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獣王さんとおやすみ

「自殺願望でもあるのか?」


 夜。目を覚ますと、私はまた王の泉に浸かっていた。やはり不機嫌そうな獣王さんの腕に抱かれて。


「……あれ? 私、どうしてここに?」

「遺族たちに請われるまま笛を吹いて、最後の1曲を吹き終えた瞬間に倒れた。騒ぎを聞きつけて、やって来た俺の前でな」


 獣王さんは怖い顔で、私の頬をムニッと(つま)むと


「急がなくても死者は逃げないと言っただろう。なんで無駄に身を削る? 休ませるつもりが、また倒れられて、こっちはいい迷惑だ」


 全く獣王さんの言うとおりなので、私は素直に非を認めると


「す、すみません。自分の体調を甘く見て、しなくてもいい無理をして勝手に倒れて、また迷惑をかけてしまって」


 ただサーティカは悪くないので許して欲しいと頼んだものの


「ダメだ。サーティカは俺の命令を無視して、お前を勝手に連れ出した。取りあえず今日と明日はメシ抜きだ」


 アルメリアに自害を迫ったことを考えれば、同族の子どもであるサーティカへの処罰はだいぶ優しい。


 私もそれは分かっていたけど


「あの、でも育ち盛りの子が、2日もご飯抜きは可哀想じゃ……」


 やんわり意見するも、獣王さんはただでさえ鋭い目つきをさらにキツクして


「黙れ。俺にとってはお前も同罪だ。庇える立場だと思うな」


 当たり前だけど、ものすごく怒っている……。


「忠告を無視して迷惑をかけて、本当にすみません……」


 恐々と謝罪するも、王の怒りは解けず


「サーティカもお前も、そうやってすまなそうな顔をすれば許されると思っている。実際それで許されて来たから、懲りずに同じ過ちを繰り返す。違うか?」


 その指摘に、私は我が身を振り返った。


「確かにそういうところがあるかもしれないけど……私にとっては大事なことで、どうしても曲げられなかったんです……」


 過去にフィーロの助言を振り切ってした無茶の数々。


 けれど今その時に戻っても、きっと私はまた同じ道を選ぶだろう。


 控えめに弁解する私を、獣王さんは冷ややかに見下ろして


「だったら最初からそう言えばいい。本当は悪いと思ってないのに、半端に反省しているフリなんてするな」

「変えられないけど、悪いとは思っているんです……。獣王さんにも何度も迷惑をかけちゃって、すみません……」


 何度も謝ったら、かえって鬱陶しいかなと思いつつ、重ねて謝罪すると


「……もういい。上がるぞ」

「あっ、もう自分で立てるので」


 横抱きにされそうな気配に、咄嗟に断ろうとしたけど


「今後お前の体調に関して、お前に決定権があると思うな。お前をどう扱うかは俺が決める」


 獣王さんはそう言うと、私を抱えたまま王の泉から上がった。


 顏と雰囲気は怖いけど、ものすごく面倒見のいい人だ。


 王の泉を出ると、タオルを持ったシャノンさんが待っていた。


 獣王さんは私の背をシャノンさんに向かって押し出すと


「シャノン。コイツを着替えさせて、俺の部屋に連れて来い」


 獣王さんの命令に、シャノンさんは目を見張って


「王、この子抱く?」

「えっ!?」


 ギョッとする私を横目に、獣王さんは不愉快そうな顔で


「そういう目的で連れて来たんじゃない。コイツは目を離すと何をするか分からないから、近くで監視するだけだ」

「あの、流石に今日は何もしないです。大人しく寝ます」

「人の忠告を聞かずに倒れたのは誰だ? だいたい「何もしない」の前に「今日は」がつくあたり信用できない。明日にも、また何かしそうな勢いだろう」


 獣王さんの指摘に、私は何も言い返せなかった。


 その代わり「フィ、フィーロ……」と小声で助けを求めたけど、彼はニッコリと


「俺はちゃんと止めたはずだぞ。結果は見えていると。でも君はリスク覚悟で自分の意志を貫いたわけだ。だったらその結果も、ちゃんと受け止めないとな」


 フィーロ的に、この展開は致命傷にはならないようで、助けてくれる気は無さそうだ。


 シャノンさんは、獣王さんと一夜を共にすることになった私のために


「こっちの服のほうが男喜ぶ。どうしてもダメ?」


 昼間よりもセクシーな服を着せようとして来たので


「そういう目的じゃ無いって獣王さんは言っていました!」


 私は必死に首を振って抵抗した。


