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最強の旅人、爆誕【視点混合】

 皆とカレーパーティーをした後。お金が無いと気づいた私は、しばらくフィーロと金策をがんばることにした。


 その方法だけど


「えっ、別行動するの?」

「せっかく別々に動けるようになったんだ。2人で同時に違う商売をすれば収入も倍になる」

「そうだけど……フィーロがいないと悪い人が近づいて来ても分からないし、ちょっと不安だな」


 本当はちょっとどころじゃない。リュシオンと一緒の時でさえ、見るからに流れ者の異国人で、ついでに弱そうな私には、悪い人がわんさか寄って来た。


 触れるだけで相手を眠らせる『安眠の指輪』もあるし、前にリュシオンに鍛えてもらって、ちょっとは戦闘の心得もある。


 ただ例えば背後からいきなりガツンと殴られる。もしくは締め上げられるなどの不意打ちには弱い。


 1人で大丈夫かなと、やっぱり不安だったけど


「俺が一足飛びのブーツを履いていれば、君に何かあった時、一瞬で駆け付けられる。それに君には、最強の用心棒がついているから大丈夫だ」

「最強の用心棒って?」


【リュシオン視点】


 最近この街には、よく当たると評判の占い師がいるらしい。その噂は別の街にも届き、わざわざ遠くから足を運ぶ客もいるようだ。俺も噂を聞いて、占い師に会いに来た客の1人だった。


 しかし占って欲しいわけではなく


「フィーロ殿」


 予想どおり、街角で占いをしていた彼に声をかけると


「やぁ、リュシオン。時間どおりだな」

「時間どおりとは? 俺が勝手に会いに来たのに」


 首を傾げる俺に、フィーロ殿の対面に座っていた若い女性客が


「占い師さんは、あなたが会いに来ると事前に分かっていたみたいです! だから今日、占えるのは私で最後だと、他のお客さんはみんな帰してしまって! 私の占いも、今ちょうど終わったところなんです! 占いで来客があると分かったとしても、こんなにピッタリ当たるなんてすごい!」


 興奮する女性客に、フィーロ殿は麗しく微笑みかけて


「その当たる占い師が、君の恋は君の努力次第で成就すると言っていたことを、どうか忘れないで欲しい。君は自分が思うより魅力的な女性だ。自信と思いやりを忘れずに。自分から積極的にアプローチすれば、彼は必ず君に振り向く」

「あ、ありがとうございます! がんばります!」


 女性客は頬を上気させながら帰って行った。


「すごいな。白い髪に紫の瞳の美貌の男性占い師がいると聞いて、もしやフィーロ殿ではと来てみたんだが評判以上の人気ぶりだ」

「ああ。おかげさまで稼がせてもらっている」


 最近はミコト殿ではなく、フィーロ殿が直接占っているそうだ。優しいミコト殿は自分の利得より客の満足を優先して、何で稼ぐとしても、かなりの低価格だった。


 騎士の俺ですら心配になる商売っ気の無さ。だからフィーロ殿はミコト殿が貧しい想いをしないように、自分が率先して稼ぐことにしたらしい。


 それを聞いた俺は


「今日は俺が来るからと、他の客を断ったとか。仕事の邪魔をして申し訳ない」

「いや、君のおかげで予言が見事に的中する様を見せられた。さっきの客はこの街の住人だから、俺の実力は本物だと知り合いに宣伝して、より多くの客を連れて来てくれる」

「流石、フィーロ殿は策士だな」


 フィーロ殿がついている限り、ミコト殿が路頭に迷うことは無さそうだと安心した。


「ところでミコト殿は?」

「彼女も仕事中だ。この街では主に不用品の買い取りをしている」

「たまたま不在なのではなく別行動しているのか? 彼女のような大人しい女性が1人で働いていたら、あっという間に悪人に目を付けられるのでは?」


 心配する俺に、フィーロ殿は含みのある笑みで


「心配なら様子を見に行くか? 今なら面白い姿が見られるぞ」

「面白い姿?」


 それからフィーロ殿は俺を連れて、一足飛びのブーツでミコト殿のもとに飛んだ。


 彼女も同じ街にいるので、景色はそう変わらないが


「どんな商品でも買い取ってくれる『買取り屋』のお嬢ちゃんってのはアンタのことだよな? こんなに評判になるくらいだから、ずいぶん儲かっているんだろ? ちょっと俺たちにも恵んでくれよ」

