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ほろ酔いモフモフ重なって

 夜。獣王さんの厚意で、私たちのためにご馳走が用意された。


「今回は食事にも酒にも何も入っていない。安心して食え」


 獣王さんの言葉に、リュシオンは怪訝な顔で


「今回はってなんだ? 彼女に何か盛ったことがあるのか?」

「前にお酒か何かに睡眠薬を盛られて、その隙にフィーロを壊されちゃったんだ」


 私の説明に、リュシオンは信じられないという顔で


「だから何故そんな目に遭わされて、あなたはこの男と仲良くしているんだ!?」


 するとサーティカが白い目で口を挟んで


「お姉ちゃんは、お前と違って懐が深いニャ。じゃなかったら、お前たちとの縁だってとっくに切っているニャ」

「サーティカの言うとおりだ。お前たちだってコイツの鏡を盗んで、自国の問題に巻き込んだくせに。自分だけ無害みたいな口ぶりをするな」


 獣人さんたちの厳しい指摘に、リュシオンはどんよりして


「確かに、そのとおりだ……。あなたは俺を含めて全面的に交友関係を見直すべきかもしれない……」


 彼の勧めに、私は苦笑いで


「そうしたら友だちがいなくなっちゃうよ。時々行き違うことがあっても、お互いを想う気持ちが本物なら、私はこれからも皆と友だちでいたいよ」


 私としては普通のセリフなのだけど、リュシオンは「うぅ」と声を震わせて


「もう誰も彼女を裏切らないでくれ……」

「お前まだ1杯も飲んでないのに、もう酔っているニャ?」


 サーティカたちをよそに「ご飯美味しい」とモリモリ食べていると


「確かに安心しろとは言ったが、お前はもう少し気にしろ」


 獣王さんのコメントの後。


 私はフィーロの助言を守って1杯だけお酒を飲んだ。たった1杯で体がポカポカ。頭がフワフワする。


 本当に美味しいお酒なので


「リュシオンは飲まないの?」

「俺はあなたの護衛だから、酔って正体を無くすわけにはいかない」

「でも本当に美味しいお酒だから、リュシオンにも飲んで欲しい」


 笑顔で勧めても、リュシオンは困り顔で


「いや、でも……」

「たまにはリュシオンを(ねぎら)わせて?」

「……じゃあ、1杯だけ」


 再度勧めると、リュシオンは私が注いだ果実酒に口をつけて


「酒と言うにはかなり甘口で、ジュースみたいだな」

「それは女が好む酒だ。甘いのが苦手な男はこっちを飲む」


 獣王さんは自分のお酒をリュシオンに回してくれた。リュシオンは素直に彼のお酒を飲んで


「ああ、なるほど。俺にはこっちのほうが飲みやすいな」


 リュシオンと獣王さんが普通に話しているのを見た私は


「2人が仲よくしてくれて嬉しい」


 ところが指摘した瞬間、2人はスッと距離を取って


「悪いが彼とは仲良くできない」

「俺も人間なんかと相容れる気は無い」

「だったら彼女とも距離を取ってくれ。ミコト殿は人間だ」

「ソイツはよその世界から来たんだろう? だったらお前たちと同じ人間ではない」


 またギスギスする2人に、なぜすぐ険悪になるんだろうと困っていると


「異性を巡って争うのは人間も獣人も同じニャー。でも2人とも、お姉ちゃんに嫌われたくないから殺し合いはしないニャー。平和ニャー」


 私と違って全く動じないサーティカは大人だなぁと感心した。


 食事を終える頃には、私はお酒のせいで少しウトウトしていた。


「眠そうだな。送って行くから部屋に行こう」


 手を差し伸べるリュシオンに、私は目を擦りながら頷くと、彼の手を取って席を立った。


 そんなリュシオンを獣王さんは横目で見て


「襲うなよ」

「あなたと一緒にしないでくれ」


 最後まで言い合うと、リュシオンは私を客間に送ってくれた。


 しかし扉を閉じる前に、彼はふと口を開いて


「……無いとは思うが万が一、彼の王がやって来ても絶対に部屋に入れてはダメだ。もし強行するようなら大声を出して俺を呼んでくれ」


 リュシオンの注意に私は


「でも久しぶりだから獣王さんと寝たい」

「だから彼は動物のように見えても異性だから、一緒に寝てはダメだ!」


 リュシオンとケンカしたくないけど、獣王さんの素晴らしい毛並みを思い出して


「でも獣王さんは、すごく大きくてモフモフで気持ちいいんだよ?」


 悲しそうに訴える私に、リュシオンは弱った様子で


「俺もあなたの楽しみを邪魔したくないが、こればかりはダメだ。いい子だから聞き分けてくれ」


 しゅんとする私の頭を撫でた。


 それでも私は諦め切れず、目を潤ませながら


「肉球を触らせてもらうのもダメ?」

「肉球……」


 リュシオンは、いよいよ私にとって獣王さんは動物なのかもしれないと思ったのか


「分かった。じゃあ俺が居るところで、肉球を触るだけなら」


 リュシオンの許可が出たので、私は彼と獣王さんの部屋を訪ねた。


「なんでソイツの監視のもと、お前に肉球を触らせなきゃいけないんだ」


 難色を示す獣王さんに、リュシオンは刺々しい笑みで


「嫌ならぜひ断ってくれ。俺だって本当は彼女にあなたを触らせたくないんだ」

「コイツに触らせるのが嫌なんじゃなくて、お前に監視されるのが嫌なんだ」

「こんな夜中に若い男女を2人きりにはできない」


 私の頭上で、また彼らがバチバチと睨み合う。


「あの、ちょっとだけ肉球を触らせてください。そうしたら、すぐに帰るので」


 酔っているせいか、いつも以上にモフモフ欲をコントロールできない。


 態度だけは控えめに、図々しい要求をする私に


「俺にそんな頼みをするのは、お前くらいだ」


 獣王さんは溜息を吐くと、巨大な獅子になってくれた。


 お酒で理性喪失中の私は「わー」と目の前のモフモフに抱き着いた。


「ちょっ!? ミコト殿! 約束が違う!」

「好きにさせてやれ。これがコイツの望みだ」


 獣王さんは大きな獣の手で私を抱き寄せると、頭を撫でてくれた。


 私は大きなものに包まれる安堵と心地よさで、急速に眠りに落ちた。

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