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それぞれが描く未来

 特に用事が無くても10日に1回は、アルメリアやリュシオンや獣王さんたちと会っていた。


 しかし最近、気がかりなのは


「リュシオン、なんか会うたびにやつれてない? お仕事そんなに大変なの?」


 一緒に食事をしようと入ったお店で問う。


 リュシオンは私たちと別れて1人になってから、各地を転々としつつ、主に犯罪者や魔獣を狩るハンターや護衛などで稼いでいるらしい。


 犯罪者や魔獣を相手にする時は、アジトや生息場所を知るために、フィーロに助言を求めることもあった。


 心配する私に、リュシオンはやや虚ろな目で


「自由業の弊害だろうか? 自分で仕事量を決められるとなると、つい依頼を引き受けすぎてしまって。と言っても食事と休養は、ちゃんと取っているので心配しないでくれ」


 やんわり微笑みながら言ったけど、やっぱり疲れているように見える。


 それは私の気のせいではなく、同じテーブルを囲むフィーロが半目で頬杖を突きながら


「と本人は言っているが、リュシオンは今ある目的のために倹約中で、ろくな食事をしていない。その上休養も毎日の睡眠だけで、他はずーっと働き通し。若い上に体力があるから無理がきいてしまうが、母上やアルメリアが知ったら涙目で叱るだろう過酷な暮らしだな」


 この場にリュシオンのお母さんとアルメリアはいないけど


「なんで!? リュシオン! お仕事をがんばるのはいいけど、体は大事にしなきゃ! もし過労で死んじゃったらどうするの!?」


 代わりに私が涙目で叱ると、リュシオンはオロオロして


「す、すまない。心配をかけるつもりは無かったんだが。どうしてもまとまった金が必要で、早く貯めたくてつい」

「まとまったお金が必要って、何か欲しいものでもあるの?」

「欲しいものというか……」


 リュシオンが躊躇いがちに口にしたのは


「学校を作りたい?」

「個人としてエーデルワールのために何ができるか考えた時、やはり必要なのは人材じゃないかと。エーデルワールには貴族や市民のための学校はあるが、家や親の無い貧しい子どもたちは教育を受けられない。そういう子たちが衣食住を保障されたうえで、安心して学問や剣を学べる場所があればいいと思ったんだ」


 「まぁ、あくまで理想で実現は難しそうなんだが……」と彼は自信なさげに付け足したけど


「でもその理想が実現したら、絶対皆のためになると思う! リュシオン、すごいね! そんな立派なことを考えていたんだね!」


 素晴らしいアイディアだと絶賛すると、リュシオンは「いや」と赤くなって


「今は本当に理想でしかなくて、1人の力では難しいかもしれない。ただの夢想に終わるかもしれないことを、そんなに褒めないでくれ」

「1人の力で叶えるのが難しいのは当たり前だよ。リュシオンだけじゃなくて皆のための夢なんだから、たくさんの人の力を借りたらいいよ。私ももちろん協力するから」

「我が君の言うとおりだ。幸い君には金持ちの知り合いが多いのだから、彼らに資金援助を頼むのがいいだろう」


 フィーロの助言に、リュシオンは驚いて


「金持ちの知り合いってアルメリア様か? しかしアルメリア様の金は国の金。宿舎付きの学校を作る規模となると、なんの信用も実績も無い一個人である俺のために、予算を割くことは難しそうだが」


 リュシオンはエーデルワールの守護竜だけど、国からお給料などは出ていない。その理由は女王であるアルメリアに、用途不明のお金を作らせたくないからだ。


 アルメリアにお金を出してもらうとしたら、事情を知らない大臣さんたちにも納得してもらう必要があるので


「アルメリアには実際に学校ができてから、視察に来てもらった上で運営費の援助を頼めばいい。形になった状態なら、彼女も周りの者を説得しやすいだろう」

「じゃあ、後は建物や土地を買う初期投資が必要ってこと?」


 私の質問に、リュシオンは顎に手を当てながら


「それだけなら、まぁ、このペースなら5年くらいあれば……」

「だから今のペースで貯めるのはダメだよ!?」


 放っておくと、すぐに過重労働に走るリュシオンを強く止めると


「我が君の言うとおり、いくらいいことでも我が身を削りすぎてはよくない。それに君が学校を作りたいのは祖国の未来のためだけでなく、今路頭に迷って苦しんでいる子どもたちのためでもあるだろう。だったら自分の力だけで成し遂げるより、人の手を借りて実現を早めたほうがいい」

