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最高の贈り物【視点混合】

 映画を見終わった後。


「エイガ楽しかったニャ。ありがとうニャ、お姉ちゃん」

「ううん、私こそ皆と映画を観られて楽しかった。リュシオンにアルメリアに獣王さんにサーティカも。こんなにすごいプレゼントを、本当にありがとうございました」


 改めて皆にお礼を言うと、アルメリアはニコニコと


「いいえ、こちらこそ。ミコトさんの世界の文化に触れられて楽しかったですわ」


 彼女に続いてリュシオンも


「子犬物語とても良かったので、忘れた頃にまた観せて欲しい」

「うん。また観たくなったら、いつでも言ってね」


 最後に獣王さんが私の頭にポンと手を置いて


「また何かしたいことがあれば言え」

「ありがとうございます」


 皆を家に送った後。私はフィーロにも


「こんなに楽しい誕生日は初めて。皆を呼んでパーティーを計画してくれて、ありがとう、フィーロ」


 記念すべき20歳の誕生日は、本当に忘れられないものになった。


 しかしこれで終わりかと思いきや


「最後に俺からプレゼントがある」

「プレゼントって、フィーロはもうタスキと帽子をくれたのに」


 目を丸くする私に、フィーロは悪戯っぽく微笑んで


「俺は秘密主義だから人前で本気は出さないんだ。まぁ、ついて来てくれ」


 それからフィーロは空飛ぶ拠点を操縦して場所を移動した。


 私に目を瞑るように指示して空飛ぶ拠点を降りた後。さらに彼に手を引かれながら、歩いてどこかへ移動する。


「さぁ、もう目を開けていいぞ」


 フィーロに言われて目を開けると


「えっ……えっ、すごい! どこ、ここ!?」


 まるで銀河に投げ出されたみたいに、空だけじゃなく足元にまで、どこまでも星々が広がっていた。


「君の世界には『天空の鏡』と呼ばれる場所があって、君は自分の目でその景色を見たいと憧れていただろう? この世界にも似た場所があるから、いつか連れて来たいと思っていたんだ」


 本当は去年の誕生日に連れて来たかったけど、その頃は移動手段が無かったからできなかったらしい。


 「やっと君に、この景色を見せられて嬉しい」と天と地に広がる星の海をバックにフィーロは微笑んだ。


 彼の言うとおり。目の前にあるのは、前世の私がテレビか何かで見て「こんな美しい景色があるんだ」と憧れながら「でも病気の自分には無理だ」と諦めていた景色だった。


 その焦がれていた景色の中に、いま立っている。


 あまりに大きな感動に言葉を無くしていると


「ここで1つ謝っておくことがある」

「何?」


 涙を拭いながらフィーロを見ると


「実は君の誕生日は明日だ」

「えっ? なんでそんな嘘を?」


 意味不明な嘘に困惑する私に、フィーロは星空を指して


「明日は見られない景色が、今日は見られるから」


 その瞬間。止まっていた星々が、魔法のように光の孤を描いて次々に流れ出す。


「ただの星空なら明日も見られたが、今日だと流星群が見られるんだ」

「すごい。降るような星空って、こういうことかな。本当に綺麗だね」


 奇跡のような光景に飽くことなく見惚れていると


【フィーロ視点】


 以前、我が君に海路を勧めたのは、彼女を喜ばせるためではなかった。一足飛びのブーツを持つエーデルワールの王女が、あの船に乗ることを俺は知っていた。


 瞬時に行き来できる一足飛びのブーツがあれば、悪魔の指輪の収集が格段に速くなる。そうやって俺は時に偶然を装って、彼女や周囲を操って来た。


 しかし他の人間のように無感覚で騙し続けるには、我が君はあまりに善良すぎた。


 葬送の笛になった男のような善人でも、入念に(おだ)てて懐柔したつもりの愚者でも、願いの権利を手にすれば、俺との約束を反故(ほご)にして自分の願いを叶える。


 そういう裏切りを何度も、心が擦り切れるほど経験して来た。


 なんでも叶えられる権利を、他人のために使う人間などいない。だとすれば他人を利用して悪魔の指輪に願わせて、呪いを解くプランは実現不可能だ。


 けれどそれ以外に永遠に存在し続ける地獄から、俺が解放される手段は無い。


 全知の鏡になってから千年近く。最初は全知の力を持ったまま、元の体に戻りたかった。次に力など要らないから、元の体に戻してくれと願った。


 今は元の体に戻りたいとすら思わない。ひたすら、この連続した意識が途絶えることを、死を望んでいた。


 だけど、それすら叶わず気が狂いそうになる中。この出口の無い暗闇から抜け出す手段を求め続ける俺に、ある日、全知の力が知らせた。こことは異なる世界に、俺をこの地獄から解放する人間が生まれたと。


