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透過の指輪【視点混合】

【???視点】


 炭鉱夫は危険な職業だ。だからこそ誰でもなれる割に給料がいい。


 仲間のほとんどは前科持ちや外国人。または文字も読めない無教養の人間。だからいざ炭鉱でトラブルが起きた時は、大金を投じて救出するよりも、そのまま見捨てられるほうが多かった。


 そんな事態が今まさに起きていた。


「まさか作業中に崩落が起きて生き埋めになっちまうなんて」


 なんとか岩に押し潰されずに済んだが、出口に繋がる通路が見事に塞がれてしまった。


 また逃げ惑う際のどさくさで、作業用の道具も一部紛失。内側から掘ろうにも通路を塞ぐ岩壁は強固で、残った道具では歯が立たなかった。


「もう、どのくらいここにいるんだ?」

「時間なんて気にしたところで無駄さ。まだ資源が取れるならともかく、この鉱山はもう枯れかけていた。それが分かっているのに、わざわざ俺たちを助けるためだけに作業員を送り込むはずがない。俺たちごと、この鉱山を閉じて終わりだよ」


 おっさんのシビアな見解に、他の炭鉱夫は悔しそうに地面を叩いて


「チクショウ! 俺たちの命は、そんなに安いのかよ!?」

「うるせぇ、黙れ! これ以上イライラさせるな!」


 恐怖と不安を怒りに転化させる者もいれば、隅っこで背を丸めて頭を抱えながら


「ああ、空が見たい。こんなところで死にたくない。神様……」

「だから黙れって言っているだろ! いい加減にしないと、俺が黙らせ……」


 弱気な男を黙らせようと、仲間の1人が立ち上がったが


「ど、どうした!?」


 ソイツが唐突に倒れたので、俺たちは騒然として


「どうして急に倒れたんだ!? まさか酸欠か!?」


 この息苦しさは閉塞感のせいかと思っていたが、まさか酸素が尽きかけているのだろうか?


「それなら俺たちが無事なのは、おかしいだろう……って」


 冷静になだめようとしていた男まで突如として倒れてしまう。


「お、おい。なんだよ、次々に倒れて。こんな時に冗談はよせって」


 まだ意識のある者が、倒れている者の肩を揺さぶるが


「なんで揺さぶっても反応が無いんだ? ま、まさか死んで?」

「いや、寝ているだけみたいだ。でも、これだけ揺さぶっても起きないし、それもみんな同時に眠っちまうなんて」


 しかし、その男までも言葉の途中で眠りに落ちてしまった。


「お、おい。嘘だろ? お前まで?」


 いったい何が起こっているんだ?


 異常な状況に1人取り残されてパニックになりかけていると、肩に何か触れる感覚。


 ビクッと振り返るも、それが何か知る前に意識が遠のいた。


【ミコト視点】


 とある町を訪れた私たちは、作業中に崩落が起きて、中にいた炭鉱夫さんたちが戻って来ないとの噂を聞いた。


 その鉱山はもう資源が尽きかけていたようで、彼らの雇い主は


『酷い崩落だったし、どうせ誰も生きていないだろう』


 救助の手間や費用を惜しんで、作業員さんたちを見捨てることにした。


 その噂を知った人たちは炭鉱夫さんたちを心配しながらも


『でも実際、中にいる人たちが生きているか分からないし、下手に助けようとしたら、今度は自分たちが崩落に巻き込まれるかも』


 と動けずにいた。


 でもフィーロによれば、13人もの作業員さんが生き埋めになっているらしい。


 どうにかして助けられないかなと尋ねた結果。


「よし。我が君。もうしゃべっていいぞ」


 またも神樹さんからもらった新しい指輪が役に立った。


 今回『安眠の指輪』の他に役に立ってくれたのは『透過の指輪』。


 透過の指輪は姿を透明にするだけでなく、物質を通過できる。


 また透過の指輪は使用者だけじゃなく、指輪を嵌めた手で触れたものも透過状態にする。


 私は透過の指輪を嵌めてフィーロと手を繋ぎ、分厚い岩壁をスルッと通過した。


 後は安眠の指輪を嵌めたフィーロが、姿を隠したまま次々と炭鉱夫さんに触れて眠らせた。


 私は全員が眠ったのを見届けて、フィーロと繋いでいた手を離すと


「仕方ないこととは言え、いきなり安眠の指輪で眠らせて、怖がらせちゃって申し訳なかったな」


 例によって、魔法の道具のことはなるべく知られないほうがいいので、眠ってもらった。しかし炭鉱夫さんたちが、あんまり怯えていたので可哀想だった。


 しゅんとする私に、フィーロは明るく笑いかけて


「無事に外に出られれば、安堵と喜びで一時の恐怖なんて吹っ飛ぶさ」

「でも思ったより人数が多くて、一足飛びのブーツを使うとしても運ぶのが大変そうだね」


 一足飛びのブーツは場所を指定しながらジャンプすることで発動する。同行者が気絶している場合は、一瞬だけでも持ち上げなければいけない。前にサーティカと死の砂漠で倒れていたリュシオンを持ち上げた時は、すごく大変だった。


 しかし私の心配に、フィーロは平気な顔で


「何もそのままのサイズと重さで運ぶ必要は無い。ちょうど眠っていることだし、リサイズの手袋で一時的に小さくなってもらおう」

「そっか。それなら一気に運べるね」


 リサイズの手袋で小さくすれば、サイズに見合った重さになる。


 私たちはまず作業員さんたちを、お人形サイズまで小さくした。そして一足飛びのブーツで一気に鉱山の入口に戻る。


「ちょうどここは崩れる危険があるからと立ち入り禁止になっている。作業員たちを元の大きさに戻したら、俺たちはまた透過状態になって安眠の指輪だけ外せばいい」


 「元の大きさになれ」と言いながらリサイズの手袋で撫でると、作業員さんたちは寸分たがわず、本来の大きさに戻った。


 再び透過の指輪で透明になり、フィーロが嵌めていた安眠の指輪を外すと、作業員さんたちの睡眠状態は一気に解けて


「はっ!? えっ!? ここは外!? いつの間に!?」

「俺たちは確か、炭鉱の中で生き埋めになったはずじゃ……」

「まさか全員で夢を見ていたわけじゃないよな……?」


 最初は安堵や喜びよりも、疑問と困惑が大きかったようだけど


「どうでもいい! 助かったなら!」

「ああ、良かった! またこんなに綺麗な空が拝めて!」

「ありがとう、神様! 感謝します!」


 生き埋めになってから、まだ3日目だったので、作業員さんたちは自力で町に戻れそうだ。


「みんな助かって良かった」


 私たちはワイワイと歩き去る作業員さんたちを見送りながら


「正直すり抜け機能なんて、使う機会あるかなって思っていたけど、すごく役に立ったね」


 私の言葉に、フィーロは「ああ」と頷いて


「一足飛びのブーツは行ったことのある場所か知り合いのもとにしか行けないし、空飛ぶ拠点のワープ機能では閉ざされた場所には入れない。透過の指輪が無ければ、あの作業員たちを助けることはできなかっただろう」

「安眠の指輪にもまた助けられちゃったし、今度神樹さんに改めてお礼を言いに行かないとね」


 笑顔で言い合うと、私たちも町に戻った。

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