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サーティカは黒い猫

「ニャー」


 近くで猫の声がする。しかしそれは九命の猫の声ではなく


「すごく綺麗で悲しい曲ニャ。それ鎮魂の曲ニャ?」


 部屋の入り口から話しかけたのは、猫の頭を持つ獣人の女の子だった。


 フィーロによれば獣人には『人頭(じんとう)』と呼ばれる人間に近い姿の者と、『獣頭(じゅうとう)』と呼ばれる獣に近い姿の者が居る。


 彼女は黒猫の獣頭獣人だった。


「旅人さんが起きたと聞いたから、王の命令で食事と着替えを持って来たニャ。まだ王の泉だと思ったのに、居ないからビックリしたニャ」


 すぐに客間に戻ったのではないかと気づいて、仲間の女性とこちらに来た彼女は


「そうしたら綺麗な笛の音が聞こえたから、終わるまで聞いていたニャ」


 黒猫の女の子はニパッと笑うと、自分を指して


「サーティカ、サーティカって言うニャ。こっちはシャノン。王の命令で、旅人さんのお世話するニャ」


 黒猫の女の子は、サーティカちゃんと言うらしい。


 まだ子どもで丸っこいサーティカちゃんと違い、シャノンさんは私よりも年上の20歳で、スラッとした長身の豹の獣頭獣人だった。


「まずご飯食べる。次に服着替える」


 シャノンさんはテキパキと食事と着替えを差し出した。


「あの、私が着ていた服は?」

「あなたの服、燃えてボロボロ。あなた、ローブと靴以外、燃えカスついただけの状態だった」


 そう言えば王城でも、耐火のローブで体を隠していたことを思い出した。


「そう言えば旅人さん、髪も焼けていたのに綺麗に生え揃っているニャ。治癒の泉、傷は治るけど毛は生えなくて、ハゲたままの獣人たくさん居るのに。どうしてニャ?」

「魔法の道具を使って髪を伸ばしたんだ」


 獣人さんたちは、私が魔法の道具を持っていると知っているはずだから、いいだろうと説明すると


「確かに。王が旅人さんは魔法の道具を持っていると言っていたニャ。人頭も獣頭も毛並みが命ニャ。生えて良かったニャ!」


 11歳のサーティカちゃんは屈託なく明るい性格のようだ。私は彼女の笑顔に元気をもらった。


 最初は彼女を『ちゃん』付けで呼んでいたけど


「『ちゃん』って付けられると子どもみたいニャ。サーティカこれでも偉いんだから、サーティカって呼ぶニャ」


 と言われたので、サーティカと呼ばせてもらうことになった。


 話は服の話題に戻って


「今、旅人さんが着ている服、その鏡がうるさいからいちばん地味なの着せたニャ。でも旅人さんが目覚めたと聞いたから、今日はマラクティカのトレンドファッション持って来たニャ。いくつか持って来たから好きなの選ぶニャ~」


 サーティカが持って来た服を見せてもらうと


「な、なんか露出が多くない?」


 たじろぐ私に、フィーロがやや遠い目で


「マラクティカは常夏の楽園で、自然派の獣人たちは肌を見せるファッションをよしとしている。男は上半身裸も少なくない。女性は流石に胸は隠すが、肩や足や腹は出すのが基本の着こなしだ。この子たちを説得して、その無難なワンピースを着させた俺に感謝して欲しい」