 最初は信じられなかった。なんでも叶えられる権利を、他人のために使う人間なんていない。どうせソイツも俺を裏切ると。


 しかし否定したところで他に助かる見込みは無い。だったら機械的に繰り返すしか無い。例えわずかな可能性でも、いつかこの命を終わらせられるように。


 そんな耐えがたい苦痛とともに、その日を待っていた。そこに訪れたのが我が君だった。


 与えられるばかりで何もできなかった前世を悔いて、もし次があるなら今度は自分が誰かの力になりたいと、稀有な願いを抱いてやって来た子。


 恵まれた新しい体や他の便利な魔法の道具には目もくれず、助けを求められたからと言うだけで、用途の分からない俺を迷わず選ぶお人好し。


 ただそんな騙すのが気の毒なほどのいい子でも、人間は容易く変質する。特に強大な力は人を増長させて、自分を神か英雄のように錯覚させる。


 この子も悪魔の指輪や神の宝を集めるうちに、きっと変わってしまうだろう。どうすれば、この子の善良さを保って、俺のために願わせられるか? 親切そうな顔の下で、ずっとそんなことを考えていた。


 明と暗に清と濁。異なるものが触れ合えば変質は免れない。


 この世の悪に染められて、変わるのは彼女だと思っていた。しかし我が君と過ごす中で、染められたのは俺のほうだった。


 彼女は澄み切った魂と子どものような笑顔で、俺が千年かけて積み上げた人間への軽蔑と不信を打ち砕いた。


 全知の力が知らせたとおり、この子はきっと俺のために願ってしまう。去年の我が君の誕生日には、もう絶望へと向かう旅に、何も知らない彼女を誘ったことを後悔していた。


 せめて旅の間は少しでも喜ばせたくて、本人すら忘れていた前世の願いを可能な限り叶えた。その中で特に叶えたかったことの1つが、我が君が前世、最も焦がれた景色を見せることだった。


 だから今日、この子の誕生日の前夜。ようやく我が君をその景色の中に連れ出して、数え切れないほどの流星が降る中。澄んだ目を見開いて、呼吸も忘れたように目の前の景色に見入る彼女を見て、嬉しかったのは俺のほうだった。


「夜空も美しいが、君が本当に見たいのは天地一面に広がる青空だろう? 明日、君の本当の誕生日にはそれを見よう」


 声をかけると、彼女は俺に顔を向けた。感動で潤んだ瞳は、それこそ鏡のように輝く星々を映している。


 我が君は目の前の光景よりも、よほど眩しい笑顔で


「フィーロの誕生日プレゼント、本当にすごい。いつもこんなに嬉しくて感動すること無いって思うのに、まだこんな一生忘れられないような、すごい景色を見せてくれるなんて。フィーロは本当に私の夢を、なんでも叶えてくれるね」


 いちばんの誉め言葉にくすぐったくなりながら


「君の夢を叶えることが、今の俺の夢だからな」


 その返事に、我が君は少し心配そうな顔で


「フィーロ自身にやりたいことは無いの?」


 彼女は俺の献身を、贖罪か何かと誤解したようだが


「君も人の夢が叶う瞬間、自分のことのように嬉しいだろう? 俺の場合それは君なんだ。君がいるから俺はこうして、君と同じ美しい夢を見られる」


 もともと死を望んでいたくらいなので、俺自身がこの世界でしたいことは何一つ無い。しかし我が君と出会って、初めて誰かのために生きる喜びを知った。


 全知の力を持つ俺には、この千年でとっくに見飽きた世界でも、この子には違う。


 まだ知らない景色に驚き、誰かの悲しみに胸を痛め、助かって良かったと安堵する我が君を見るたびに俺の心も大きく動く。


 まるで我が君を通して、はじめてこの世界を見るように、何もかも新鮮で眩しく感じる。


 その輝きをもっと、この世の美しいもの全て、この子に見せてあげたい。そんな(まばゆ)いほどの希望が心の底から満ち溢れる。


 その感覚が今の俺には何より愛おしくて


「だからこちらこそ、ありがとう。ただ永すぎる生を終わらせることだけを願っていた俺に、こんな想像もできない幸せをくれて」


 感謝を伝えるも、我が君はピンと来ない様子で首を傾げながら、少し照れたように笑って


「私のほうが絶対に「いつもありがとう」だけど。こうして2人でいることが、フィーロにとっても幸せなら嬉しい」


 この子はきっと一生、自分が他人にどれだけの恩恵を与えたか気づかないまま。


 いつか永遠の眠りにつく日には「けっきょく今世も人に助けてもらうほうが多かったなぁ」と、とぼけたことを思うのだろう。


 果たして我が君が一生この調子なのか、その確認も楽しみで、ずっとこの子を見ていたい。


 何もかも知り尽くしたはずの世界で、まだ知りたいと思える幸福に、我が君の隣で笑った。

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