「つまり自分でお金を作ってからするんじゃなくて、誰かに借金するってこと?」


 フィーロと私のやり取りを聞いたリュシオンは苦渋の表情で


「しかし借金は……どれだけ(きゅう)しても借金だけはするなと母が……」


 それはうちの親も言っていたし、借金は絶対にいけないと思う。


 でもフィーロが言っていたのは、そういう意味では無いようで


「まぁ、心配するな。金を出してくれそうな相手なら俺に心当たりがある」


 後日。マラクティカの黄金宮。


「で、雁首揃(がんくびそろ)えて俺にたかりに来たのか? しかもかつて我が国を脅かしたエーデルワールの民のために?」


 冷ややかな眼差しの獣王さんを前に、私とリュシオンは正座して


「も、申し訳ない。とても図々しい願いであるのは承知だが、どこの国の民であっても子どもは子ども。子どもたちが安心して大人になれる環境をどうか」

「わ、私からもどうか……。借りたお金は必ずリュシオンと私で返しますので……」


 一緒に深々と頭を下げると、リュシオンはギョッと顔を上げて


「いや、ミコト殿に俺の借金を払わせるわけにはいかない」


 リュシオンは再び獣王さんに顔を向けると


「竜の牙や爪や鱗は武器や防具の素材として高値で売れるので。いざとなったら俺がこの身の一部を剥がしても返済するので、どうか」

「ダメだよー!? 痛いよー!」


 混乱を極める私たちをよそに、フィーロはいつもどおり余裕の態度で


「そんな悲壮(ひそう)な覚悟を決めなくても、獣王殿も俺に頼みがあるはずだ。資金を提供してもらう代わりに、こちらも君に力を貸す。そういう条件でどうだろう?」


 フィーロの提案に、獣王さんは忌々しそうに


「最初から全て計算ずくというわけか。相変わらず嫌な男だ」

「獣王さんの頼みって、なんですか?」


 私の質問に、獣王さんは少しの間を空けて


「……民を安全に外の世界に出す方法を知りたい」

「民を外に出す?」

「マラクティカはとても平和で豊かな国だし、民も幸せそうだ。それなのに、なぜ民を外の世界に?」


 不思議がる私とリュシオンに、獣王さんは真面目な顔で


「マラクティカで暮らしたい者はそれでいい。しかし昔から一部の民には外の世界への憧れがあった。好奇心のままに外の世界に旅立った獣人たちは、差別や迫害を受けて殺されたり奴隷にされたりした。だから長年マラクティカでは、偵察のための人頭獣人を行かせる以外は外に出ることを禁じていた」


 特に今の王様である獣王さんが、酷く人間を嫌っていた。


 その考えが、どうして変わったのかと言うと


「けれど最近、マラクティカにはお前や騎士などが来るようになった。また人間の国に行ったサーティカが、あんなものを見た。こんなものを食べたと楽しげに語るのを聞いて、民たちの間に外への憧れと人間への興味が再燃した」


 さらに獣王さんは私たちをジッと見つめながら


「そして俺自身、お前や他の人間と多少の交流をしたことで、危険だからと人間や外と接触する機会を全て禁じることは、民のためにならないかもしれないと考えるようになった」

「だが実際、外の世界は獣人……特に人間と姿が違いすぎる獣頭獣人には危険な場所だ。だから獣王殿はどうすればマラクティカの民が、安全に外の世界に出て行けるか知りたい。そういうことだろう?」


 フィーロの問いに、獣王さんは俯くと


「……それと俺や民たちが、外の世界や人間たちに期待を抱くのが間違いなら止めろ。俺はこの国の民を1人だって不幸にしたくない」


 マラクティカの民の幸せのために、このまま国を閉ざすべきか。それとも開くべきか。


 判断に迷う獣王さんに、フィーロは


「残酷なことを言うようだが、この世に完全な安全と幸福はあり得ない。特に人間は、人間同士でさえ分かり合えず殺し合う生物だ。明らかに自分と違う人種である獣人を、最初から快く受け入れられるほど人間は寛容じゃない」


 その答えに獣王さんは失望したようだった。


 きっと本心では獣王さん自身も、外の世界や人間に期待したいんだ。


 それなのにフィーロは無理だって言うのかな?


 苦い気持ちで見守っていると

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