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真実

 それからパーティーがはじまった。パーティーと言っても、皆で飲んだり食べたりするだけだけど


「これ、とても美味しいですわ。はじめて見る料理ですけど、どちらのものなんですの?」

「これは央華国で食べた肉まんじゅうだよ。屋台で蒸かしていたのを買って食べて。央華国は冬で寒かったから、すごく美味しかったよね」


 旅に同行してくれたリュシオンとサーティカに話を振ると


「ああ、懐かしいな」

「サーティカ、これもう一度食べたかったニャ。流石お姉ちゃんは分かっているニャ―」

「えへへ」


 各国の料理をきっかけに思い出話に花が咲いて、すごく楽しい時間を過ごせた。


「もう皆への報告は済んだんだから、フィーロも早くもとの体に戻ればいいのに。これ全部フィーロに食べさせたくて買って来たんだよ?」


 パーティーの途中、フィーロと話すも


「せっかく買って来てくれたのに悪いな。でも、やっぱり悪魔の指輪に願うのはパーティーの最後がいい」

「そっか。一大イベントだもんね。皆とご飯を食べるためにあっさり戻るのは、ちょっと違うかもしれないよね」


 その時は、それで納得したのだけど、いよいよ宴が終わった時。


「さて。俺の願いを叶える前に、悪魔の指輪がどのように願いを叶えるか説明させてもらいたい。それは俺が全知の鏡になった理由でもある」

「どういうこと?」


 無防備に首を傾げる私に、フィーロは冷たい無表情で


「君にはずっと故意に黙っていたが、俺もその昔、悪魔の指輪を集めて願いを叶えてもらった。この世の全てを知る力が欲しいと。そうして全知の鏡になった。つまり悪魔の指輪は、その人間自身を願いを叶える道具に変えるんだ」


 彼の話が聞こえているのに理解できなくて、私は「……へっ?」と無意味な声を漏らした。


 アルメリアたちも、すぐには理解できないようで


「そ、それはいったいどういうことですの? だってミコトさんがフィーロ殿の解放を願えば、フィーロ殿は助かるんじゃ」


 そうだ。だからこそ私たちは悪魔の指輪を集めていた。悪魔の指輪を7つ集めれば、元の体に戻れるとフィーロが言ったから。


 でも、それは


「俺や俺と同様に神の宝に変えられた者たちは助かるさ。その代わり今度は我が君が『悪魔の呪いを解く道具』に変わる」


 フィーロも葬送の笛も自在のブラシも、私の持つ神の宝は皆、かつて悪魔の指輪に何かを願った人間だった。


 だからフィーロはその呪いを解くために、悪魔の指輪の力で、私を解呪の道具にしようとしていた。


「君にはじめて悪魔の指輪について話した時。悪魔の指輪と言っても、悪魔が作ったわけでも宿っているわけでもないと言ったが、実際は真逆だ。悪魔の指輪はまさしく、その1つ1つに悪魔が宿る魔の指輪。それが俺が君に吐いていた最悪の嘘だ」


 悪魔に何かを願ってタダで済むはずがない。だからフィーロは安全だと嘘を吐いて、私に悪魔の指輪を探させた。


 その事実を知った獣王さんはダン! とテーブルを叩いて


「つまりお前は自分が助かるために、コイツを騙して悪魔の生贄にするつもりだったのか!?」

「こんな優しい人を騙して利用するなんて、お前が悪魔ニャ!」


 リュシオンとアルメリアも口を開かないだけで、非難の目でフィーロを睨んだ。


 でも私は、すぐにもフィーロを壊しそうな皆を止めて


「待って! フィーロを責めないで!」

「どうして止めるんだ!? フィーロ殿はずっとあなたを利用していたんだぞ!?」


 リュシオンも、すっかりフィーロを見損なったようだけど


「フィーロが本当に私を利用する気なら、わざわざ皆を集めて告白なんてしない! 最初は私を騙して利用するつもりだったかもしれない。でももう違うって。そういうことだよね?」


