて退屈だからと、サーティカが占いをしてくれることになった。
「お姉ちゃんの運命の人をサーティカが占ってあげるニャ。まず運命の人が何人いるか、ダイスを振るニャ」
「運命の人って、普通は1人じゃないのか?」
リュシオンの質問に
「運命の人は結ばれる可能性のある人のことニャ。1人しかいなければ、その人を逃したら誰とも結ばれないニャ。複数いれば、その中の誰かと結ばれるニャ。このダイスにはゼロもあるから誰ともご縁の無い人もいるニャ。怖いニャー」
サーティカは楽しそうに言うと、さっそく私にダイスを振らせた。
「でもお姉ちゃんは、お婿さん候補が3人もいるニャ! モテモテニャー!」
ゼロじゃなくて良かったなぁと私はホッとした。
「次に3人の特徴をタロットで占うニャ。きっと『皇帝』か『力』が出るニャー」
どうして『皇帝』か『力』だと思ったんだろう?
首を傾げながらも、円状に広げられたタロットから1枚選ぶ。
私が引いたのは
「何が出たんだ?」
リュシオンの問いに、サーティカは残念そうに耳を伏せて
「カップのナイトニャ……」
「ナイトって騎士のことか?」
なぜか動揺するリュシオンに、サーティカはグリッと顔を向けて
「そうニャ! でも必ずしも騎士そのものを意味するわけじゃなく、20代から30代くらいまでの愛情深い男性を意味するニャ! お前のことじゃないニャ!」
「べ、別に俺のことだなんて思ってない……」
「気を取り直して次を引くニャー」
サーティカはてしてしとタロットを叩いて、私に次を引くように促した。
私が次に引いたのは
「ほらー! 皇帝が出たニャー! やっぱりお姉ちゃんは王と結ばれる運命ニャー!」
「皇帝だって、王そのものを意味するとは限らないんじゃないのか?」
リュシオンの言うとおり、カードは象徴であって、そのままの役職とは限らない。
しかしサーティカによれば
「皇帝は父性やリーダーや権力を象徴しているニャ。要するに男として頼もしい人物ニャ。王と特徴が合致しているニャー」
リュシオンは無言で悔しそうな顔をした。
「最後のタロットを引くニャ」
私が最後に引いたカードは
「『隠者』が出たニャ。隠者は知恵や真理を象徴するニャ。隠者は大抵、白髪の老人として描かれるニャ。老成した人物か、老人そのものかもしれないニャ」
「おじいさんと恋愛?」と首を傾げる私に
「年寄りと結婚してもいいことないニャ。かと言ってカップのナイトは、未熟なロマンチストで頼りないニャ。お姉ちゃんは大人の包容力溢れる王と結婚するニャー」
「最早それは占いじゃないだろ」
当たっているかはともかく、皆でワイワイ言い合うのが楽しかったので
「次はリュシオンを占ってみて」
「えっ? いや、俺は別に占ってもらわなくても」
リュシオンは遠慮したけど、私は彼がどんな人と結ばれるのか興味があった。
サーティカも、ちょっと意地悪な笑みで
「遠慮するニャ、リュシオン。サーティカ、お前の運命の人を占ってやるニャ。まずはダイスを振るニャー」
リュシオンは気が進まない様子だったけど、ダイスを振ってくれた。
「ぷくく、1人だって。リュシオン、お姉ちゃんと違ってモテないニャ。この1人を逃したら、お前は一生独り身ニャー」
「どうせ俺は恋愛下手だ……」
落ち込むリュシオンをよそに、サーティカはカードをシャッフルして円状に並べると
「次はタロットを引くニャ。きっと女帝かワンドのクイーンが出るニャ」
「なんでその二択なんだ?」
首を傾げるリュシオンに、サーティカはニコニコと
「だってお前の運命の人はアルメリアニャろ? 女帝は文字どおり、女王か身分の高い女性を示すニャ。ワンドのクイーンは4枚あるクイーンの中で、最も華やかで美しい女性ニャ。つまりアルメリアニャー」
「なんで皆、俺とアルメリア様を結び付けようとするんだ!?」
リュシオンは悲鳴を上げた。
私も2人はお似合いだと思うけど、アルメリアはよくリュシオンを痛めつけるから、本人は嫌なんだろうな。
「そんなに否定するなら、このタロットを引くニャー。その2枚以外が出たら、お前の運命の人はアルメリアじゃないと認めてやるニャー」
「グッ、俺にはクジ運も無いのに!」
