14 アマネ、頑張ります!
・今回はアマネ視点となります。
どうしよう……タクトと2人っきりなんて。
私は焦っていた。休憩所を出て買い出しにきたのだが、2人っきりになった途端会話が出来なくなってしまった。
ちゃんとお礼を言わないといけないのに……
私の焦りはピークに達していた。隣のタクトを見れば、涼しい顔で他の所を見ていた。私の気も知らないで……
「それで、私たちは何を買えばいいの?」
私はガマン出来なくなって話を振った。タクトはこちらに気づいたようで振り向いた。
「あぁ、俺たちは食料の調達だよ」
「そ、そうなの……」
さぁ、言うのよアマネ。早く言わないと目的地に着いちゃう。
「あ、あのねタクト。この間は勝ってくれてありがとう。だから……」
私は心を決めてタクトに振り返った。
「タクトのためなら何でもするか……ら?」
私が勢いよく振り返ったら、タクトはいなかった。
「た、タクト?」
周りを見回したら、なんと猫とじゃれあっていた。
ていうか、聞いてなーい! 私はちょっとショックだった。
「よーしよしよし。かわいいなお前」
「タクト……何やってるのよ」
「だってほら、甘えてきてかわいいだろ?」
私はちょっと猫が羨ましかった。何よ、私にはそんな顔、しないくせに。
「ほら、さっさと行くわよ!」
私はタクトの首根っこを持って引っ張った。
「わわっ! アマネ、ちょっと待って!」
「私たちは買い出し中なのよ。早く行きましょう」
「はーい……」
まったく、目を離したらすぐこうなんだから。でも、懐かしいな。前のパーティーでも、似たようなことあったな。
「ねぇ、タクト覚えてる? 前もこんな風に2人で買い出し行ったよね」
「あぁ、あの時は俺は荷物持ちで全部アマネの私物を買いに行ったっけ……」
「そ、そうだけど、あれは必要な物だったのよ!」
「まぁ、女子は必要なのが多いもんな」
「あら。よくわかってるじゃない」
「いや、モラさんの時がそうだったからさ」
それを聞いて私は固まった。
「あんた、まさかモラさんと……」
「違う違う! アキトが一緒に行ってぐったりしてたから大変だなって思っただけだよ」
「ふーん……」
私は冷ややかな目でタクトを見た。
「な、なんだよその目は」
「いいえ、別にー」
私はそっぽを向いたが、このやり取りが少し面白かった。もう少しからかってあげようかしら。
「なんか、モラさんといい感じだったみたいじゃない。もしかして、タクトもあぁいう人がタイプ……なの?」
私は笑いながら振り返ると、またタクトは隣にいなかった。
またかーい! 私はまた辺りを見回した。
「おーい! ツルギー!」
気づけば、広場にツルギがいたので、タクトはそっちに行っていた。
「もう。少しは最後まで話を聞きなさいよ……」
私はあきらめて、タクトたちのいる広場に向かった。
ツルギは、皆と別れた後、ここで刀の鍛練をしていたらしい。
「ツルギ、さっきはごめんな。俺も気がゆるんでたよ」
「……それは構わん。大将がゆっくりできたのならそれでいい」
「ありがとう。ツルギも一緒に買い出し行かないか?」
すると、ツルギは私をちらっと見てきた。そして、もう一度タクトを見る。
「……いや、俺はいい。野暮なことはしたくないんでな」
「野暮?」
「ほ、ほら! ツルギは行かないって言ってるんだから、早く私たちは行きましょう!」
「おっと! アマネ待って!」
私はタクトの背中を押して急かした。振り向けば、ツルギが親指を立てていた。それがちょっと意外だった。
そして、私たちは食料を買って休憩所に向かっていた。
「はぁー……こんなに買わなくてもよかったんじゃないか?」
「何言ってるの。人数も増えたんだから、このくらいでも少ないくらいよ」
「そうかなー……またアマネの分が多い気がするんだけど」
「き、気のせいよ」
私はごまかしながら、先を歩いていた。広場ではまだツルギが鍛練をしていた。
「ツルギー! そろそろ戻ろうよ!」
「……わかった。しかし、その荷物はなんだ」
「もー、少し持ってくれよ」
「……では、こちらを持つか」
「こらこら、なに少ない方持とうとしてるんだよ」
タクトとツルギのやり取りを見て、私は笑みがこぼれた。
「ほら、話してないでさっさと行くわよ」
「はーい……」
私は鼻歌を歌いながら歩いていく。後ろでタクトたちが何か言ってる気がしたけど気にしない。
今はこれでいいんだ。私はそう自分に言い聞かせた。
休憩所に戻ると、アキトたちが先に戻っていた。
「あっ! 兄貴おかえりなさーい! あれ? アマネさん、なんかごきげんすね」
「あら、そう見える?」
「なんかいいことでもあったんすか?」
「ふふっ。内緒よ」
「えー! なんすかそれー!」
私はアキトに構わずモラに近づいた。
「ふふっ。その顔はちゃんと言えたみたいね」
「いいえ。それはできませんでした」
「あら、そうなの?」
「でも、いいんです。私は今のこういう感じが好きですから」
「まぁ、あなたがいいならそれでいいけど」
そして私たちは微笑んだ。向こうで男子たちは首を傾げていたが気にしない。