 フィーロが私に何か隠しているのは、前から気付いていた。だからこそフィーロは、自分を破壊しようとする獣王さんに逆らわなかった。


 今思えば、あの時フィーロはもう、自分から私を遠ざけようとしていたんだ。


 その考えは間違いじゃないようで


「……ああ、君の言うとおり。俺はもう君を犠牲にはできない。だから真実を知って欲しかった。俺を助ける方法も、価値も無いことを」


 力なく目を背けるフィーロに、私は涙目で


「……さっきの話、フィーロだけじゃないの? 他の神の宝さんたちも心のある道具じゃなくて、本当は人間だったの?」

「そうだ。葬送の笛も自在のブラシも忘却の小槌もみな、自分の願いを叶えようとして、自分自身がその願いを叶える道具にされた」


 フィーロは私の質問に硬い口調で答えると、皮肉に笑って


「神の宝は、実際は悪魔に呪われた哀れな道具たち。神の宝物庫はさしずめ悪魔の道具部屋ってところさ」


 フィーロから真実を聞いた私は


「……でも私が呪いを解く道具になれば、フィーロたちは助かるの?」

「ミコト殿!?」

「お前! 何を考えているんだ!?」


 リュシオンや獣王さんが驚く気持ちは分かるけど


「だってフィーロだけじゃなくて、他の神の宝さんたちも元は人間だったって。悪魔に道具に変えられて、ずっと苦しんでいるんだって。私、皆を助けたいよ」


 フィーロの告白を聞いて、彼を嫌えたら良かった。


 でも全部を知った私は、私を騙して利用しようとするほど呪いを解きたかったフィーロが、その願いを諦めてまで私を助けようとしてくれたことを考えてしまう。


 フィーロは私をすごく大事に想ってくれていて、他の神の宝さんたちも、すごく辛い状況なのに何度も私を助けてくれて、そんな優しい人たちを、どうしたら見捨てられるだろう?


 前世はずっと病気で、何一つ思い通りにならなかった。


 そんな人生さえ早々に終えたせいか、皆のためなら道具にされるくらい耐えられるんじゃないかと思ってしまう。


 それでフィーロや他の道具さんたちが苦しみから解放されるなら、自分が動けぬ体になっても皆を助けたいって。


 けれど私の言葉に、フィーロは喜ぶどころか沈痛な面持ちで


「やはり君は真実を知っても、俺たちを助けようとしてしまうんだな。頼む、皆。我が君を止めて。悪魔の指輪を奪ってくれ」


 この指示でフィーロがパーティーという名目で、皆を集めた意図を理解した。


 フィーロはもう私を犠牲にしたくない。でも私は、それでもフィーロたちを助けたい。


 だから他の人たちにも真実を知らせて、私から悪魔の指輪を取り上げたかったんだ。


 その狙いどおり、私はリュシオンと獣王さんに悪魔の指輪を取り上げられた。


「やだ! フィーロ! こんな終わり方はやだよ!」


 悪魔の指輪を取り返そうと暴れる私を、アルメリアとサーティカは必死に抑え込んで


「ダメです、ミコトさん! こればかりは!」

「フィーロの言うこと聞くニャ! 可哀想な道具たちのために、お姉ちゃんが犠牲になるなんて絶対にダメニャ!」


 けっきょく悪魔の指輪は、リュシオンと獣王さんが3対4で持っていることになった。


 アルメリアは何日も国を空けるわけにはいかないので自国に帰ったけど


「リュシオン。ミコトさんが何を言っても、絶対に彼女に悪魔の指輪を返さないで。あの優しい人を哀れな道具たちの犠牲にさせないで」

「分かっています。俺も同じ気持ちですから」


 そんなやり取りがあったらしい。


 私は頭が冷えるまで、リュシオンとマラクティカに滞在することになった。

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