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新たな旅立ち

 サーティカから獣王さんの過去を聞いて、彼が抱える深い悲しみと後悔を知った。


 獣王さんとの付き合いは短いけど、あの人は人一倍、弱い者を護ろうとする意思の強い人だ。だから子どものように弱くて頼りない私を心配して、護ろうとしてくれている。


 それが分かっても


「ゴメンね。それでも私は彼に護られて、ここに留まることはできない」


 彼らの好意を無にすることに胸を痛めながらもハッキリ断ると


「……サーティカたちの気持ち、旅人さんには迷惑なんニャね」


 本当は迷惑じゃないと否定したかったけど、彼らに引き留められたくないのは事実だ。


 黙り込む私に、サーティカは涙目で


「サーティカ、旅人さん好きニャ。本当は危険なことして欲しくないけど、好きだから気持ち無視できニャい。道具の場所を教えるニャ。でも王も裏切りたくないから、サーティカから聞いたとは言わニャいで」

「うん。絶対に言わないよ」


 サーティカは奪われた私の道具が、神樹の森にあると教えてくれた。神樹の周辺にある森は聖域になっていて、王と最高位の神官しか入れない。よそ者から奪った道具を隠すには確かに最適の場所だ。


 神樹の森に近づくと、見張りの獣人さんたちが慌てて寄って来て


「旅人、ダメ! 神樹の森、入っちゃダメ!」

「あなた、怪我させる、王怒る! あなた、ここ入れる、王怒る! けっきょく俺たち怒られる! あなた、諦めないと、すごく困る!」


 兵士さんたちを困らせたくないけど


「迷惑をかけちゃってゴメンなさい。でも私には、すごく大事なことなんです。神樹には絶対に触れませんから、どうか私の道具を捜させてください」


 兵士さんたちと揉めていると


「サーティカが話したのか?」


 私が神樹の森に行ったと誰かに聞いたのか、獣王さんが怖い顔で現れた。


「違います。私の勘です」


 サーティカを庇おうとキリッと嘘を吐いたものの、獣王さんはあっさり看破して


「苦しい嘘だな」

「うぅ……」


 フィーロみたいに、もっと凝った言い訳ができたら良かったんだけどな。


 さっそく彼を失った穴を感じる私に、獣王さんは険しい表情で


「あの鏡との約束がそんなに大事か? 俺はお前の代わりにアイツに聞いた。大鏡が言った最悪の嘘とは何かと。アイツはその問いに沈黙で答えた。大鏡のデマなら違うと言えたはずだ。沈黙したのは企みがある証拠。なんでそんな男との約束を、命がけで守ろうとする?」

「確かにフィーロには、嘘や秘密があったかもしれません」


 「だったら」と言いかける獣王さんよりも先に


「それでもフィーロを信じているんです」


 それは根拠のない信頼では無くて


「全知の力を持つフィーロは、あなたが私に何をしようとしていたか知っていたはずです。それを止めなかったのは多分、フィーロも私を保護させたかったから」


 フィーロには嘘や秘密があったかもしれない。でも私への優しさは本物だった。


「だから私はフィーロを信じているし、例え目の前から消えても、彼との約束を守りたいんです」


 本気が伝わるように確かな言葉で伝えると、獣王さんはグッと顔を歪めて


「……しかしそれは裏を返せば全知の力を持つ鏡が、これ以上旅を続けるのは危険だと判断したということだろう。それでもお前は1人で旅を続けるつもりか?」

「1人じゃないから大丈夫です。他の神の宝たちにも、フィーロと同じように心があるから。皆と力を合わせて、がんばります」

「心のある道具だろうが、取り上げられたら終わりだ。お前は無防備で容易く奪われる。お前を死なせたくない」


 「だから行くな」と獣王さんは私を抱き締めた。


 この人は本当に優しくて、寂しくて、もう誰にも死んで欲しくないんだ。


 我が子のように育ててくれたお父さんに続いて、弟さんたちも亡くして、お母さんも護れなかった。それが本当に辛かったんだ。


 この優しい人を悲しませたくない。だけど私は行かなくちゃいけないから


「死にに行くわけじゃありません。きっと生きて帰りますから大丈夫です」


 微笑みながら言う私に、獣王さんは苦しそうな顔で


「信じられない」

「それでも行かせてください」


 これまであった焦りは不思議と消えて、ただ穏やかに獣王さんを見上げる。


 獣王さんは聡明で優しい人だ。サーティカもそうだったように、人の本気の願いを握り潰すことはできない。


 その直感は間違いじゃなかったようで、彼は表情を隠すように顔を逸らすと


「お前が生きているのか死んでいるのか、気にしながら生きるのは御免だ。生きている限りは、ひと月に一度でいいから顔を見せに来い。それができるなら解放してやる」

「はい。生きている限りは絶対に、また獣王さんに会いに来ます」


 その約束と引き換えに、獣王さんは魔法の道具を返してくれた。


 翌日。


「やっぱり旅人さんが居なくなるの嫌ニャ……」


 サーティカは大きな目に涙を溜めて、私の袖を引いた。


 私は彼女の頭を撫でながら「また会いに来るよ」と約束したけど


「でも旅人さん、やっぱり1人じゃ危ないニャ。悪魔の指環を探すなら仲間が必要ニャ」


 サーティカは「そうニャ!」とパッと何かを閃いて


「サーティカ、一緒に行ってあげるニャ! サーティカ、あの鏡ほどじゃないけど、占いできるし、危険なものも分かるニャ! きっと役に立つニャ!」

「気持ちは嬉しいけど、獣人の子を連れ歩くなんて、かえって危ないよ。サーティカはすごく可愛くて珍しいから、それこそ誘拐されちゃうかも」


 ところが、それを聞いていた獣王さんが


「いや、サーティカを連れて行け」


 意外過ぎる許可に、私は「えっ!?」と驚いた。


 けれど獣王さんによれば


「お前は1人だとかえって無茶をしそうだ。サーティカが一緒なら、お前はコイツを護らないといけないから、自然と慎重になるだろう」

「ほら、王もこう言っているニャ! サーティカを連れて行くニャ、旅人さん!」


 ようやくマラクティカを出られることになった私は、なぜか神官のサーティカを連れて行くことになった。


 私はこの広い世界で、後3つ悪魔の指環を見つけなければならない。サーティカの占いはよく当たるそうなので、なんの当てもなく旅するよりはいいだろう。


 とは言え、フィーロの代わりにサーティカと旅するって。これからの旅、いったいどうなるんだろうと、少し途方に暮れた。

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