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残りの悪魔の指輪について

 これまで手に入れた悪魔の指環は、強欲の指環。怠惰の指環。暴食の指環。憤怒の指環の4つ。


 悪魔の指環は全部で7つなので、残り3つ集めなければならない。


「残り3つの指環について名前だけでも分かればいいが」

「お姉ちゃんの鏡は、何か言ってなかったニャ?」


 リュシオンとサーティカの問いに少し困る。フィーロからは残りの指環の名称や能力について、まだ聞いていなかった。


 でも悪魔の指環の名前は『七つの大罪』になっているのかもとは予想している。ただ七つの大罪は知っていても、その罪の1つ1つまでは覚えていなかった。


「逆に悪魔の指環の所有者たちは、どうやって悪魔の指環の力を知ったのだろう?」

「偶然手に入れて、実際に使って効果を知ったのかニャ?」


 サーティカの言うとおり、実際に使って効果を知った可能性もある。


 少なくとも自分を硬貨にしてしまった強欲の指環の持ち主は、完全に使い方を知っていたわけでは無いはずだ。


「前の所有者たちに聞けば何か分かるかも」


 私の提案に、リュシオンは困り顔で


「しかし悪魔の指輪の所有者は、たいてい悪人だったのでは?」


 彼の言うとおり。


 強欲の指輪は泥棒さんが。


 怠惰の指輪はクリスティアちゃんの家を乗っ取った伯母さんが。


 暴食の指輪は集団ぽっちゃり事件の犯人である女生徒が。


 憤怒の指輪は夫婦の仲を引き裂こうとした執事さんが持っていた。


 悪魔の指輪の所有者はただでさえ悪人の上、私とフィーロに罪を暴かれた人ばかりだ。もし会えたとして快く質問に答えてくれそうではない。


 ただ思い返せば1人。円満に別れた所有者が居た。それは暴食の指環の持ち主だったイザベラという女の子。


「イザベラさんなら質問に答えてくれるかも」

「少しでも可能性があるなら当たってみたらいいニャ」

「一度行ったことのある場所なら、一足飛びのブーツで簡単に移動できる。会いに行ってみよう」


 ただイザベラさんは警備の厳しい全寮制の名門学園の生徒だ。あの時は貴族のご令嬢に渡りをつけてもらったけど、今はなんの伝手も無い。


 一足飛びのブーツは地名だけでなく、会いたい人の名を呼ぶだけで会いに行ける。けれど日中だと、学園に出てしまう可能性が高い。


 私の懸念に、サーティカは


「じゃあ、夜に行けばいいニャ。夜なら自分の部屋に居るはずニャ」

「女性の部屋に行くなら俺は遠慮したほうがいいだろう。サーティカも無闇に人目に触れないほうがいいから、俺はこの子と宿屋で待機している。ミコト殿だけで行ってくれ」


 私はリュシオンの言葉に頷くと、1人でイザベラさんのもとに飛んだ。


 イザベラさんは学園の寮に住んでいて、幸い1人部屋だった。彼女は私たちとの約束を守り、自室でストイックにダイエットに励んでいた。


「キャアッ!? 嘘、なになになに!?」


 とつぜん自室に現れた私に、イザベラさんは動転した。


「ゴメンね、とつぜん驚かせて。前に暴食の指輪の件で、あなたに会いに来た者なんだけど、覚えてないかな?」


 前とは髪型も服装も違うので説明すると、イザベラさんは「ああ」と納得して


「あなた、カンナギさんだったの? ずいぶん姿が変わったから分からなかった」


 彼女が落ち着いてくれた矢先。


「イザベラさん? すごい悲鳴でしたけど、大丈夫ですの?」


 ドア越しに声をかけられてギクッとする。イザベラさんは私を物陰に隠すと、細くドアを開けて


「うるさくしてゴメンなさい。窓から大きな虫が入って来て、思わず叫んでしまったの」

「まぁ、そうでしたの。虫は明かりに寄って来ますから、夜は窓を開けないほうがいいですわ」

「ええ、次からはそうします。ありがとう」


 ふぅとドアを閉めるイザベラさんに


「誤魔化してくれて、ありがとう」

「それはいいけど、今日はなんの用?」

「実は悪魔の指輪について、知っていることがないか聞きたくて」

