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ホームパーティー

 カレーもできてご飯も炊いて、福神漬けと飲み物も用意して準備OK。


 いちばん多忙なアルメリアの予定に合わせて、さっそく空飛ぶ拠点に皆を呼ぶと


「なんかいい匂いがするニャ―。美味しそうニャー」

「ミコトさんの世界の料理を作ってくださったんですよね? どんな料理か、とても楽しみですわ」


 ニコニコの女性陣とは逆に、リュシオンはすまなそうな顔で


「本来ならこちらが、あなたの無事を祝うべきなのに。逆にご馳走になって申し訳ない」

「ううん、気にしないで。今までたくさん心配や迷惑をかけちゃったお詫びでもあるけど、単に私が自分の世界の美味しいものを、皆に食べて欲しかっただけだから」


 さっそく熱々のカレーをホカホカご飯にかけて皆に配ると


「これがその料理か。なんて名前だ?」


 獣王さんの質問に、私はニコニコと


「カレーライスって言って、私の世界ではすごく人気の家庭料理なんです」

「サーティカ、央華国で食べてからお米好きニャ! さっそく食べるニャ!」


 我先にスプーンを持つサーティカに


「わっ、待って! サーティカには別のものを用意してあるから!」

「えっ? なんでサーティカだけ別ニャの?」


 サーティカとは、これまで普通に同じものを食べていた。


 ここは異世界だし、サーティカは獣人だから、同じ食事でいいつもりだったんだけど


「それは君の体が獣王殿よりも獣に近いからだ。本物の猫ほどではないが、カレーには玉ねぎが入っているからサーティカは食べないほうがいい」

「そう言えば、人間の国の食べ物を食べて、たまにサーティカが体調を崩す時があったな。ミコト殿の薬のおかげですぐに治るから気にしていなかったが、もしかしてあれも玉ねぎのせいだったのだろうか?」


 猫が食べてはいけないものが、一部サーティカにも当てはまるらしい。どれもすぐ死に至るものではないそうだけど、多量に摂取すると病気になるリスクがあるそうだ。


 けれどサーティカ本人はスプーンを握りしめて


「薬を飲めば治るなら食べても平気ニャ! サーティカもカレー食べたいニャ!」

「ゴメンね。でも流石に体に悪いのを知りながら、カレーを食べさせるのはちょっと。その代わりサーティカには、お寿司を用意してあるから。カレーより高級だし、すごく美味しいよ」

