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罪と許し

 王城に入った私とリュシオンは、すぐに謁見の間に向かった。さっそく知らせを受けたアルメリアがやって来て


「ああ、リュシオン! 良かった! もう会えないかと!」


 涙ながらにリュシオンに抱き着いた。


 アルメリアは、よほどリュシオンを心配していたみたいだ。お母さんのフィオナさんもすごく怒っていたし、リュシオンはどんな風にエーデルワールを出たんだろう?


 私の疑問に、アルメリアは


「リュシオンは獣王にあなたを任せたものの、やっぱり心配だったようで、その日のうちに「マラクティカに行く」と書置きを残して、勝手に国を出てしまったんです」


 リュシオンは本当に誰にも相談せず、無許可で私を捜しに来たのか。


 そんなに心配してくれてありがたい反面、そんなことしちゃって良かったのかなと心配になる。


「ミコトさんの安否が気になって居ても立ってもいられない気持ちは分かりますが、マラクティカに行くには死の砂漠を越えなければならない。全知の大鏡を失った今、無事に通り抜けられるはずは無いと、わたくしも彼の家族も、リュシオンはもう戻らないだろうと半ば諦めていたのです」


 実際リュシオンは私とサーティカが来なかったら、あのまま死んでいたので間違いじゃない。


 無事だったんだからいいじゃないとは言えないくらい、リュシオンは本当に危ない橋を渡って来たんだな。


 それはリュシオンも重々承知のようで


「アルメリア様の許可も得ずに、勝手に国を出て申し訳ありませんでした。降格でも解雇でも慎んでお受けします」

「この馬鹿リュシオン! ただでさえ国が混乱している時に、竜騎士のあなたをクビにして、こちらになんの得がありますの!? 生きて帰ったなら我が国とあなたのご家族のために、馬車馬のように働けですわ!」


 アルメリアはリュシオンをバシバシと平手で叩きながらも、処罰は考えていないようだ。


 厳罰を覚悟していたリュシオンは、かえって困り顔で


「ですが、アルメリア様が許してくださっても他の兵士たちに示しがつかないのでは?」

「あなたの家族とわたくし以外は、リュシオンが正式な任務としてミコトさんを取り返しにマラクティカに行ったと思っていますわ。あなたとお家の名誉を守ってあげた、わたくしに感謝なさい」


 得意げなアルメリアに反して、リュシオンは眉をひそめて


「しかしそれは嘘では? 実際は俺の独断で旅立ったのに、アルメリア様に嘘を吐かせて保身を図るわけには……」

「この強情者! あなたの人生は自分だけのものだとでも思っていますの!? あなたを大切に想う人を悲しませないために、少しは我が身を護りなさい!」

「アルメリアの言うとおりだよ。絶縁とか解雇とか、リュシオンは自分への罰のつもりで言っているんだろうけど、あなたを失ったら家族やアルメリアが悲しむんだよ」


 アルメリアに加勢すると、リュシオンはハッとして


「確かに俺は筋を通そうとするあまり、かえって大事な人を蔑ろにしていたかもしれない」

「「かも」じゃなくて、そうですわ。納得したなら、この件に関しては、処罰無しを受け入れなさい」


 真面目なリュシオンは、やはりアルメリアに庇ってもらうことに罪悪感があったようだけど


「分かりました」


 と渋々決定を受け入れた。


 リュシオンとの話が済むと、アルメリアは私に目を向けて


「それにしてもミコトさんが無事で本当に良かった。最後に見た時、本当に酷い火傷でしたから、あのまま死んでしまうのではないかと。それが無くても、火傷が残るんじゃないかと心配していたんですの」


 アルメリアは私の頬に触れながら


「でも肌も髪も前より美しくなったくらい。痕が残らなくて本当に良かった」


 彼女は目に涙を浮かべて私の無事を喜んでくれた。


「マラクティカの人たちが、すごく良くしてくれたんだ」


 獣人さんたちへの誤解が解ければと、やんわり彼らを褒めると、アルメリアは複雑な顔で


「そう……獣王はわたくしたちには恐ろしい相手でしたが、ミコトさんにはよくしてくださったのですね。だとすると、あの争いはやはり本来は優しい獣人たちを怒らせたわたくしたちのせいですわね」


 アルメリアをフォローしようと口を開く前に


「そうニャー。悪いのは獣人じゃなくて、お前たち人間ニャー」

「い、今の声は?」


 聞き慣れない第三者の声に、アルメリアはキョロキョロと辺りを見回した。


「黒猫! 姿を隠しているって言っただろう!?」


 リュシオンが叱るも、サーティカはバッと隠れ蓑を脱いで自ら姿を現すと


「兵士たちの前では、ちゃんと隠れていたニャ! でもコイツ、人間の姫ニャ! マラクティカの平和を脅かしたこと、サーティカ、文句を言いたいニャ!」

「サーティカ。気持ちは分かるけど、アルメリアは何も知らなかったんだよ。真実を知った後は自害してまで戦いを終わらせようとするほど、すごく苦しんでいるから、責めないであげて?」


 私のフォローに、サーティカは一瞬黙った。


 けれどアルメリア自身が


「いえ、父がしでかしたことを、娘のわたくしが知らなかったでは済みませんわ。謝って済むことではありませんが、本当にゴメンなさい」


 誠実に謝罪するアルメリアに、サーティカは「ニィィ」と唸りながら私の服の裾を握って


「悔しいけど、サーティカ、分かるニャ。この姫は悪人じゃないニャ。責めたら可哀想ニャ」

「ありがとう。分かってくれて」


 私はサーティカの頭を撫でた。


 アルメリアは改めて私に目を向けると


「ミコトさんにも改めて謝罪させてください。あなたを騙して、我が国の問題に巻き込んでしまったこと。そのせいで、あんな酷い火傷を負わせてしまったこと、本当に申し訳ありませんでした」


 アルメリアの謝罪に、私は首を振りながら


「私は本当に大丈夫だから気にしないで。こんなことになって辛いのは、アルメリアのほうでしょう?」


 私の言葉に、アルメリアはポロッと涙して


「ああ……泣いてはいけないのに……」


 と両手で顔を覆った。


 全知の大鏡が唆したこととは言え、自分の父と兄の命令で獣人の国と争いになり、多くの犠牲者が出た。アルメリアはどれだけ苦しんだだろう。


 私は彼女に近づくと優しく背中を撫でながら


「我慢しないで。辛いなら辛いって泣いていいんだよ。アルメリアはお姫様だけど、私にとってはただの友だちだから」


 冷静に考えたら失礼かもしれないことを言うと、アルメリアは私に縋って本格的に泣き出した。


 それを見ていたサーティカは心配そうな顔で近寄って


「獣人それが本物の涙なら、仲間殺されても許すニャ。人間のお姫様すごく気に病んで、いっぱい泣いていたってサーティカ、マラクティカに帰ったら皆に言うニャ。だからもう悲しまニャいで」


 そう言ってアルメリアの腕をてしてしと叩いた。

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