アルメリアに会いに行く
獣王さんが去った後。リュシオンは改めて
「話を戻すが、あなたがこれからも旅を続けるなら、悪魔の指環を集め終えるまで、俺に護衛させて欲しい。ただ独断で長期間、国を離れるわけにはいかないから、アルメリア様の許可を取らせてくれ」
「もちろん。アルメリアの意見も聞いたほうがいいよ」
サーティカもけっきょくリュシオンの護衛を認めたようで
「じゃあ、その人に許可を取りに行くニャ。さっそくエーデルワールに飛ぶニャー」
「ちょっと待ってくれ。我が国では獣人族と戦いがあったばかりだ。こちらが先に仕掛けたこととはいえ、獣人の子を連れて行くのはマズい」
リュシオンは獣頭獣人のサーティカを連れ歩くことを心配しているけど
「心配しなくてもサーティカ、ちゃんと姿を隠して行くニャ。これ獣人族の職人が神樹の葉で作った『隠れ蓑』ニャ。着ると姿が見えなくなるニャ」
それは獣王さんたちがマラクティカからエーデルワールに移動する際に使った装備らしい。姿を隠す道具があるなら、獣人の戦士が姿を消して、私を護衛することもできる。
けれど護衛には、あえて姿を見せることで犯行を思い止まらせる抑止力の意味もある。だから目に見える護衛が必要で、やはりリュシオンか、無理なら相応しい人を紹介して欲しいところだ。
リュシオンは獣人族が持つ不思議な装備に感心して
「そんな道具が作れるのか。獣人族は力だけじゃなく不思議な技を持っているんだな」
「そうニャー。獣人はすごい種族なんニャー。敬え人間!」
大威張りするサーティカに、リュシオンは白い目で
「その隠れ蓑を着て見えなくなるのは姿だけだろう。そのおしゃべりで人に見つかって身を滅ぼすなよ、黒猫」
「サーティカ、そんな馬鹿じゃないニャ! 心配無用ニャ!」
それから私たちは、まずリュシオンの実家に移動した。
庭ではちょうどリュシオンの弟のレックス君が剣の特訓をしていて
「わっ、兄様!? 何そのおかしな恰好!?」
レックス君の反応に、リュシオンはばつが悪そうにしながら
「説明は後でするから、まずは着替えさせてくれ。それから母上に頼んでミコト殿の服と、10歳くらいの少女の服を用意して欲しい。服が届くまでは彼女たちに毛布を」
「彼女『たち』?」
レックス君は首を傾げながらも、お母さんに服をメイドさんに毛布を頼んでくれた。
マラクティカで長袖の服を作ってもらったけど、エーデルワールの気候だと薄手で寒い。私はリュシオンの屋敷の応接間で、サーティカと毛布に包まっていた。
自室で着替えを済ませたリュシオンと合流した後。
レックス君からリュシオンの帰宅を知らされた、お母さんのフィオナさんが応接間に来た。
彼女は息子の顔を見るなり「リュシオン!」と激怒すると
「いくらカンナギ殿が心配だからって、この非常時に竜騎士であるあなたが勝手に国を出るなんて、何を考えているのです!? 騎士が私情で国を離れるなんて許されないことですよ!」
フィオナさんの言葉で、私は彼が無許可で国を出たことを知った。
リュシオンは母親の叱責に、ただ深く頭を下げて
「返す言葉もありません。これからアルメリア様に非礼をお詫びして、処罰を仰いで来ます。俺の行いが家名を汚すようでしたら、親子の縁を切ってくださって構いません」
彼は彼で、考え無しに国を出たのではなく、絶縁や解雇も覚悟の上のようだった。
息子の言葉にフィオナさんは
「……ああっ!」
と顔を覆い、現場を見ていたレックス君は
「に、兄様……」
「すまないな、レックス。心配をかけて」
私とともに一部始終を目撃したサーティカは
「すごい修羅場ニャ。あの人間、大丈夫ニャ?」
私もリュシオンが心配だ。
それからリュシオンは、私とサーティカを連れて彼の部屋に場所を移すと
「家族に心配をかけてしまったのは申し訳ないが、あそこであなたを追いかけなかったら、俺は立場と引き替えにもっと大事なものを失っていた。だからその決断によって失うものがあったとしても、受け止めるしかない」
「私が心配をかけちゃったせいで、大変なことになってゴメンね」
しゅんと謝罪する私に、リュシオンは優しく微笑んで
「俺が勝手に心配したんだ。あなたは何も悪く無い」
そのままジッと私を見つめると
「ミコト殿が死んでしまわないかと本当に不安だったんだ。そのあなたが今、元気な姿でここに居る。俺にはその奇跡だけで十分だ」
私も二度ほど瀕死のリュシオンを見ているので、自分の大切な人がただ生きているだけで、奇跡みたいに嬉しい気持ちは分かる。
だからって家族と不仲になっていいはずはない。リュシオンにとっても不幸だけど、もし彼が家を出ることになれば、ご両親もレックス君たちも悲しむだろう。
どうか丸く収まってくれるといいけど……。
リュシオンの実家でエーデルワール風の格好に着替えた私たちは、アルメリアに会いに城に行った。
城門を護る兵士さんたちは、すぐにリュシオンに気付いて
「リュシオン様!? ご無事だったんですか!?」
「そちらは旅人殿ですよね!? 1人で彼女を獣人たちから取り戻して来たんですか!?」
「流石はリュシオン様だ!」
門番さんたちはリュシオンが、敵地から私を助け出したと誤解しているみたいだけど
「いや、別に獣人たちと争って彼女を助けて来たわけじゃない。このとおり獣人たちは、ミコト殿を見事に治療してくれた。彼らは俺たちが誤解していたような悪い種族じゃない」
リュシオンの説明に、兵士さんたちはかえって戸惑っていた。
獣王さんたちは使者と、何十人ものエーデルワール兵を殺した。そんな獣人たちが悪ではないと言われても、すぐには受け入れられないのだろう。
「詳しい説明は後でする。まずはアルメリア様に会わせてくれ」




