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フィーロの機転

 しかし、その手が私に触れる前に


「馬鹿なことを言っていないで早く逃げろ! この女は恐ろしい魔女だ! 早く逃げないとアンタまで俺のような目に遭うぞ!」


 鬼気迫るフィーロの声に、私はギョッとした。


 彼はずっと人前では声を出さないようにしていたのに。


 泥棒さんも当然、どこから声がしたのかと驚いて


「な、なんだ!? 今の声は!?」

「俺は今この女が持つ鏡の中に居る! 妖しい術で閉じ込められたんだ!」


 ここまで来ると、私にもフィーロの考えが分かった。


 私はコンパクトを開いて、あえて鏡の中のフィーロを泥棒さんに見せた。


「なっ!? 鏡の中に人が!? この女がアンタを鏡に閉じ込めたって言うのか!?」


 動揺する泥棒さんに、フィーロは重々しい口調で


「そうだ。この女こそ7つの悪魔の指輪を作りし魔女。昔、人間に盗まれた悪魔の指輪を、ずっと捜しているんだ。大人しく返さないと、アンタも鏡に閉じ込められるか、再び硬貨に変えられるぞ!」


 フィーロの迫真の演技。


 私も何かしなくちゃと


「そうだよ。私は恐ろしい魔女。アンタは何に変えてやろうかねぇ?」


 幼い頃に親しんだ童話の知識を総動員して、せいいっぱい恐ろしい魔女を演じる。


 鏡の中のフィーロを見た泥棒さんは、私を恐ろしい術を使う魔女だと信じて


「わ、分かった! 悪魔の指輪はアンタに返す! だから命だけは助けてくれ!」


 そう命乞いすると、あたふたと逃げ出した。


 泥棒さんの背中が見えなくなると、フィーロはふふっと笑って


「なかなかいい演技だったぞ、我が君。役者の才能があるな」


 緊張から解放された私は「フィーロの機転のお陰だよ」と、へなへなと笑った。


 窮地が去った後。私はふと気付いて


「自分の身を護るのにせいいっぱいで、泥棒さんを逃がしちゃったね」


 本当なら牧場主さんに引き渡すべきだったと後悔すると


「この牧場の牛に関しては、実はとっくに解決しているんだ」


 泥棒さんは牛をお金に変えている最中に、自分も硬貨になってしまった。


 つまり牛を変えたお金を、持ち去ることはできなかった。


 牧場主さんは牛が数頭居なくなっているのに気付いたけど、それと同等の金額が入った袋も同時に見つけたそうだ。


「この牧場の主は君と違って拾った金を我が物とすることに抵抗が無い。いちおうちょっと待ってみて、落とし主が現れなかったので、その金で新しい牛を買ったのさ」


 とすると、お金に変えられた牛は可哀想だけど、牧場主さんに損は無かったんだ。


「幸い君が逃がした男は、悪魔の指輪が無ければ何もできない小者だから、再犯の心配もない」


 フィーロに断言してもらい、私はホッとした。


「ところで我が君。強欲の指輪を得た君に新たなビジネスの提案がある。占い以外の収入源を得るチャンスだ。やってみるかい?」


 さっきの男性みたいに、強欲の指輪で何かをお金に変えるのかな?


 でも自分のもの以外を、勝手にお金に変えるのは犯罪だ。


 フィーロの言うビジネスとは、いったいなんだろう?


 心配する私に、フィーロが提案したのは


「要らないものを、なんでも買い取ってくれるって本当? 別に高級でもない、ただの服やお皿でも?」

「はい。ゴミ以外は、なんでも買い取れます」


 お客さんの質問に笑顔で答える。


 フィーロが私に提案したのは、強欲の指輪を利用した不用品の買い取りだった。


 お客さんが持ち込んだものをフィーロが見て、予め変化後の金額を計算。


 買い取り額に文句が無ければ、お客さんに見られないように、それらを強欲の指輪でコッソリお金に変える。


 私は買い取り額の1割を、手数料としてもらうという商売だった。


 現代のリサイクルショップでさえ種類を問わずに、なんでも一気に引き取ってくれるのは珍しい。


 売るのも面倒だし、捨てるしかないと諦めていたものが、思いのほか高く売れる。


 しかも私は買い取り額の1割しかもらわないので、お客さんにとても喜んでもらえた。


 フィーロは


「もともと捨てるしかないようなものだし、3割は取ってもいいのに」


 と言うけど、魔法の力で大きく儲けようとするのは、それこそ強欲だ。


 お客さんが喜んで払ってくれる分だけもらうのが、私も嬉しい。


 それにしても悪魔の指輪で、双方とも幸せになれる商売ができるなんて、すごい。


「こんなにいい方法を考えられるなんて、これも全知の力なの?」

「いや、俺はもともと考えるのが好きなのさ。知識の獲得と活用が、俺の何よりの喜びだからね」


 フィーロは本当に頭を使うことが好きらしく、いつもより生き生きした様子で


「我が君のこだわりが意外と強いお陰で、俺も知恵の絞り甲斐がある。君のためにあれこれ考えるのは楽しい」


 私のワガママのせいで彼に迷惑をかけているんじゃないかって、実はずっと心配だった。


 だからフィーロが知恵の絞り甲斐があると言ってくれて、すごく嬉しい。


 悪魔の指輪と言うと不吉そうだけど、けっきょく道具は使う人次第。


 これから出会うたくさんの道具も、フィーロと一緒に活かしていけたらいいな。

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