「ニャッ? カレーより高級ニャ?」


 『高級』というワードに反応したサーティカに、フィーロが続けて


「我が君の世界では、カレーは庶民の食べ物だが、寿司は貴族の食べ物だな」

「なぜこの中でいちばん身分の低いサーティカがスシで、俺たちがカレーなんだ?」


 獣王さんの冷ややかなツッコミに


「すみません。最初に食べさせたいなって思いついたのがカレーで。それに皆にお寿司を振舞うほどのお金は無くて……」


 私の悲しい懐事情に、リュシオンは「うっ」と手で口元を覆って


「逆にそんな経済状況で、ご馳走しようとしてくれたのか?」

「いいんですのよ、ミコトさん。そんな小さくならなくても。わたくしたちは、あなたが作ってくださったカレーのほうが嬉しいですから」


 アルメリアにも全力で気遣われつつ


「ご、ゴメンね。でも、きっと美味しいと思うから、取りあえず食べてみて。サーティカにもお寿司、持って来るね」


 サーティカにお寿司としょうゆを用意してあげると


「ニャ―。確かにオスシ美味しいニャ! これはまさに貴族の食べ物ニャ!」


 何気なく「お寿司を1人前」と頼んだら、お金がごそっと減っていて驚いたくらいだ。多分スーパーのお寿司ではなく、ちゃんとしたお店のものだろう。


 すごく美味しいんだろうなと羨ましかったのは私だけじゃないようで


「……」


 誰も口には出さないけど、皆が羨ましそうにお寿司を見ているのに気づいて


「ゴメンね! 今度ちゃんとお金を貯めて、皆にもご馳走するから!」


 申し訳なさにワッと叫ぶと、リュシオンが即座に


「無理しないでくれ、ミコト殿! あなたが作ってくれたカレーはとても美味しい! 俺は絶対こっちのほうが好きだ!」


 続いて獣王さんとアルメリアも


「俺もこれで十分だ。それと金が無いなら俺がやるから、無駄に身を削るな」

「獣王殿の言うとおりですわ。今度オスシを食べるとしても、皆でお金を出し合いましょう」


 貴族や王族にもかかわらず、カレーと言う名の庶民料理を出されても、全力でフォローしてくれる皆の優しさにほろりとしつつ


「み、皆ありがとう。今度また皆で、お寿司とかラーメンも食べようね。それもすごく美味しいから」


 今日この場で誰よりも美味しいものを食べたサーティカは自分の分を平らげると、皆のカレーをジーッと見ながら


「ニャ―。やっぱりサーティカ、カレーも気になるニャ―」

「しっかり平らげておいて何を言っているんだ」


 意地汚いと言わんばかりのリュシオンに、サーティカはムッとして


「だってオスシ冷たい料理ニャ! 温かい料理も美味しそうニャ! サーティカ、どっちも食べたいニャ!」

「さ、サーティカ。まだお腹が減っているなら、おやつもあるから」


 私はこんなこともあろうかと用意しておいたサーティカ用のおやつの封を開けた。


「嫌ニャ―! サーティカも皆と同じもの食べたいニャー! こんなよく分からないもので誤魔化されるわけ……」


 途中でピタリと動きを止めた彼女に


「サーティカ?」


 怪訝な顔をする獣王さんの前で、サーティカはおやつの匂いをクンクンクン……と嗅ぐと、いきなり、ばくぅっ! と、すごい勢いで食いついた。


「ああっ! サーティカちゃんが野生の顔に!」

「ミコト殿の手をがっちり掴んでまで、謎のペーストを貪るなんて、本気食いじゃないか」


 リュシオンの言うとおり、私の手をホールドするニャンコの手が力強い。


 存分におやつをペロペロしたサーティカは、満面の笑みで顔を上げて


「ニャ―! お姉ちゃん、これすごく美味しいニャ! これなんて言うニャ!?」

「チュルチュルだよ。私の世界で猫に大人気のおやつなんだ」

「サーティカ、チュルチュル好きニャ―。オスシといい、こんな美味しいものがあるなんて、お姉ちゃんの世界すごいニャ―」


 なんとかサーティカの機嫌が直って良かった。でも今回は彼女が我がままなのではなく、カレーを選んだ私のミスだ。


 次に何か作る時はフィーロと相談して、皆で美味しく食べられるものにしよう。


 食事が済んだ後。私は皆が帰る前に


「最後に皆で写真を撮っていい?」

「シャシンとは?」


 首を傾げるリュシオンに、私は実際に見せたほうが早いと、インスタントカメラでアルメリアを撮った。プリンターでの印刷が必要なデジカメと違って、インスタントカメラは本体からすぐに写真が出て来る。