 すごく大変な戦いがあったようだ。


 私はフィーロの配慮に感謝したけど


「何が感謝ニャ。それはマラクティカじゃ、肌や毛並みが衰えた年寄りが着る服ニャ。若い女は肌やボディライン、見せてナンボニャ」


 サーティカの横で、シャノンさんがテキパキと持って来た服を指しながら


「もう伴侶が居る女、無駄に男誘わない。長いスカートやズボンで足隠す。でもあなた未婚で若い。若い女、足出す。太もも見せる。男喜ぶ」


 獣人女性のファッションのポイントは、異性を誘う服のようだ。


 初恋もまだの私にセクシーな服は恥ずかしくて、ブンブンと首を振った。


「旅人さん、胸とお尻は小さいけど、珍しい肌色で綺麗ニャのに。見せないのもったいないニャー」


 サーティカたちは残念そうだけど


「人間の国はたいがいここよりも寒いから、君たちのように肌を出す習慣が無いんだ。せめて腹と太ももが隠れる服を持って来てやってくれ」


 フィーロが無難に言い訳してくれたおかげで角を立てずに済んだ。


 ありがとうと脳内で手を合わせる私をよそに


「じゃあ、私、別の服持って来る。サーティカ、彼女にご飯食べさせる」

「了解ニャ~」


 シャノンさんはキビキビと部屋を去り、私はサーティカと食事することになった。


「獣頭獣人の手は、獣の前足よりは発達しているが、人間の手ほど器用じゃない。だからマラクティカの食事は手づかみが基本だ。汁物も椀に口を付けて直接飲む」


 フィーロの説明に、うんうんと頷いていると


「鏡、黙るニャ! ご飯の説明はサーティカがするニャ!」


 仕事熱心なサーティカは1つ1つ「これはこうして食べるニャ」と食べ方を教えてくれた。


 マラクティカの料理は、甘辛い味付けやスパイシーなものが多いようだ。


 和食や洋食に慣れた私には、少し食べ慣れない味だけど、お腹が空いていたので美味しかった。


「ご飯美味しいニャ? 良かったニャ~」


 なぜかフィーロには厳しいサーティカだけど、私にはずっと笑顔で友好的だ。


「私はよそ者なのに、どうしてこんなに良くしてくれるの?」

「サーティカとシャノン、この国の神官ニャ。神官は目に見える神である王のお世話をしたり、祭事をしたり、サーティカのように霊感のある者は、お告げや占いをするニャ」


 『神官』はフィーロが言っていたマラクティカの階級の1つ。


 マラクティカでは王を頂点とし、その下に『戦士』『神官』『職人』『平民』と続く。


 『戦士』は外の世界で情報を集める『偵察』とマラクティカに留まっての『国防』に分かれる。


 『職人』は家、家具、雑貨、服、装飾品などの物作り。


 『平民』は特別なスキルの無い労働者階級で、料理や農業や狩りや清掃など雑多な仕事をするそうだ。


「でも神官は命がけで民を護る王と戦士より発言力弱いニャ。だから復讐はもっと大きな争いを生むと分かっていても、怒りに燃える王たちを止められなかったニャ」


 サーティカは少し顔を曇らせたけど、すぐにパッと笑って


「でも獣人たち、本当は優しい。命がけで争いを止めようとする旅人さんを見て、王の怒り解けたニャ。敬愛する王を助けてくれたと聞いて、民たちの怒りも鎮まったニャ。もっと大きな争いにならなかったの、旅人さんのおかげニャ」


 サーティカはふかふかの手で、私の手をギュッと握ると


「だからサーティカ、旅人さんに感謝しているニャ。あなたは王とサーティカたちの恩人。ゆっくりして行くニャ」

「あ、ありがとう。余計なことをしたかなって心配だったから、そう言ってくれて嬉しい」

「争いを止めておいて余計なこととは変な人ニャ~」


 サーティカはケラケラ笑うと、ふと首を傾げて


「ご飯も済んだし、話を戻していいニャ? さっきの旅人さんの笛は鎮魂の曲ニャ?」


 厳密には葬送曲だけど、死者を弔う意味では同じかなと頷くと


「病み上がりなのに悪いけど、良かったら最近死んだ獣人たちのために、あの笛を吹いてくれないかニャ?」


 サーティカの言う最近死んだ獣人たちとは


「毒で死んじゃった獣人たちニャ。サーティカたちは人間より強いから、ほとんどの獣人は酷い吐き気と高熱だけで済んだニャ。でも幼子と老人、弱いからたくさん死んだニャ。だから王は復讐しに行ったニャ。もっと大きな戦争になるとしても、子どもを殺されて黙ってはいられないって」


 エーデルワールの兵が殺された使者の報復に、獣人さんたちの飲み水に毒を混ぜたとは聞いていた。


 でも小さな子やお年寄りが犠牲になったと改めて知って、胸が痛くなった。


「犠牲が増えなくて良かったと、皆ホッとしているニャ。でも家族を亡くした獣人たちは可哀想。獣人は事故や病気による死は自然のことだと受け入れるニャ。でも殺されるのは無念ニャ。苦しみ悲しみ、ずっと残って安らかに眠れないニャ」


 だから遺族と無念の死者たちのために、葬送の笛を吹いて欲しいのだと言う。


「そう言うことなら喜んで」

「ありがとうニャ! 王の許可をもらったら、さっそく出かけるニャー!」


 話が終わると、ちょうど私の着替えを探しに行っていたシャノンさんが戻って来て


「あなた要するに、盛りを過ぎた女の服欲しい。これ老人の服にしては、色と刺繍が綺麗なもの。これ着る」


 盛りを過ぎた女性の服が欲しいわけじゃないんだけど……。


 シャノンさんの誤解に苦笑しながら、南国らしい華やかな色の半袖ワンピースとサンダルを受け取った。


「いいじゃないか、我が君。君はずっと男装だったが、女性らしい装いもよく似合う」


 フィーロは褒めてくれたけど、サーティカは不満そうな顔で


「旅人さん、若いのに、おばあちゃんの恰好やっぱり変ニャ。髪もなんで、そんなに短いニャ? サラサラの綺麗な黒髪。長いほうが絶対に似合うニャ」


 彼女の意見に、シャノンさんも頷いた。


 もともと私は背中の中ほどまでのロングヘアだった。


 でも女性の1人旅は危ないからと、アンナおばあさんに髪を切ってもらってから、ずっと男装にショートヘアだった。


「急がなくていいなら、自在のブラシで髪を伸ばしたらどうだ? マラクティカは人間の国より安全だから、たまには女性の恰好をするのもいいだろう」


 確かにこのワンピースなら、長い髪のほうが似合うかも。


 私はせっかくなのでサーティカたちに、自在のブラシを使うところを見せた。


「わー、すごいニャ! 本当に髪がみるみる伸びたニャ!」

「こんなに長くて綺麗な黒髪! 花、絶対に似合う! 私、持って来る! あなた、ここで待つ!」


 シャノンさんはまたひとっ走りして、私のために色鮮やかな南国の花を持って来てくれた。


 自然が豊かなマラクティカでは、生花を髪に飾る女性が多いそうだ。


 髪に花を挿すのははじめてだったので、少し照れた。


「うん。さっきよりもっとよくなった。とても綺麗だ、我が君」


 フィーロにしみじみ褒められて、私は「そ、そうかな」とくすぐったさに照れ笑いした。


「旅人さん、可愛くなったニャ! 王にも見せに行くニャ!」


 さっきは葬送の笛を吹く許可をもらいに行くって言ってなかったっけ?


 すっかり本題を忘れたサーティカに連れられて、私は獣王さんに会いに行った。

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