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理想のワードローブ

 残りの悪魔の指輪についての情報を手に入れた私たちは旅を再開した。


 でも旅のメインは移動より生活だ。要するに飲食費や宿代を稼がなきゃいけない。


 私たちは一足飛びのブーツを持っているのだから、いちいちエーデルワールやマラクティカに戻ることもできる。けれど、いくら相手がいいと言ってくれるからって、アルメリアや獣王さんに生活の面倒をかけるのはよくない。


 だからフィーロを失った後も彼に教えられたとおり、不用品の買い取りや魔女の万能鍋で作った薬やアイスを売って稼いでいた。


 ただ魔法の力だとはバレずとも、よそ者の商売が流行っていると、お金を持っていると思われて、よく強盗に狙われた。


 しかしそんな時はリュシオンが、私が貸した怠惰の指環で、迅速かつ誰も傷つけず無力化してくれた。


 ちなみに、こういう悪人さんたちは、すでに事件を起こして賞金をかけられていることが多いので


「お姉ちゃんが商売していると、お金目当ての悪党が寄って来るニャ。それをリュシオンが指輪でやっつけて、お近くの自警団に引き渡すニャ。謝礼ももらえるし、街の掃除にもなって一石三鳥ニャ~」


 サーティカはホクホクだけど、リュシオンは難しい顔で


「お前は楽しそうだが、俺はミコト殿を囮に悪党を捕まえているようで、あまり嬉しくない。アルメリア様がたくさん旅費をくださったし、無理に稼がなくてもいいのでは?」

「そういう意味ではちまちま稼がなくても、マラクティカには(きん)や宝石がたくさんあるニャ。お姉ちゃんは王に気に入られているから、言えばきっとたくさんくれるニャ~」

「……いや、あまり異性に借りは作らないほうがいい。特にマラクティカの王には」


 2人はアルメリアや獣王さんに頼ればいいと言ってくれるけど


「2人には迷惑をかけちゃうけど、私はなるべく自分の力で稼ぎながら旅をしたいんだ。人にお金をもらうのが申し訳ないのもあるけど、不用品を買い取ったりアイスや薬を売ったりしたら、お客さんが喜んでくれるから」


 この旅のいちばんの目的は、悪魔の指輪を集めてフィーロを元の体に戻してあげることだ。


 けれど私自身の夢として、できるだけ多くの人の役に立ちたい。けっきょく道具さんたち頼りではあるけど、なるべく自分の力で生きてみたかった。


 その気持ちを2人に話すと


「確かに。あなたに不用品を買い取ってもらったり、アイスや薬を売ってもらったりした客たちは、皆とても喜んでいたな」

「自警団の人たちも、自分の代わりに悪党を捕まえてくれて助かるって言っていたニャ。お姉ちゃんはそういう旅がしたいんニャね」


 2人の言葉に、私はコクンと頷いた。


 それに不用品の買い取りをしていると、たまに思いがけない出会いがある。


 それは「大きなものだから家まで取りに来て」と頼まれて、家具の回収にとある民家を訪ねた時。


「わざわざ買い取りに来てもらったのに悪いけど、実はその衣装タンス変なのよ。いくら服を仕舞っても、気づいたら外に出ちゃっているの。要するに『服を仕舞えない変な衣装タンス』なんだけど、これも買い取ってもらえるの?」


 持ち主のおばさんは不安そうに尋ねた。


 おばさんも不思議そうだけど、仕舞った服が勝手に出ちゃう衣装タンスって、いったいなんだろう?


 リュシオンだけでなく、サーティカとも相談したいので


「まずはよく見せていただいてもいいですか?」


 おばさんに一度部屋を出てもらった。


 おばさんが部屋を出ると、すぐにサーティカが隠れ蓑を脱いで姿を現して


「お姉ちゃん、この衣装タンス、不思議な感じがするニャ。さっきのおばさんも変な現象が起きると言っていたし、神の宝かもしれないニャ」

「仕舞った服を勝手に吐き出すって、いったいどんな神の宝だ?」


 リュシオンが困惑するのも当然で、神の宝は基本的に便利な能力を持っている。


 それが服を仕舞えない衣装タンスじゃ、かえって不便だ。


「じゃあ、この衣装タンスを一度『飛び出す絵本』に仕舞ってみよう」

「能力が分からなくても、いちおう回収するってことニャ?」

「ううん。飛び出す絵本は収納したものについて、簡単な説明をつけてくれるから。もしかしたら、この衣装タンスがどんなものか少しは分かるかもって」


 サーティカに意図を話しながら、さっそく謎の衣装タンスを飛び出す絵本に収納する。


 すると衣装タンスの絵とともに説明が浮かび上がって


 【理想のワードローブ】


『どんな服が欲しいか言いながら開けると、頼んだとおりの服が出る』


 私の横から説明を覗き込んだリュシオンは


「なるほど。理想の服を出すための服で収納用じゃないから、仕舞った服を吐き出していたのか」

「やっぱりこれも神の宝だったみたいニャね。お姉ちゃんの言うとおり、人助けしているといいことあるニャ~」


 それから私は持ち主のおばさんに、多めの金額を払って『理想のワードローブ』を購入した。


 本当はこのワードローブには、値段がつけられないほどの価値がある。それを知らせずに買い取るのは少し罪悪感だ。


 けれど私がそうだったように、神の宝を持っていると、必ず奪おうとする者が寄って来る。おばさんの安全のためには、やはりこのワードローブは無いほうがいいだろう。


 新たな神の宝を手に入れた私たちは、また次の街に向かった。

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