表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/122

再びお風呂ドッキリ【視点混合】

 私たちは忘却の小槌で記憶を奪われた。特にサーティカは奴隷にされかけて、とても怖い想いをした。


 旅を再開する前にサーティカをケアしたい。そこで私たちは一度マラクティカに帰ることにした。


「マラクティカ、人間は入っちゃいけない国ニャ。サーティカたちがマラクティカに居る間、リュシオンも里帰りしているニャ」


 置き去りにしようとするサーティカに、リュシオンはムッとして


「俺はミコト殿の護衛としてついて来たんだ。獣の国に1人で行かせられない」

「お姉ちゃん、王の大事な人ニャ。王の大事な人、誰も傷つけないニャ」

「俺はその王を警戒しているんだ!」


 2人が一歩も譲らないので、けっきょく3人で行くことになった。


 マラクティカに行くと、獣王さんは兵士さんたちの訓練をしていた。


 マラクティカは死の砂漠によって、外界から護られている。しかし死の砂漠に出る魔獣が獣人さんたちを捕食しようと、マラクティカをたびたび襲うそうだ。獣王さんと兵士さんたちは魔獣を退治して、マラクティカの平和を護っていた。


 獣王さんは私とサーティカの帰還を知ると、すぐに訓練を切り上げて


「ひと月に一度は顔を見せろと言っただろう。もう5日も過ぎている」


 挨拶よりも先に褐色の逞しい腕に、ギュッと抱き締められる。


 獣王さんとの約束を忘れたわけじゃないけど、旅をしていると、どうしても月日の経過が曖昧になってしまう。


「約束を忘れたわけじゃないんですけど、最近ちょっと色々あって。待たせてしまって、すみません」


 獣王さんの腕から逃れるより、謝罪を優先する私の代わりに


「だから、それは恋人の距離感だ。彼女はあなたの恋人では無いのだから、弁えてくれ。マラクティカの王」


 リュシオンは怖い顔で、私と獣王さんをベリッと引きはがした。


「旅人、余計な人間を連れて来るな。お前以外の人間が入ることは許可してない」

「サーティカも許可してないニャ~。今からでも死の砂漠に捨てて来るニャ~」


 サーティカの発言に私はギョッとして


「勝手に連れて来て、すみません。でもリュシオンは大事な旅の仲間だから、一緒に居させてもらえませんか?」


 頼んだ後で、サーティカを故郷で休ませてあげるのが目的だったと気づいて


「どうしてもダメならサーティカだけ置いて、私たちは後で迎えに来るので」

「なるほど、そういう手もあるな。サーティカが里帰りしている間、俺たちはエーデルワールで休もう」


 リュシオンは早口で言うと、私の肩を押して引き返そうとした。


 今度は獣王さんが、ガシッと彼の腕を掴んで


「ソイツは俺の客だ。勝手に奪うな」


 獣王さんとリュシオン、なんでいつもバチバチなんだろう……。


 睨み合う2人に目を丸くしていると


「お姉ちゃん、行っちゃダメニャー。お姉ちゃんが居ないと、サーティカ寂しいニャー」


 サーティカが真正面から抱き着いて、ウルウルと私を見上げて来る。


「じゃあ、リュシオンも一緒でいいですか?」


 遠慮がちに尋ねると、獣王さんは一瞬不機嫌そうな顔をしたけど


「……いいだろう。お前の大事な仲間だと言うなら、せいぜいもてなしてやる」


 なぜか一転して不敵に笑うと


「そうと決まったら旅の垢を落として、その暑苦しい服を着替えて来い」


 旅の垢はともかく、確かに今の服装でマラクティカは暑い。


 私たちは獣王さんの勧めどおり、身を清めて服を着替えることにした。


「お前は特別な客だから、王の泉を使っていい。その男は別に怪我もしてないし、普通の浴場に入れとけ」

「了解ニャー」

「扱いが違いすぎる……。まぁ、歓待されても気持ち悪いが……」


【リュシオン視点】


 ミコト殿が王の泉を使わせてもらっている間。俺は治癒の泉ではない、普通の浴場に案内された。


「リュシオン。着替え、ここに置いておくニャー」

「ああ、ありがとう」


 人払いしてくれたのか、浴場には俺だけだった。人間の世界では温浴が基本だが、常夏のマラクティカは水風呂が普通らしい。


 確かに、この気候では冷たい水が気持ちいいな。


 しかしリラックスしたのも束の間。急に浴場の外が騒がしくなって


「すごい。本当に人間の男いる」

「耳の形が変だけど、顔はいいピョー」


 人頭の若い女性たちが、またも最低限胸と腰回りを覆うだけの薄着で入って来た。


「なっ!? なんで女性がここに入って来る!?」


 距離を取ろうとする俺に、彼女たちはニコニコと近付いて


「旅人さんの友だちが水浴びしているから、もてなしてやれって王が」

「またか!? 何がしたいんだ、あの男は!?」

「人間は嫌いだけど、旅人さんの友だちは別ピョ。いい男だし、サービスするピョー」


 何を考えているのか人頭の女性たちは、また自ら服を脱ぎ出した。


 望まぬサービスに俺はギョッとして


「なんですぐ脱ごうとするんだ!? そんなサービスは要らない! 出て行ってくれ!」


 すり寄って来る人頭の女性たちから、ほうほうのていで逃げ出した後。


 俺はマラクティカの王と中庭で顔を合わせた。


 向こうも王の泉以外の場所で身を清めたようで、さっぱりした恰好だった。


「水浴びは楽しめたか? 人間の戦士」


 意地悪に笑うマラクティカの王に、俺はやはり嫌がらせかと悟って


「不意打ちのように女性を送り込むのは、やめて欲しい。あなたが普段女性たちと何をしていようが勝手だが、俺には恋人でもない異性と享楽に耽る趣味は無いんだ」


 言外に悪趣味を責めるも、マラクティカの王は特に動じず


「だが女たちは、お前を気に入ったようだ。マラクティカの女は人間と違って、気に入った男は自ら狩りに行く。ここに居座りたいなら、誘惑くらい自力で振り切れ」

「ぐぅぅ……」


 またも険悪になっていると

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