第19話 新しいお家
再び馬車に揺られてリリアは市街地に戻ってきた。
二軒目に紹介されたのは、繁華街から少し外れた場所にある、こじんまりとした二階建ての家だった。
壁は明るい淡いピンク色で、屋根はオレンジ色の瓦で覆われている。
広めの玄関に青空を映すいくつもの窓。
ささやかながらも庭もあって、花で飾ると明るい気分になりそうだ。
都会の喧騒から一歩離れた場所にありながら、あたたかく、まるで童話から飛び出してきたような可愛らしさと、素朴な雰囲気を持つ家だった。
その家を見た途端、リリアの心にピンとくるものがあった。
(私、この家に住むかも……)
そんなぼんやりとした直感を抱いた。
その印象は、内見をして確信へと変わった。
玄関を開けると、足元に暖かみのある木のフローリングが現れた。
1階のリビングは広く、大きな窓から差し込む陽光が印象的だった。
その窓からは小さな庭の緑が見え、落ち着いた静けさを感じることが出来る。
キッチンも広く、ストレスなく料理が出来そうだ。
ダイニングは大きな木製のテーブルが置かれ、万が一の来客の際にもゆったりと食事が楽しめそう。
階段を上って2階へ。
大きなベッドのある寝室が二つ。
隣の書斎は大きな窓のそばにデスクが置かれ、穏やかな時間を過ごせそうだ。
バスルームは淡いピンクのタイルと木の組み合わせが印象的。
バスタブは窓際に配置され、窓からの光を浴びながらのんびりと湯に浸かることが出来そうだった。
「こちらは4LDKの間取りとなっていて、つい先日完成した新築です。もともとは夫婦や家族向けにデザインされたお家ですが、ゆったりとした一人暮らしを求める女性にも人気の物件かと思います」
事前説明によると、価格は2億マニー。
広さや部屋数の割に先ほどの豪邸よりも割高なのは、新築なことと首都中心地の土地代が影響しているとのことだった。
不動産屋を訪れた当初は家の値段の相場がわからず、なんとなく10億マニーと言ってみたが、一人で暮らす家でその価格は上振れ過ぎていたらしい。
「立地も、繁華街や駅から近く、日常の買い物や通勤にも非常に便利です。といっても、この物件の周辺は閑静な住宅街となっているので、このようにとても静かなのです」
女性の説明に、リリアは何度も何度も頷く。
立地、雰囲気、価格。
どれをとっても言うことなしだった。
一人で住むには部屋が少し多い気がするが、説明の通りゆったり住む分には心地の良い広さだ。
「お気に召しましたか?」
もはや、リリアの心は決まっていた。
にこりと笑う女性の問いかけに、リリアは勢いよく答えた。
「ここに住みたいです!」
◇◇◇
家の引き渡しはスムーズに進行した。
銀行で発行した2億マニーの証書で家代を支払い、鍵を受け取った。
引っ越しに関しては元々荷物を全く持っていなかったし、家具も最初からついているため、その日のうちに入居する事が出来た。
その手続きをする中で、とっても嬉しい事がわかった。
この家は、エルシーと一緒に食べたパン屋さん『こもれびベーカリー』が近所だったのだ。
そんな嬉しい発見が、家をここに決めて良かったという気持ちに拍車をかけた。
諸々の手続きをしてくれた不動産屋さんにお礼をしてから、改めてリリアは家に入る。
「今日からここが、私の家……」
新築の匂いのする二階の寝室。
ベッドの上で、リリアは感慨深げに呟く。
言葉にすると、なんとも言えない高揚感が心の芯から湧いてきた。
あのオンボロ離れとは比べるのも失礼なほど良い家に、これから住む事ができる。
嬉しくて、リリアはゴロゴロとベッドの上を転がった。
とはいえこれで全て完了というわけではない。
大きめの家具は揃っているとは言え、日用品は皆無だ。
(明日、食器とか服とか、色々と買いに行こう……)
確か近くに大きめの商店があったはずだ。
そこで日用品やちょっとした飾り付けなどを調達すれば良い。
(ふふっ、楽しみ……)
自分の家を自分好みにコーディネートする。
想像するだけで、ワクワクが止まらない。
一通り喜びを堪能した後、ベッドを降りて窓を開ける。
ふわりと、涼しげな風がリリアの頬を撫でた。
「ここから、私の第二の人生が始まるのね」
家の前はちょっとした川が通っているのもあり、二階から見える視界は開けている。
窓からはオレンジ色の澄んだ空をバックにパルケの街並みがよく見えた。
(この街で……私はこれから生きていく……)
自然と決意めいた感情がリリアの胸に広がった。
これからのことは何もわからない。
ずっと順風満帆ということもないだろう。
とはいえ自分の意志でここまで逃れ、生活の拠点を確保できたことにまずは一安心したいと思った。
ぐうう〜……。
「あっ、また……」
安心したら、お腹が鳴ってしまった。
そう言えば今日は一日中、物件巡りやら新居受け渡しの手続きやらをしていて、何も食べていなかった。
元々空腹に慣れすぎていたため、気を抜いたらすぐに食事を忘れる癖は直していかないといけない。
「そうだ。今夜のご飯は、あのパン屋さんのパンを食べよう」
そう言ってリリアは、夕食へ出かける準備を始めるのだった。
これにて2章完結です。
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