再びお風呂ドッキリ【視点混合】
私たちは忘却の小槌で記憶を奪われた。特にサーティカは奴隷にされかけて、とても怖い想いをした。
旅を再開する前にサーティカをケアしたい。そこで私たちは一度マラクティカに帰ることにした。
「マラクティカ、人間は入っちゃいけない国ニャ。サーティカたちがマラクティカに居る間、リュシオンも里帰りしているニャ」
置き去りにしようとするサーティカに、リュシオンはムッとして
「俺はミコト殿の護衛としてついて来たんだ。獣の国に1人で行かせられない」
「お姉ちゃん、王の大事な人ニャ。王の大事な人、誰も傷つけないニャ」
「俺はその王を警戒しているんだ!」
2人が一歩も譲らないので、けっきょく3人で行くことになった。
マラクティカに行くと、獣王さんは兵士さんたちの訓練をしていた。
マラクティカは死の砂漠によって、外界から護られている。しかし死の砂漠に出る魔獣が獣人さんたちを捕食しようと、マラクティカをたびたび襲うそうだ。獣王さんと兵士さんたちは魔獣を退治して、マラクティカの平和を護っていた。
獣王さんは私とサーティカの帰還を知ると、すぐに訓練を切り上げて
「ひと月に一度は顔を見せろと言っただろう。もう5日も過ぎている」
挨拶よりも先に褐色の逞しい腕に、ギュッと抱き締められる。
獣王さんとの約束を忘れたわけじゃないけど、旅をしていると、どうしても月日の経過が曖昧になってしまう。
「約束を忘れたわけじゃないんですけど、最近ちょっと色々あって。待たせてしまって、すみません」
獣王さんの腕から逃れるより、謝罪を優先する私の代わりに
「だから、それは恋人の距離感だ。彼女はあなたの恋人では無いのだから、弁えてくれ。マラクティカの王」
リュシオンは怖い顔で、私と獣王さんをベリッと引きはがした。
「旅人、余計な人間を連れて来るな。お前以外の人間が入ることは許可してない」
「サーティカも許可してないニャ~。今からでも死の砂漠に捨てて来るニャ~」
サーティカの発言に私はギョッとして
「勝手に連れて来て、すみません。でもリュシオンは大事な旅の仲間だから、一緒に居させてもらえませんか?」
頼んだ後で、サーティカを故郷で休ませてあげるのが目的だったと気づいて
「どうしてもダメならサーティカだけ置いて、私たちは後で迎えに来るので」
「なるほど、そういう手もあるな。サーティカが里帰りしている間、俺たちはエーデルワールで休もう」
リュシオンは早口で言うと、私の肩を押して引き返そうとした。
今度は獣王さんが、ガシッと彼の腕を掴んで
「ソイツは俺の客だ。勝手に奪うな」
獣王さんとリュシオン、なんでいつもバチバチなんだろう……。
睨み合う2人に目を丸くしていると
「お姉ちゃん、行っちゃダメニャー。お姉ちゃんが居ないと、サーティカ寂しいニャー」
サーティカが真正面から抱き着いて、ウルウルと私を見上げて来る。
「じゃあ、リュシオンも一緒でいいですか?」
遠慮がちに尋ねると、獣王さんは一瞬不機嫌そうな顔をしたけど
「……いいだろう。お前の大事な仲間だと言うなら、せいぜいもてなしてやる」
なぜか一転して不敵に笑うと
「そうと決まったら旅の垢を落として、その暑苦しい服を着替えて来い」
旅の垢はともかく、確かに今の服装でマラクティカは暑い。
私たちは獣王さんの勧めどおり、身を清めて服を着替えることにした。
「お前は特別な客だから、王の泉を使っていい。その男は別に怪我もしてないし、普通の浴場に入れとけ」
「了解ニャー」
「扱いが違いすぎる……。まぁ、歓待されても気持ち悪いが……」
【リュシオン視点】
ミコト殿が王の泉を使わせてもらっている間。俺は治癒の泉ではない、普通の浴場に案内された。
「リュシオン。着替え、ここに置いておくニャー」
「ああ、ありがとう」
人払いしてくれたのか、浴場には俺だけだった。人間の世界では温浴が基本だが、常夏のマラクティカは水風呂が普通らしい。
確かに、この気候では冷たい水が気持ちいいな。
しかしリラックスしたのも束の間。急に浴場の外が騒がしくなって
「すごい。本当に人間の男いる」
「耳の形が変だけど、顔はいいピョー」
人頭の若い女性たちが、またも最低限胸と腰回りを覆うだけの薄着で入って来た。
「なっ!? なんで女性がここに入って来る!?」
距離を取ろうとする俺に、彼女たちはニコニコと近付いて
「旅人さんの友だちが水浴びしているから、もてなしてやれって王が」
「またか!? 何がしたいんだ、あの男は!?」
「人間は嫌いだけど、旅人さんの友だちは別ピョ。いい男だし、サービスするピョー」
何を考えているのか人頭の女性たちは、また自ら服を脱ぎ出した。
望まぬサービスに俺はギョッとして
「なんですぐ脱ごうとするんだ!? そんなサービスは要らない! 出て行ってくれ!」
すり寄って来る人頭の女性たちから、ほうほうのていで逃げ出した後。
俺はマラクティカの王と中庭で顔を合わせた。
向こうも王の泉以外の場所で身を清めたようで、さっぱりした恰好だった。
「水浴びは楽しめたか? 人間の戦士」
意地悪に笑うマラクティカの王に、俺はやはり嫌がらせかと悟って
「不意打ちのように女性を送り込むのは、やめて欲しい。あなたが普段女性たちと何をしていようが勝手だが、俺には恋人でもない異性と享楽に耽る趣味は無いんだ」
言外に悪趣味を責めるも、マラクティカの王は特に動じず
「だが女たちは、お前を気に入ったようだ。マラクティカの女は人間と違って、気に入った男は自ら狩りに行く。ここに居座りたいなら、誘惑くらい自力で振り切れ」
「ぐぅぅ……」
またも険悪になっていると




