15 約束
俺たちは一晩ゆっくり休んで、集会所に集まった。
「それで、これからどうするんすか?」
「そうだな……また新しいクエストがあるかもしれないから、中で見てこようか」
俺たちは中に入って、クエストをもらうために受付に行った。
「すみません、今はなんのクエストがありますか?」
「それでしたら、魔族討伐というのがございます」
「わかりました。じゃぁそれをお願いします」
「かしこまりました」
それから受付を終えて、外に出た。
「魔族討伐って、ちょっと大変そうっすね……」
「確かに、ここからだいぶ遠いな。船で行かないといけないし」
「アマネさんの転移魔法でどうにかならないんすか?」
アキトの提案に、アマネは首を横に振る。
「だめよ。私のは一度行ったことがあるところしか行けないもの」
「そうっすかー……」
アキトはとても残念そうである。地図を見るとだいぶ距離があったので、俺は、ふと思い出したことがあった。
「そうだ。このクエストの前に、ちょっと寄りたいところがあるんだけど」
俺が手を上げると、皆が俺の方を見た。
「兄貴、どこか行きたいとこあるんすか?」
「うん。ちょっとコルポ村に行きたくてね」
「あぁ、俺と兄貴が最初に出会った村っすね」
「そうそう。ちゃんと寄るって約束したから」
「約束?」
俺の言葉にアマネは不思議そうな顔をした。
「じゃぁ、目的地も決まったことですし、そろそろ行きますか!」
そして俺たちは、また馬車を手配してコルポ村に向かった。馬車に揺られていると、アマネが俺に聞いてきた。
「ねぇ、さっきの約束って何?」
「あぁ、その村の子に言ったんだよ。ちゃんと村に寄るからって」
「ふーん。そんなこと言ったの」
「まぁ、言ったからにはちゃんと寄らないとなーと思ったんだよ」
「タクト、そういうところ真面目よね」
アマネはそれだけ言うと、後は黙ってしまった。どうしたのだろう。俺は首を傾げた。
しばらくすると、馬車はコルポ村に着いた。俺たちが村に入ると、近くで作業をしていた人が俺を見てはっとする。
「おぉー! タクト様ではありませんか!」
「本当だ! タクト様だー!」
他の人たちもどんどん出てきて俺たちの周りに集まった。
「ようこそ、おいでくださいました! もうすぐユナ様も参りますので」
すると、遠くからこちらにやって来る人影が見えた。こちらに手を振っているようだった。
「タクトさまー!」
それはユナだった。よく見ると、俺たちのように装備をしたかっこうだった。
「タクト様、また寄ってくれたんですね」
「うん、約束したからね。それにしてもユナ、なんかたくましくなったね」
「はい! あれから剣の鍛練もして何体かのモンスターは倒せるようになりました!」
「え、マジで?」
俺はなんてことを教えてしまったんだろう。俺が苦笑いを浮かべていると、ユナが腕を引っ張った。
「ここで立ち話もなんですから、私の家に行きましょう。あ、皆さんも一緒にどうぞ」
ユナは俺をどんどん引っ張っていく。俺も置いて行かれないようについていく。
「さぁ、ゆっくりくつろいで下さい」
ユナの家に着いた俺たちは、広い部屋に通された。すると、アマネが俺の耳元で聞いてきた。
「ちょっと、あの子一体なんなの? やけにあんたと仲良さそうだけど」
「あー……ドラゴンを倒したからかな」
「それだけで、あんななれなれしくする?」
それからユナが戻ってきて俺の横に座る。後から村長がやって来た。
「いやいや。よくお越し下さいました。ユナも心からあなたを待っておりました」
「いやぁ、約束したからやっぱり来ないといけないかなーと思いまして……」
「ユナはずっと待っておりました!」
「ちょっとユナさん。あなたとタクトはどういう関係なの?」
ユナが俺に寄り添っていると、アマネが顔をひきつらせながら聞いてきた。
「私とタクト様は、一緒に料理をしましたよね?」
ユナの言葉にアマネは驚く。
「り、料理?!」
「それに戦い方を手とり足とり教えて下さいました」
ちょっと待て。なんでそんないかがわしい言い方をするんだ。俺はアマネの顔を見れなかった。
「タクト……これはどういうこと?」
見なくてもわかる。すごく怒っている。背中にひしひしと感じる。
「アマネ……これにはわけが……」
「問答無用!」
アマネは持っていたステッキを俺に振り下ろした。すごい音が家中に響き渡った。
「あらあら。元気がいいのねぇ」
「モラ姉さん……そんなのんきな……」
それを見ていたモラはくすくす笑い、男たちは少し引いていた。
「お、お見苦しいところをお見せしました……」
「いいえ。あの、タクト様は大丈夫ですか?」
「このくらい、いつものことなので平気です」
「そうですか……あの、これからはどちらに?」
「これから船を使って向こうの島にいる魔族を討伐に行くつもりです」
俺の説明に村長は真面目な顔をした。
「なら、うちのユナも連れて行ってはもらえませんか」
「え?」
俺が驚いていると、ユナが元気よく言いだした。
「私も少しはモンスターも倒せて、いくらかレベルアップもしました!」
「ユナもそう言っております。それに、この子にはいろんな世界を見てもらいたいのです」
村長の言葉に俺は悩んだ。
「どうか、連れて行って下さい! 前の私とは違うのです!」
「兄貴、いいんじゃないっすか? もし、何かあれば俺が守りますよ!」
「おぉ! それは頼もしいかぎりです」
「うーん……そういうことなら、わかった。一緒に行こうか」
「はい! ありがとうございます!」
俺の承諾にアマネは何か言いたそうだったが、ぐっとガマンしたらしくそっぽを向いていた。
「では、俺たちはこれで」
「はい。お気をつけて。ユナを頼みます」
俺たちは村の入り口まできて、そこで村長たちに見送りをされていた。
「大丈夫です。ユナさんのことは俺が守ります」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「じゃぁ、いってきます!」
そして俺たちは歩き出す。新しく加わったユナとともに、俺たちの旅はまだまだ続きそうであった。
これから、どんなことが起きるのかとても楽しみだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。