がんばりたい理由
夜はエーデルワールの兵士さんたちに作った痛み止めと傷薬が、今度は自分の手当てに活躍した。
フィーロは擦り傷や打撲の手当てをする私を痛ましく思ったのか
「こちらから頼んだとは言え、リュシオンはなかなか容赦が無いな。君は本来、荒事が苦手なのに。毎日たくさん戦って転ばされて辛くないか? 我が君」
フィーロの問いに、私は笑顔で首を振って
「本気で強くなりたいから、厳しいほうがいいんだ。少しずつだけど、前より体が動くようになって嬉しい」
強がりじゃなく、自分が少しずつ成長しているのが感じられて、本当に嬉しかった。
「それに荒事は苦手だけど、苦痛には少し耐性があるから」
何気なく付け足すと、フィーロは「そうだな」と同意して
「君は前の世界で、もっと恐ろしい敵と戦っていた。子どもの頃から何度も手術し、止むことのない苦痛や吐き気。死の恐怖に耐えて来た。君に生きて欲しいと願う父母を悲しませないために」
思いがけない彼の言葉に、私は心の深くを揺さぶられた。
可哀想なのは私じゃなくて、こんな手のかかる子どもを持った両親だと、ずっと自分を責めていた。
本当は手術が怖くて嫌だった。でも両親は「これで良くなってくれれば」と期待している。
私が拒否したら、どんなに悲しむか分からない。
だから治る見込みのない延命のための手術を、両親が望むだけ受け続けた。
手術だってお金がかかる。それを工面する両親がいちばん大変なんだ。だから辛いとか苦しいなんて思っちゃいけない。
生前は誰にも言えなかった。自分さえ認められなかった本音を、フィーロは知ってくれている。
心の奥底に予期せず触れられて、思わず泣いてしまった私に
「君は前世では病気のせいで何もがんばれなかったと思っているようだが、それは違う。君は前の人生で人並み以上に努力して、最後まで父母のために生き抜いた。類まれな偉業なら、君は前世からすでにしているんだ」
フィーロは誰も知らない小さな戦いを称賛すると
「勝手に君の過去に触れて、すまない。でも一度伝えておきたかったんだ。君がすごいのは道具のせいじゃなく、君がこれまで積み重ねて来た経験によるものだと」
彼の言葉がとても嬉しくて、私は「じゃあ、もっとがんばりたい」と涙目で笑って
「この世界で、もっとたくさんの経験を積んで、たくさんの人の力になりたい。何よりフィーロの願いを叶えられるように、もっと強くなるね」
最初はフィーロが、ただ大変そうだから助けたかった。でも今はフィーロが大好きだから、彼の願いを叶えてあげたい。
笑顔で誓う私に、フィーロは少し複雑な微笑みで
「……ああ、期待している。俺を救える者が居るとすれば、それはきっと君だから」
それから私はいっそう熱心に稽古に取り組んだ。
ただリュシオンさんにも竜騎士としての仕事が有り、一日中私に付き合えるわけではない。
彼が居ない時は、1人で体力作りの基礎トレーニングをしていたのだけど
「旅人さん! 兄様の代わりに、僕たちが稽古に付き合います!」
「ます!」
リュシオンさんの弟妹であるレックス君とイーリスちゃんが、木の実を投げて回避の練習に付き合ってくれたり
「僕たちを追いかけてタッチしてください!」
「さい!」
チョロチョロ逃げ回る子どもたちを追いかけたりした。
後者は実質、鬼ごっこだった。
「弟たちが体力作りの邪魔をしているようで、すまない」
リュシオンさんの謝罪に、私は「全然」と笑顔で首を振って
「前後左右から同時に投げられる木の実を避けるのは難しくて勉強になりますし、鬼ごっこも楽しく走り込みができるから、むしろ助かっています」
「確かに、あなたの動きはみるみる良くなっている。弟たちとの遊びが、訓練になっているなら良かった」
彼の幼い弟妹との特訓は遊び感覚だけど、リュシオンさんとの稽古はそうはいかない。
「木剣で相手をして欲しい?」
私の申し出に、リュシオンさんは流石に心配そうな顔で
「木剣での稽古は防具をつけていても痛い。なるべく当てないようにはするが、あなたも動くのだから、全ての接触は避けられないだろう。それでもやるのか?」
リュシオンさんの確認に、正直少し怯む。
けれど、ここは元の世界とは違う。私は実際に剣を向けられて来た。
「次に同じことがあっても怯んで動けなくならないように、武器を向けられることに慣れておきたいんです」
真剣に頼むと、リュシオンさんは苦笑しつつも
「普段は素直でのんびりした方なのに、その勇敢さはどこから来るんだろうな」
そう言って木剣での稽古を引き受けてくれた。