「そうすりゃ他の連中には、手を出さないように言ってやるからよぉ」


 ミコト殿は柄の悪い男たち3人に、裏路地の突き当りに追い込まれ絡まれていた。


 絵に描いたようなピンチに硬直する俺とは逆に、フィーロ殿は笑いながら彼女を指して


「な? 面白いくらい絡まれているだろ?」

「何も面白くない! ミコト殿、大丈夫か!?」


 不謹慎な彼に憤りつつ、男たちの背後から声をかけると


「あっ、リュシオン」


 俺たちに気付いたミコト殿は


「大丈夫、大丈夫。危なくないから気にしないで」

「いや、とても危険な状況だと思うが!?」


 助けを求めるどころか、なぜか気にするなと手を振るミコト殿に思わずツッコむと


「なんだよ。兄ちゃん、このお嬢ちゃんの知り合いか?」

「もらうもんさえもらえば、お嬢ちゃん自身には手を出さないから安心しろよ」


 直接的な危害は加えないとのことだが、ミコト殿の金を奪う気だ。


 そんなの見過ごせるはずがないと剣を抜きかけた時。


「えーっと……これ以上リュシオンに心配をかけたくないので、この人たちも傷つけないように、お願いします」


 緊張感に欠ける声で、ミコト殿が誰かに頼むと同時に


「何ごちゃごちゃ言ってんだって、うっ!?」

「な、なんだ!? どうした!? って、わっ!?」


 神樹からもらったという新たな指輪の効果だろうか。ミコト殿はあっという間に男2人を倒した。


 残された1人は、急に倒れた仲間たちに怯みつつも


「どうして次々に倒れて……テメェ、何しやがったんだ!?」


 原理は理解できずとも、ミコト殿のせいであることは分かったのだろう。ナイフを抜いて彼女に斬りかかった。


「ミコト殿!」


 咄嗟に駆け出すも距離的に、男がミコト殿に接触するほうが早い。


 刺される! と思った瞬間。


 キィンッと甲高い金属音を立てて、何かが男のナイフを弾き飛ばす。ミコト殿が見慣れぬ短剣を抜いて、咄嗟に斬り払ったようだった。


 男が驚く間もなく、ミコト殿は魔法の指輪を嵌めた手で触れて、最後の1人も無力化した。


 俺は男たちに近づくと、彼らが眠っているのを確認して


「男たちを眠らせたのは安眠の指輪の効果だとして、いつの間に剣を習得したんだ? それも、ちょっと齧った程度の動きではなかったが」


 まるで達人のように鋭い動きだった。


 しかし短剣を鞘に戻したミコト殿は、いつもの温和な笑顔で


「私が強くなったんじゃなくて『最強の剣』さんのお陰だよ。フィーロに言われて、最近はいつも身に着けているんだ」

「さ、最強の剣? しかしあれは確か長剣だったような」


 デザインは似ているが、長さが違うと困惑する俺の後ろから


「リサイズの手袋で短剣に直したのさ。そのほうが我が君は携帯しやすいし、必要なのは刃ではなく自動戦闘と危機察知だからな」

「なるほど。それで、さっきの身のこなしか」


 フィーロ殿の説明に納得する俺をよそに、ミコト殿は浮かない顔で


「フィーロ。この人たちも『懲罰の壺』に入ってもらったほうがいいかな? さっきの様子だと他の人も被害に遭っているのかなって」

「ああ。半ぐれ程度の連中だから、1週間ほどで真人間になるだろう。俺が名を教えよう」


 懲罰の壺は相手の名前を呼び、壺の口を向けるだけで対象を収容できる。これもリサイズの手袋で小さくしたのか、薬壺のような手のひらサイズになっていた。


 名前を知られたら最後の恐ろしい道具だが、フィーロ殿によれば対象は懲罰の壺が悪人と判断した者だけ。


 更生させる必要の無い者。つまり善人には効果が無いらしい。ただ彼らは明らかにクロだったので、無事に懲罰の壺に飲み込まれた。


 ミコト殿たちはこうして自分を襲う者たちの命ではなく悪意を消して、犯罪者を減らしているようだ。


「なんと言うか、あなたたちはすごいな。ミコト殿もすっかり頼もしくなって、もう俺の助けは要らなそうだな」


 俺もエーデルワールの守護竜だが、ミコト殿たちはもっと特別で大きな力を持っている。能力的にも精神的にも、とても追いつけない。住む世界が違う。彼女に、もう俺は必要ない。


「うん。もう私たちだけで大丈夫」


 彼女自身に笑顔で肯定されて、密かに胸を刺されたが


「とか言って。また困ったことがあったら、リュシオンやアルメリアに頼っちゃうかも」

「それは構わないが、女王であるアルメリア様はともかく、単純な武力なら今やあなたのほうが俺より上では?」


 俺にできるのは力仕事か悪人を倒すことくらいだ。しかしフィーロ殿はかなりの重量でも念力で動かせるらしいし、悪人ならミコト殿自身で倒せる。


 やはりどう考えても俺の出る幕は無さそうだが


「でも、これまでだって皆に助けてもらって来たし、多分これからも私たちだけじゃ、どうにもならない問題があるかなって」


 ミコト殿は当たり前のように言うと、ハッと顔色を変えて


「だとしても最初から頼る気でいるのは良くないよね? ゴメン。できるだけ自分たちで解決できるようにするから」

「そ、そんなことない!」


 俺は急いで否定すると、少し恥じらいながら話を続けて


「もしかしたら俺は、もうお役御免かもと寂しかったんだ。だから、あなたがこれからも頼ってくれるなら、むしろ嬉しい。どんな小さなことでもいいから、困りごとがあれば、なんでも言ってくれ」


 俺の言葉に、ミコト殿は「あ、ありがとう」とホッとしたように笑うと


「いざという時はリュシオンに頼ってもいいんだと思うと、すごく安心する」


 こんなに強く大きくなっても、ミコト殿はまだ俺を必要としてくれるのか。


 彼女の言葉に、じんわり嬉しくなっていると


「でも私もリュシオンを助けるから! 何かあったらリュシオンも頼ってね!」

「ああ」


 どれほどすごい力を得ようと、ミコト殿はミコト殿のまま。良くも悪くも俺たちの関係と距離感は、変わらないようだと安心した。


 俺たちのやり取りを見届けたフィーロ殿は穏やかに口を開いて


「さて、ここで会ったのも何かの縁だ。せっかくだから、今日は一緒に夕食でも取ろう」

「あっ、いいね。リュシオンもいいかな?」

「ああ、ぜひ。久しぶりに一緒に食べよう」

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