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騒がしいお別れ

 卒業試験の翌日。


 私の旅立ちをアルメリア姫とリュシオンさんが、お忍びで見送りに来てくれた。


  一時は私を恩人認定して様付けしていたアルメリア姫だけど、普通に接して欲しいと頼んだら『ミコトさん』に戻してくれた。


 その代わり私もアルメリア姫と、なぜかリュシオンさんにも、敬語をやめることになった。


「ミコトさんと同じでわたくしたちも、あなたの余所余所しい口調が寂しかったんですの。恩人相手に不敬かもしれませんが、わたくしにもリュシオンにも、どうか友人のように接してください」


 前世は庶民で今世は流れ者の私と違って、アルメリア姫はお姫様で、リュシオンさんは貴族。それも彼は2つ年上だ。


 やっぱり敬語に『さん』付けすべきじゃないかと思うけど


「それで言えば、あなたも俺にとっては恩人だ。本来なら敬意を示したいところ、あなたの要望で砕けた口調にしているのだから、どうか俺やアルメリア様の意向も汲んで欲しい」


 ここまで頼まれて断るほうが失礼かも。


 それに友だちのように接して欲しいという彼らの気持ちも嬉しかったので


「そっか。じゃあ、これからはアルメリアとリュシオンって呼ばせてもらうね」


 せっかく仲良くなれたのに残念だけど、もう旅立たなくてはならない。


 いよいよお別れの時、アルメリアは


「ミコトさんはお礼は要らないとおっしゃいましたが、これほどの恩を受けながらタダで帰すわけにはいきません。国宝なので差し上げることはできませんが、あなたの旅が終わるまで、よろしければお使いになって」


 なんと『一足飛びのブーツ』を貸してくれた。


「でも、これは国宝なんでしょう? そんな大事なものを貸してもらうわけには」

「国宝と言っても、フィーロ殿に使い方を教えていただくまでは、宝物庫の隅で(ほこり)を被っていたものです。人の役に立つことが道具の幸せ。父はどうせ飾っておくだけですから、ミコトさんの旅にお役立てください」


 アルメリアにそう言われても、私はもし失くしたらとか、自分に何かあって返せなくなったらと躊躇ったけど


「我が君、ここはお言葉に甘えてお借りしよう。『一足飛びのブーツ』があれば各地で異変が起きた時に、すぐに駆け付けられる。君だけじゃなく困っている人たちの助けにもなる」


 フィーロの助言に納得した私は、アルメリアに一足飛びのブーツを借してもらった。


 リュシオンには1か月修行させてもらい、アルメリアからは一足飛びのブーツを借りた。


「こんなに良くしてもらったのに、私のほうこそ、なんのお礼もできなくてゴメンね」


 しゅんと謝罪すると


「お礼なんて気になさらないで。ミコトさんはわたくしたちに、十分すぎるくらいのことをしてくださったのですから」


 しかし遠慮するアルメリアと違って


「もし何か礼をしてくれるなら、半年に一度でいいから、また顔を見せてくれないだろうか?」

「リュ、リュシオン?」


 真意を問うように名を呼ぶ彼女に、リュシオンは「いえ」と真面目な顔で


「ミコト殿とはほんの1か月ですが、師弟の関係だったので情が湧いてしまって。これで縁が切れてしまうのは寂しいなと」


 私もリュシオンやアルメリアがすっかり好きになってしまった。


 せっかく友だちになれたんだし、また会いに来ていいならすごく嬉しい。


 ところがアルメリアはなんだか慌てて


「情とはどんな(たぐい)の情ですの? あれほど彼女に変な真似はするなと言ったのに、何かあったんですの!? リュシオン!」

「変な邪推をしないでください。彼女とは健全な師弟関係でした」


 彼の言うとおり、リュシオンとはほとんど特訓しかしていない。


 ただ一度だけ


『ミコト殿。少しいいだろうか?』


 夜。リュシオンは私が泊まっている客間を訪ねると


『旅の話を聞きたい?』

『アルメリア様に知られたら、またファンタジーは卒業しろと言われそうだが……』


 リュシオンは子どもの頃。勇敢な英雄や不思議な旅人が出て来るお話が、とても好きだったと言う。


 私も魔法と不思議に満ちたファンタジー小説は好きだ。しかもこの世界では、まんざら作り話でもなく


『後にそれは空想の産物ではなく、異世界から来る転移者や彼らの持つ魔法の道具が元になっていると知った。いつか物語の中の英雄や旅人のような素晴らしい人たちと会えたらと夢見ていたが、俺が実際に会ったのは、あの竜殺しの転移者だった』


 リュシオンは強大な力を得た人間が、その力で人々を救うなんて夢物語だと失望したそうだ。


『しかし、あなたは数々の魔法の道具を手にしながら決して驕ることなく、進んで人を助けようとする優しい方だった。俺が子どもの頃に憧れた物語の主人公のような人が実在するのかと、とても感動したんだ』