「悪魔の指環のことなら、私よりフィーロさんのほうが詳しいんじゃ?」


 不可解そうなイザベラさんに、私はフィーロを失ったことを話した。


「あっ、そうだったの……ゴメンなさい」

「ううん。フィーロはこの世界から消えただけで、死んだわけじゃないから大丈夫」


 気を取り直して、再び悪魔の指輪について尋ねると


「う~ん……確かな情報とは言えないけど」


 イザベラさんは机の引き出しから1冊の本を取り出して


「これ、黒魔術とか呪いのアイテムについて書かれた本。ほら、あなたも知ってのとおり、あたし学校でいじめられていたから。なんか効きそうな呪いが無いかなって、一時期調べていたの」


 この本で悪魔の指環を知ったそうだ。


 しかもその内の暴食の指環をオカルト好きの彼女の祖父が所有しており、遺品としてイザベラさんの家に流れて来た。


「あたしが子どもの頃から家にあったんだけど、見た目が恐ろしいだけじゃなく、どことなく不吉だからと長年放置されていたの。でもあたしが暴食の指環だと気づいて、父に頼んで自分のものにしたってわけ」


 イザベラさんは暴食の指環を手に入れた経緯を話すと


「良かったら、この本、カンナギさんにあげるわ。最近少しだけど友だちができて、たまに部屋に遊びに来るから。誰かに見つかる前に処分しなきゃって、ちょうど考えていたところなの」


 「読んだら捨てていいから」と本をくれた。


 私はイザベラさんにお礼を言うと、宿屋で待つリュシオンとサーティカのもとに戻った。


 私から本を受け取ったリュシオンはページを開くと


「良かった。この本に残りの3つの指環についても書いてある。傲慢の指環は触れた相手を言いなりにし、嫉妬の指環は触れた相手の体を奪い、色欲の指環は触れた相手の……」


 ピタリと言葉を止めるリュシオンに、サーティカは首を傾げて


「色欲の指環は触ると、どうなるニャ?」

「触れた相手のせ、せ、せ……」

「セックスしたくなるニャ?」

「違う! 性欲を掻き立てると言いたかったんだ!」


 真っ赤な顔で叫ぶリュシオンに、サーティカは白い目で


「同じことニャ。照れるほうが恥ずかしいニャ」

「とにかくそういう指環らしい……」


 残りの指環について分かったところで


「残りの指環の詳細が分かったから、サーティカ、占いできそうニャ。それぞれの指環について占ってみるニャ!」


 サーティカはタロットや様々な色や形の石を使って「ふむふむ」と占いをはじめた。


「傲慢の指環と嫉妬の指環は、サーティカたちが探さなくても自然と出会うみたいニャ。向こうも悪魔の指環を探しているのかもしれないニャ」

「7つ集めると願いが叶うことまでは知らなくても、大きな力を秘めた指輪だから、欲しがる者も確かに居るだろうな」


 リュシオンの言うとおり。『暴食』と『憤怒』は使いにくいけど、『怠惰』は触れるだけで相手を無力化し『強欲』は、あらゆるものをお金に変える。


 怠惰と強欲の指輪は私もよく使うので、欲しがる気持ちが理解できた。


「最後の色欲の指環はすごく遠く。遥か海の向こうの国にあるニャ」

「遥か海の向こうの国か。そこまでどうやって行けばいいか、具体的な地名は分かるか?」


 リュシオンの問いに、サーティカは首を振って


「具体的な地名までは分からないニャ。でもサーティカ多分、どっちに行けばいいか勘で分かるニャ。適当について来るニャ」

「勘とか適当とか、かなり不安だな……」


 微妙な顔のリュシオンに、サーティカはシャアッと怒って


「じゃあ、他に当てがあるニャ!? 代案なき批判は禁ずるニャ!」

「まぁ、それは確かにそうだ。具体的な情報が手に入るまでは、サーティカを頼りに進むしかないか」


 こうして私たちはしばらくサーティカの


「あっちが良さそうニャ」

「こっちな気がするニャ」


 という、その場その場の勘に従って、旅することになった。

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