表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/122

王の泉

 次に意識が戻った時。


 私は誰かの腕に抱かれて、清らかな泉に浸かっていた。


 薄目を開けると、真夏のような濃い青空と強い日差し。遠くには南国を思わせる色濃い緑の植物。まるで楽園のような景色。


 もしかして、ここは天国なのかな? 私、今度こそ死んじゃったのかな?


 すごく居心地の良さそうな場所だけど、フィーロとの約束をまだ果たしていないのに。


「残念だが我が君。良くも悪くも、君はまだ旅の途中だ」


 遠くからフィーロの声がする。


「フィーロ?」


 呟きながら手探りで鏡を捜すと、誰かがその手をパシッと掴んで


「動くな。大人しく浸かっていろ」


 男の人の低い声に、ぼやけていた視界がようやくハッキリする。


 声の主はエーデルワールを襲った獣人の王・レオンガルドさんで、意識の無い私を抱いていたのも彼だった。


 なんで!? なんで私、獣王さんに抱っこされて泉に浸かっているの!?


 意味不明な状況にカチンと固まる私に


「慌てなくていい、我が君。彼は君を助けてくれたんだ」

「慌てなくていいって言われても……私はどうしてこんなことに?」


 ここはどこなのか? どうして獣王さんと一緒なのか?


 ビクビクしながら問う私にフィーロは


「ここは獣人たちの国・マラクティカ。君は重度の火傷で、人間の手当てでは助からなかった。そこで獣王殿の厚意を受けて、この国にやって来た。この『治癒の泉』で君の怪我を癒やすために」


 私が気絶した後。


 フィーロは獣王さんに『強欲の指輪』と『一足飛びのブーツ』の使い方を教えた。


 獣王さんは金貨に変えられた部下さんたちを回収すると、一足飛びのブーツで一気にマラクティカに戻った。


 後数分、治癒の泉に入るのが遅かったら、私は死んでいたそうだ。


「君はすぐに目覚めたつもりかもしれないが、実はあれから5日も経っている。その間、君は何度もこの泉に入ったが、意識の無い君が溺れないように、抱いていてくれたのが彼だ。礼を言うといい」


 私、5日も眠り続けていたんだ。


 それで回復のための泉に、獣王さんが入れてくれていた。


「あの、助けてくれて、ありがとうございます。5日も迷惑をかけちゃって、すみません」


 介抱してもらったのも申し訳ないけど、私は獣王さんの復讐を邪魔した。


 アルメリアは私の友だちで、王様とパトリック王子は彼女の家族だ。


 殺していいとは言えないけど、獣人さんたちからすれば、やはり許せない相手だろう。


 それを妨害したんだから、怒っているだろうな。


 恐々と謝る私に、獣王さんはやはりしかめ面だった。


 その彼が突然こちらに手を伸ばす。


 あっ、やっぱり殺されるのかな?


 ビクッと目を閉じると、額に何か触れる感触。


 獣王さんは不機嫌そうな顔で、私の額に濡れて張り付いた髪を避けながら


「まだ顔に火傷が残っている。痕が残らないように頭まで泉に浸かれ」


 そう言うと「もう介助は要らないだろう」と先に泉から上がった。


 泉から上がった獣王さんは、上半身は裸だけど、下は麻素材のような生地の白いズボンを穿いていた。


 私も同じ素材の白の袖なしワンピースに、なぜか葉っぱの帽子を被っている。


 お互いに裸じゃなくて良かったとホッとする私に、フィーロが


「ここはいくつかある治癒の泉の中で最も効果の高い『王の泉』。名前のとおり王しか入れない特別な泉で、本来は裸で入るが、今回は君に配慮して着衣で入ってくれた。着替えは女性がさせてくれたし、その服は水に透けない素材だから裸は見られていない。安心していい」


 私が嫌がるだろうって、着衣で入ってくれたんだ。


「さっきも怪我の心配をしてくれたし、意外と優しい人なのかな?」

「ああ。彼らは基本的に人間よりも情が厚く、特に女子(おんなこ)どもに優しい。しかも人間以上の力を持ちながら、自分から他国を侵略することはしない」


 彼らにとって縄張りは大事なものだ。だから他人のそれも侵さない。それが獣人さんたちの基本的な考え方らしい。


「自分の命や身内や財産は大事だが、他人のそれは平気で奪う。人間とは似て非なる種族だな」


 フィーロは少し皮肉に微笑むと


「獣人たちの多くは素直で朗らかな気質だが、獣王殿はあのとおり、やや気難しい性格だ。しかし複数ある泉のうち、わざわざ王の泉に君を入れて手ずから介抱してくれたのは、君を気に入っている証拠。彼らにとって君は捕虜じゃなく客人だから、何も心配しなくていい。ゆっくり休んでくれ」


 私を気遣うフィーロの声。


 優しい声を聞くうちに、私はポロッと泣いてしまった。


 私の涙を見たフィーロは心配そうに眉を下げて


「1人で辛かっただろう。いちばん大変な時に傍に居なくて、すまなかったな」

「ううん。フィーロは何も悪くないよ。それより、また会えて良かった」


 もしかしたら、もう会えないかもと、すごく不安だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