皆でパーティー
事件の解決で頭がいっぱいだったけど、気づいたら私は最後の1つである傲慢の指輪を手に入れていた。
大勢の信者さんたちを故郷に帰したり、教祖さんを始め反省が必要な人たちを懲罰の壺に入れたりが済んだところで
「ようやく悪魔の指輪が全部そろったんだ! これでフィーロの願いを叶えられるね!」
「おめでとう、2人とも。あなたたちが無事に目的を遂げられて俺も嬉しい」
笑顔で祝福してくれるリュシオンに「ありがとう!」と返しながら
「さっそく指輪に願いを叶えてもらおうよ。どうやって願えばいい?」
一刻も早くフィーロを自由にしてあげたくて説明を急かすと
「その前にアルメリアたちを呼んでパーティーを開かないか? 最初は俺と君だけの旅だったが、ここにいるリュシオンを始め、たくさんの人の協力の果てに叶ったことだ。まず悪魔の指輪が無事に揃ったことを報告して、その宴の最後に願うのがいいだろう」
フィーロの提案に、私とリュシオンは「なるほど」と顔を見合わせて
「確かにアルメリアたちだって、フィーロが自由になる姿を見たいよね」
「そうだな。大変な旅だったし、区切りの意味でも祝いが必要かもしれない」
マティアスさんたちやクリスティアちゃんたちにも迷惑をかけちゃったけど、ようやく家に帰ったばかりなのに、呼び出すのはかえって悪い。
私はお世話になった人の中でも、特に付き合いが深いリュシオンとアルメリア、獣王さんとサーティカを招待することにした。
でも私は根無し草で、パーティーを開けるような場所は無いので
「まさか聖トラヴィス教会も押収された神の箱舟を、こんな風に使われるとは思わなかっただろうな」
苦笑いのリュシオンに、私はドキッとして
「だ、ダメかな? 人間のアルメリアと獣王さんを一緒に呼ぶには、どちらの領土でもないほうが良さそうだし、皆もUFOに乗ってみたいかと思ったんだけど」
「いや、あなたらしい平和的な使い方だ。獣王殿は分からないが、アルメリア様やサーティカは喜ぶだろう」
ちなみに料理は手作りではなく、私がこれまでの旅で食べて美味しかったものを買って来た。
皆にも食べさせたいけど、これまで一緒に旅しながらも食事はできなかったフィーロに特に食べて欲しい。
「パーティー、すごく楽しみだな。リュシオンも掃除や飾りつけを手伝ってくれて、ありがとう」
「俺はやることもなくて暇だから。あなたの力になれて、かえって嬉しい。これからも何かあれば、遠慮なく頼ってくれ」
リュシオンが優しいからつい甘えてしまうけど、よく考えたら彼はエーデルワールの守護竜だった。エーデルワールでは神にも等しい存在に、パーティーの準備を手伝わせるなんて、かなり不敬だ。
守護竜の正体が人間だと知っていると、どうしても図々しくなってしまう。竜神の手甲さんが、念のために記憶を奪おうとするはずだなぁと、今更ながら理解した。
パーティーの準備が整ったところで、私は一足飛びのブーツでアルメリアや獣王さんたちを迎えに行った。
「旅人。頼まれていた酒だ」
私は獣王さんから「ありがとうございます」と笑顔でお酒を受け取りながら
「すごく美味しいお酒だから、アルメリアにも飲ませたかったんです」
マラクティカのお酒は人が作るものと違って、悪酔いもしないし健康も害さないという。
そのうえ女性向けのものは、フルーティーで甘くて美味しいので、きっとアルメリアも気に入るだろうと、獣王さんにお願いして持って来てもらった。
しかし私の言葉に、獣王さんは眉をひそめて
「アルメリア?」
「私の友だちで、エーデルワールの女王です」
「ああ。城を攻めた時にいた姫か」
獣王さんは以前、エーデルワールと敵対していた。まだわだかまりがあるのかなと、ハラハラしながら見ていると
「サーティカも人間は好きじゃないけど、アルメリアはいい子ニャ。すごく反省していたから王も許すニャ」
獣王さんの足をポンと叩きながら言うサーティカに
「許すも何も俺たちの国を害したのは、あの姫ではないだろう。仮に罪があったとしても、あの姫は自らの命でそれを贖った。今更どうも思わない」
エーデルワールや人間に対しては、まだ思うところがあるようだけど、アルメリア個人のことは許してくれるようだ。
獣王さんの言葉に
「あ、ありがとうございます」
と言ったのは私ではなく
「アルメリア。聞いていたの?」
「はい。本来なら正式に謝罪すべきところ、全知の大鏡を失って死の砂漠を通れなくなったせいで使者を送ることもできず、お詫びできずにいました。そんな国の人間が、どんな顔で獣王殿とお会いすればいいかと、ずっと悩んでおりましたの」
アルメリアは獣王さんに歩み寄ると深々と頭を下げて
「遅くなりましたが、その節は本当に申し訳ございませんでした。マラクティカの人々の生活を脅かしたことも、その件に関して十分な謝罪ができなかったことも、この場を借りて深くお詫びします。何か償えることがございましたら、なんなりとおっしゃってください」
彼女の申し出に、獣王さんは態度こそ素っ気ないけど
「こちらがお前たちの国に望むのは、二度とマラクティカに関わらないことだ。それ以外の詫びや償いは要らん。先ほども言ったが、お前個人の贖罪なら自ら命を断ったことで済んでいる」
「あ、ありがとうございます」
「良かったね、アルメリア」
アルメリアの背に触れる私の横で、サーティカもニコニコと
「ニャ―? うちの王は心の広い良い男ニャー。だからもうアルメリアは気に病まなくていいニャ―。今日は皆で美味しくご飯を食べて、お酒を飲むニャ―」
アルメリアはホッとしたのか、目に滲んだ涙を拭うと、晴れやかに笑って
「サーティカちゃんも、ありがとう。今日は皆でミコトさんとフィーロ殿の目的の達成を祝いましょう」