全体的に不運なリュシオンは、恐る恐る1枚のタロットを引いた。その結果は
「やった! 愚者だ!」
ガッツポーズするリュシオンに、サーティカは白い目で
「愚者はそんなに喜ぶようなタロットじゃないニャ。愚者はその名のとおり、無謀な愚か者。お前はきっとこの犬みたいに、無邪気で無防備な彼女を止めるために苦労するニャ」
真面目で堅実なリュシオンの運命の人が、そんな破天荒なタイプだなんて意外だな。
「……ん? 前にも似たようなことを言われなかったか?」
不可解そうな顔をするリュシオンに、私も「確かにどこかで聞いたような?」と首を傾げた。
サーティカはなぜかハッとして
「そんなこと言ってないニャ! さーて次は王を占うニャ!」
無理やり話を切り替えると、獣王さんの代わりにダイスを振った。
「お前の王にも運命の相手が1人しかいないじゃないか。どうやらマラクティカの王も、お前の期待ほどモテないらしいな」
リュシオンの意趣返しに、サーティカは平気な顔で
「王はモテないんじゃなくて一途なんニャー。マラクティカの女の多くが身を捧げたがっているけど、王はただ1人しか愛さないって意味ニャ。お前とは違うニャー」
「次カードを引くニャー」とサーティカは、また獣王さんの代わりに、自分でタロットを引いた。
タロットを見たサーティカはニコッとして
「『力』のカードが出たニャ。やっぱり王の運命の人はお姉ちゃんニャ」
「なんで力なんてカードがミコト殿を指すんだ? 彼女は確かに勇敢だが、決して力強くも逞しくも無いだろう」
リュシオンの言うとおり。健康にはなったものの、力強さは皆無だ。
ところがサーティカによると
「タロットの絵柄をよく見るニャ。決して力強くも逞しくも無さそうな女性が、穏やかな微笑みでライオンを手懐けているニャ。力のタロットが示すのは肉体じゃなくて心の力。力じゃなくて心で王を止めた、まさにお姉ちゃんのことニャー」
「ぬぅぅ……」
リュシオンは唸っているけど、私が獣王さんを止められたのは、怠惰の指環と九命の猫による、まさに力押しだった気がする。
「最後に隠者さんの運命の人を占うニャー」
「なんで誰かも分からない男を占うんだ?」
「同じ人間でも男側の運命の人として占うと、違うタロットが出て面白いニャ。隠者さんにとって、お姉ちゃんはどんな存在なのかサーティカ、知りたいニャ」
サーティカは隠者さんの代理としてダイスを振った。
「隠者さんにとっても、お姉ちゃんただ1人の人ニャ。お姉ちゃん、モテるニャー」
肝心のタロットは
「『審判』のカードが出たニャ。審判が意味するのは復活や、これまでの行いへの結果ニャ」
「なんだか運命の相手っぽくない結果だな。そもそもこの占いは本当に当たっているのか?」
私もリュシオンと同感だった。運命の相手というか『復活』や『結果』は人物に対する言葉ではないので。
普段のサーティカなら「当たっているに決まっているニャ!」と怒りそうなところだけど
「サーティカ、隠者さんが誰か分からないまま占っているから、当たってないかもしれないニャ」
サーティカは素直に認めると
「ともかく審判には死んだような状態からの回復か、失ったものを取り戻す意味があるニャ。隠者さんにとってのお姉ちゃんは、そういう存在みたいニャ」
サーティカは広げたタロットをまとめながら
「でもカップのナイトと隠者が誰かは分からないニャ。だからお姉ちゃんは、王と相思相愛とだけ覚えておけばいいニャ」
「どさくさに紛れて歪んだ情報を擦り込むな。仮にマラクティカの王と縁があるとしても、彼女には他に2つも選択肢がある」
そもそも私は当たるも八卦当たらぬも八卦で聞いているので、自分に本当に3人も相手がいるとは信じがたいけど
「明らかに王がいちばんの良縁ニャー。お姉ちゃんは旅が終わったら、王と結婚してマラクティカに住むニャ。そうしたらサーティカとも、ずっと一緒に居られるニャ」
「ことあるごとにミコト殿をマラクティカに引き込もうとするな。旅が終わった後どうするかは、彼女が決めることだ」
2人の話を聞きながら、私は初めて、この旅の終わりを考えた。
この先、無事に悪魔の指輪を揃えて、フィーロの願いを叶えた後。私は誰と、どんな風に生きて行くのだろう。