 最終的に私が選んだのは、やはり麻のような素材のシンプルなワンピースだった。


 長くなった髪は体の前に垂らすように、白いリボンでゆったりと結んでいる。


 私のいで立ちに、シャノンさんは信じられないものを見る目で


「だから、それ年寄りの服。しかも今は髪まで老人。そんな恰好で王の寝所、侍る。信じられない……」

「年寄りは言い過ぎだが、君の世界でも少し病人風の装いかもな」


 シャノンさんはともかくフィーロに言われると


「そ、そんなに変かな?」


 恋人でもない人と寝るのに、オシャレして行くのも変だけど、お年寄りの恰好とまで言われると流石に気になる。


 私の質問に、フィーロは


「俺からすれば、君は何を着たって可愛いさ。それに今から男と寝るのに可愛い恰好なんてするもんじゃない。獣人は女子どもに優しいが、生涯の伴侶にする覚悟があれば、無理やり女性をものにすることも許されている。生半可な気持ちで手は出さないが、用心するに越したことは無い」


 あんな出会い方をした獣王さんが、私に何かするとは思えない。


 それでも若い男の人と一晩過ごすなんて初めてなので、不安な気持ちで獣王さんの寝室に連れて行かれた。


 広いベッドにゆったりと寝そべっていた獣王さんは、つまらなそうに私を見ると


「せっかく髪を伸ばしたのに、お前の服の趣味は本当に年寄りみたいだな」


 対する獣王さんは、もう寝るだけだからか下はズボンを穿いているけど、上半身は裸だ。


 顏と雰囲気が怖いから忘れがちだけど、獣王さんはとても男性的な魅力に溢れた人だ。


 フィーロを神秘的な美人。リュシオンをイケメン好青年とするなら、獣王さんはワイルド美形だ。


 赤銅色の豊かな長髪に、野性味のある金の瞳。


 広い肩に厚い胸。くっきりと割れた腹筋にエキゾチックな褐色の肌。


 女性とは違う男性的な逞しくも美しい体を、ところどころ金の装飾品で飾っている。


 獅子の耳と尻尾はあるものの、それ以外はほぼ人間で、フィーロによれば23歳らしい。


 年齢的にはまだ若いのに、王という立場のせいか、怖いだけではない威厳がある。


 ただでさえ異性に免疫が無いのに、なんでこんな男性の中でも最高峰みたいな人の半裸を見なきゃいけないんだろう?


 某アニメ映画のおじいさんみたいに「やめてくれ。わしにその光は強すぎる」みたいな気持ちになった。


「心配しなくても何もしないから、さっさと来い」


 すでにたくさん迷惑をかけている獣王さんを、これ以上苛立たせてはマズいと、ギクシャクしながらベッドに向かう。


 一国の王だけあって、獣王さんのベッドは5人は寝られそうなほど広い。


 体が触れ合わないように横になったものの、彼は私が逃げないようにか手首を掴んで


「身じろぎしないで、さっさと寝ろ」


 暗い部屋の中。獣王さんが目を閉じたまま私に言う。


「男の人と寝たことが無くて。緊張して眠れません……」

「俺とお前じゃ雑魚寝と変わらん」


 獣王さんは人間が嫌いなようだ。加えて私は異世界から来た子どもっぽい女で、しかもマラクティカ的には老人風の服装をしている。


 自分のスペックを羅列すると、異性として意識されなくて当然だ。


 けれど私からすれば、通常時の獣王さんは、耳と尻尾がついているだけのエキゾチック美青年だ。


 せめて獣頭獣人なら、自分とは全く違う種族だと割り切れたかも。


 むしろ大きな動物と戯れるのは前世からの夢だったので、嬉しかったかもしれない。


 そう考えた私は


「獅子の姿になって欲しい?」


 私の要望に、獣王さんは怪訝な顔で


「あの巨大な獅子の姿は同族でも怖がる。お前だって焼き殺されかけたくせに怖くないのか?」


 焼き殺されかけたというか、九命の猫のおかげで助かっただけで、5回は死んでいるけど


「自分が悪いことをして獣王さんに怒られるのは怖いけど、本当は優しい人だと分かったから。殺されるかもみたいな意味では、もう怖くないです」


 さっきもさんざん叱られたけど、軽く頬を(つま)まれただけで、叩かれることさえなかった。


 フィーロが言っていたとおり、この人は女子どもなど無害な者には優しいのだろう。


 でも変なことを頼んで、やっぱり怒られるかも。


 そういう意味では怖いなと、少し俯いていると

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