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第30話 奴隷の少女

「もう逃げられねえぞ!」


 リリアの後ろに隠れた少女を指差して、男は唾を飛ばしながら叫ぶ。


 一方の少女は、濁ったブルーの双眸に敵愾心を剥き出しにして男を睨んでいた。


(えっ……えっ……何が起こっているの?)


 リリアは混乱する。


 少女は見たところ、7,8歳くらいに見えた。


 顔立ちは人形のように整っていて、将来は凄まじい美貌になることが窺える。

 背は低く、身体の線は細い。


 背中まで下ろした茶色い髪は燻み傷んでいる。

 着ている服は薄汚れていて、見るからに寒そうだ。


「いい加減にしろ! こんな時に脱走しやがって! いくらでお前を買ったと思ってるんだ!」


 男の言葉と、少女の骨のように細い手首に片方だけ嵌った、太く無骨な手錠を見てリリアはハッとする。


(奴隷……)


 リリアの頭に、そんな言葉が浮かんだ。

 この少女は奴隷で、男は奴隷商か何かだと、リリアは推測する。

 

 ハールア王国を含め、近隣諸国では奴隷制を導入している国は多い。


 敗戦国の国民や、未開の地の原住民族を連れてきて、そのまま商品として売買されるのだ。

 ある者は労働力として、ある者は金持ちの召使いや慰みものとして、人権や尊厳は無視された扱いを受ける。


 近年、奴隷制廃止の声は高まっているものの、まだまだ採用している国は多い。


 ここフラニア共和国も例に漏れないのだろう。


 リリア自身、知識として奴隷の存在を知っていた。

 

 しかしリリア自身がずっと屋敷に閉じ込められ奴隷のような扱いを受けていたのもあり、実際に目にするのは初めてだった。


 日常的に酷い扱いを受けているのが一目でわかる少女の風貌に、リリアの胸がずきりと痛んだ。


「お嬢ちゃん、悪いがそのガキを引き渡してくれねえか? うちの大事な商品なんでね」


 男が言うと、少女はぶんぶんと顔を横に振った。


「ああ!? てめぇふざけてんのか!?」


 男の罵声に、少女は怯えたように目を瞑った。


「あの……とりあえず落ち着きませんか? この子、怖がっていますし……」

「ああ? お前には関係ねえだろ!?」

 

 苛立ちを隠そうともせず男が怒声を放つ。

 しかし不思議とリリアは冷静だった。


 実家で罵声怒声を日常的に浴びていたから、慣れていると言うのもある。


 それよりも、少女の方が心配だった。


(震えている……)


 ぎゅ、とリリアのスカートを掴む少女の手が、ぷるぷると震えていた。


 会話を聞く限り、少女は男の元から逃げてきたようだった。

 もし男に捕まったら、その後は……想像もしたくない。


(ここで、この子を引き渡したら……)


 きっと、一生後悔する。

 その確信があった。


 リリアの脳裏では、実家での辛い日々が浮かんでいた。


(放っておけない……)


 衝動的に、リリアはそう思った。


「買います」


 気がつくと、リリアはそう口走っていた。


「この子、私が買います」


 男の目を見据え、リリアは毅然と言い放つ。

 リリアの言葉に男はきょとんとしていたが、やがてぷっと噴き出して。


「ぶわっはっはっはっは!! ひー! お腹痛い! お嬢ちゃん、なかなか冗談うまいじゃねえか!」


 ばんばんと膝を叩きながら、男は下卑た笑い声をあげる。

 そして、ニヤリと笑って言った。


「そいつはなかなか市場に出回らない一級品だ。健康状態も良く、おまけに容姿も良い。今日のオークションに出す目玉商品で、落札額は1億はくだらねえだろうよ」

「1億……」


 男が口にした値段を、リリアは反芻する。


「そうだ、1億だ! お前みたいな小娘に払えるわけねえだろうが! わかったらとっととそのガキを渡して……」

「2億」

「……は?」


 指を2本立てて、リリアは言い放った。


「2億マニーなら、どうですか?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] スカッと一括払い [気になる点] そろそろ金持ちと認識されて強盗わきそう。 [一言] 応援してます。
[一言] そういえばこのお嬢さん100億だったわ
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