 私から写真を受け取った彼女は


「まぁ、すごい! まるで風景をそのまま切り取ったみたい!」


 アルメリアの横から、リュシオンとサーティカも写真を覗き込んで


「本当に。肖像画よりも精巧な写し絵ですね」

「お姉ちゃんの世界、すごいものがいっぱいあるニャ―」

「それでここにいる全員が入ったシャシンが欲しいということか?」


 獣王さんの問いに、私は「はい」と笑顔で


「ここにいる皆、私の大事な友だちだから。全員で一緒に写った写真が欲しいなって」

「サーティカも皆のシャシン欲しいニャ。サーティカの分も作ってニャ」

「わたくしもぜひ皆さんのシャシンが欲しいですわ」

「じゃあ、皆で1枚ずつ持とうよ」


 言い合う私たちをよそに、リュシオンはカメラを指して


「しかし、その道具の使い方だと、ボタンを押す人物が入れないのでは?」

「あっ、そうだね。このインスタントカメラにはタイマーがついてないみたいだから」


 撮影者抜きの写真になってしまうと困っていると


「じゃあ、俺が撮ろう」

「でもフィーロがいない写真になっちゃうよ? それなら私が撮ったほうが」

「俺も一緒に写れるから大丈夫だ。まぁ、見ていてくれ」


 フィーロは私たちを並ばせると、その中に自分も入った。


 だとするとカメラは誰が撮るの? と思ったら


「カメラが宙に浮いているニャ! これも実は魔法の道具ニャ!?」


 サーティカが驚いているとおり、カメラは何も無い空中に固定されたように浮いている。


「いや宙に浮くのはカメラの本来の機能じゃないけど、もしかしてフィーロが?」

「前に言っただろう? 俺は触れずに物を動かせるんだ」


 そう言えば前に、翼人には超能力があって、フィーロは念力が使えたと言っていたっけ。


「神の宝ではなくフィーロ殿自身の能力なのか?」

「こんな魔法はじめて見ましたわ。本当に不思議な方ですわね」


 フィーロの超能力のおかげで撮影は無事に終わって


「すごくよく撮れている。ありがとう、フィーロ」


 友だち全員で撮った写真を、皆で持てるなんて嬉しいな。


 しかし写真を配られた獣王さんはジッと見つめて


「これ、もっと大きく写せないのか?」

「この人数を全員入れると、このサイズがギリギリかと」

「お前だけ写ったシャシンが欲しい。寄越せ」


 思いがけない要求に「えっ!?」と驚く私の後ろで


「ズルい、自分だけ我がままを言って。それが許されるなら俺だって」


 なんだかリュシオンも欲しそうな様子だ。


 どうして2人とも私の写真が欲しいんだろう?


 異性の写真を欲しがるって、普通は好意だけど


「サーティカもお姉ちゃんが、もっと大きく写っているシャシン欲しいニャ」

「わたくしもミコトさんだけのシャシンが欲しいですわ。小さな額縁を作って皆のシャシンと一緒に、お部屋に飾ります」


 サーティカやアルメリアも欲しがるあたり、好意は好意でも友情みたいだ。写真が欲しいなんて人に言われるのは初めてなので、皆に言われて少し照れた。


 それでも嬉しかったので、照れながらも写真を撮って渡した後。


 皆はそれぞれ帰宅し、私とフィーロは空飛ぶ拠点に残ってパーティーの片づけをしながら


「今日はすごく楽しかったね。また皆で、こうして集まれたらいいな」

「そうだな。次は皆でタコパでもするか」


 予想外すぎるフィーロの発言に、私は「タコパ!?」と驚いて


「フィーロはたこ焼きも知っているんだ? 私もタコパ憧れだけど、たこ焼き器は買えても、電気が無きゃ使えないんじゃ」

「まぁ、見ていてくれ」


 フィーロは空飛ぶ拠点さんの壁に触れると


「話は聞いていただろう? 君の動力を電気に変換して使えるように、コンセントを作ってくれないか?」


 するとフィーロの要請に応じるように、目の前で壁が変形して差し込み口ができた。


「すごい! 空飛ぶ拠点さん、こんなこともできるの!?」

「空飛ぶ拠点は持ち主の意向に応じて、部屋数や間取りを変えられるから、コンセントはその延長だな。前の所有者であるトラヴィスは電化製品を持っていなかったし、ライトや風呂や空調などの基本設備は魔法によって動くから、あえてコンセントを作る必要も無かったんだ」


 神の宝さんたちのおかげで十分暮らせているし、元の世界の文明は諦めようと思っていたけど


「コンセントがあればタコパもできるし、そのうちテレビとDVDを買えば、皆に映画も見せてあげられるかもしれないね!」

「夢が広がるな」


 フィーロの言うとおり、次に皆を呼ぶ時はもっと楽しませてあげたいなと、また夢が1つ増えた。

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