 だから実在する不思議な旅人である私が、これまでどんな旅をして来たのか知りたいらしい。


『あの、旅人と言ってもまだ駆け出しだし、リュシオンさんの期待に沿えるか分からないけど……』


 私は照れながらも、これまでのフィーロとの旅や、悪魔の指輪や神の宝を手に入れた経緯をリュシオンに話した。


 彼は子どもみたいに目を輝かせて


『すごい。ミコト殿は本当に物語に出て来る旅人のようだ』


 と嬉しそうに笑った。


 とても楽しい時間だったけど、夜にちょっと話しただけだし、変な真似には当たらないだろう。


 だからアルメリアにも、特訓以外は何もしてないと答えると


「そう……それならいいんですが。ちなみにミコトさんはリュシオンをどう思っていますの?」


 彼女の質問に


「リュシオンは、すごくいい先生だったよ。戦いに対しての心構えもいちいち(もっと)もで、とても勉強になった。何より私の本気を信じて、真剣に鍛えてくれて、本当に感謝している」


 溢れる感謝を笑顔で伝えると、アルメリアは「ああ……」と顔を覆って


「ゴメンなさい。リュシオンはともかくミコトさんまで疑ってしまって」


 なぜか自分を除外するアルメリアに、リュシオンはムッとして


「俺はともかくってなんですか? 俺はアルメリア様に疑われるようなことは一切していません」

「でも噂によれば竜騎士の証を彼女にあげたとか。わたくしがねだってもくれなかったくせに」


 ジト目のアルメリアに、リュシオンはキッパリした態度で


「あれは俺にとって勇気の証です。あげるとしたら弟か、今は居ない我が子か孫にと思っていましたが、もっと応援したい方と出会ったから、激励の意味で贈っただけです」


 リュシオンは我が子か孫くらい親身に、私を応援してくれているのか。


 ありがたいなぁと、ほっこりする私の前で


「師匠から弟子への純粋な激励ですのね? 他意は無いんですのね?」


 何度も確認するアルメリアに、リュシオンは鬱陶しそうな顔で


「仮に他意があったとしてアルメリア様になんの関係が?  もしかして、まだ俺を婿にするつもりなんですか?」


 彼の質問に、アルメリアはカッと赤くなり、私は目を丸くした。


 恋人設定は嘘だと聞いたけど、アルメリアはリュシオンが好きなのかな?


 私の視線に、彼女は真っ赤になって


「違うんですのよ!? 別に彼が好きとかじゃなくて、エーデルワールは守護竜の国なので、王家の女性は守護竜に嫁ぐ意味で、竜騎士と結婚することが多いんですの! でも竜の試練を突破する若者は滅多におらず、未婚の竜騎士はリュシオンだけなので! それで仕方なくですわ!」


 本人の言葉を疑うのは悪いけど、アルメリアはいわゆるツンデレなのかなと思ってしまう。


 漫画の世慣れたキャラのように「え~? 慌てちゃって怪しいな~」みたいな合いの手を打つ話術は無いので、無難に黙っていると


「しかし、その風習は自国の男から選ぶなら竜騎士が望ましいというだけで、強制ではありません。今のところ陛下に政略結婚の意思は無いようですし、アルメリア様は自分が好きな男を自由に選ばれるとよろしいかと」

「別に好きな男性なんて居ませんわ。それにわたくしは竜と騎士の国の王女。弱い男は好みじゃありませんから、けっきょく相手は絞られると言うか……」


 リュシオンの言葉に、アルメリアはゴージャスな巻き毛をクルクルと弄びながら言い訳した。


 やっぱり彼が好きなのかな? 素直じゃなくて可愛いな。


 微笑ましく見守る私の前で


「うちの親もそれを望んでいるようですが、俺は騎士としてあなたにお仕えすることはできても、異性として愛することは絶対に無理ですから。結婚相手には他の男を選んでください」


 リュシオンがいきなりアルメリアをバッサリ振ったので私はビックリした。


 2人は私を見送りに来てくれたはずなのに。どうしてこんな修羅場に?


 アルメリアも恥ずかしかったようで真っ赤になると


「何もミコトさんの前で言うことは無いでしょう!? リュシオンの馬鹿! 鈍感男~!」


 リュシオンの脳天めがけて、ドカーンと大きな雷が落ちる。


 私はここひと月で培った反射神経で、巻き添えを回避した。


 アルメリアは泣いて走り去り、落雷の衝撃で吹っ飛んだリュシオンは自力で起き上がったものの


「すまない。流石に倒れそうだ。城で手当てを受けて来る……」


 ややふらつきながら、その場を去った。


「最後まで賑やかな2人だったな」


 フィーロの言葉に、私は苦笑いで頷いた。


 これ以上留まると、またケンカの種になるかもしれない。


 私は今度こそエーデルワールを後にした。

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