11 今度は団長までやってきました
俺に声をかけてきたのは、前のパーティーの団長だった。
「久しぶりだな、タクト。元気にしてたか?」
「団長、お久しぶりです」
団長は俺に近づき肩を抱いた。
「いやぁ、全然見かけなかったから、どこかでまた倒れているんじゃないかと思ったぜ」
「そんなことないですよ。今は皆がいますので」
「みんな?」
団長は俺と一緒にいたアキトたちを見る。すると、すぐ笑顔になり挨拶をした。
「どうも、皆さん。うちのタクトが迷惑かけていませんか?」
「迷惑もなにも、皆タクトさんに助けられてるんですよ?」
「助けてる? こいつは俺のパーティーでは一度も役に立ったことなんてないのに」
団長はちらっと俺を見て、皆を見回した。すると、アマネと団長の目が合った。
「アマネ? アマネじゃないか! なんでこんなところにいるんだ。急に出ていったから探したんだぞ!」
そして団長はアマネの腕を掴んで引っ張った。
「さぁ、早く戻るんだ!」
「嫌! 離して!」
アマネが大声で拒否したので、団長の方も怒りを露わにした。
「わがまま言うんじゃない! お前は俺のところに必要なんだ! だから戻って来てもらうぞ」
「嫌よ! 私はタクトと一緒にいるって決めたもの」
アマネはそう言って、団長の手を振り払い俺のそばに来た。
団長たちが騒いだので、周りにいた人たちがざわつき始めた。
「団長、少し落ち着いてください。皆こちらを見てますよ。場所を変えましょう」
「……あぁ、そうだな」
団長はぶっきらぼうに同意してくれた。アマネはまだ俺にしがみついている。団長が離れていったので、アマネにだけ聞こえるように話した。
「アマネ、大丈夫だよ。団長はただ戻って来てほしかっただけだから」
「本当にそうかしら……」
それから俺たちは、集会所を出て道を歩いていた。
「タクト、お前をやめさせてから俺のところを抜ける奴が増えてきてな。今は俺を入れて2、3人しかいないんだ。だからアマネにはどうしても戻ってもらわないといけないんだ」
「でも、アマネは嫌がっていますよ?」
「どうせ、お前が何か入れ知恵でもしたんだろ」
「兄貴がそんなことするはずないじゃないっすか!」
団長が俺をバカにした言い方だったので、アキトが怒り出した。それを俺が制する。
「大丈夫だよ、アキト。俺は平気だから」
「お前もずいぶんえらくなったものだな。おっ! ここならいいか」
俺たちは少し大きな広場に着いた。そこでは、他にも遊んでいる子どもや、クエストが終わったのであろう、装備を付けた人たちがいた。
「よし、タクト。俺と一騎打ちをしろ」
「な、なんでそうなるんですか?!」
「アマネをかけて勝負だ」
何を言ってるんだ、この人は。俺が呆れていると、団長はもう1つ提案してきた。
「俺が勝ったら、アマネは返してもらう。そしてお前のパーティーの奴らも俺のところに来てもらう」
「なっ?!」
これにはさすがの俺も驚いた。
「そんなの嫌ですよ! 俺は兄貴だからついてきたんすよ!」
「僕もその案には乗れませんね」
「外野は黙ってろ! さぁ、タクトどうするんだ」
俺の心は決まっていた。皆を巻きこむわけにはいかない。俺は団長の前に立った。
「その勝負、受けます」
「タクト……」
アマネが心配そうに俺を見ていたので、俺は親指を立てて笑顔で言った。
「心配しないで、アマネ。俺、頑張ってくるから」
「うん!」
俺が団長のところに向かっていると、モラがやって来た。
「あら? 何かイベントでもやるの?」
「あっ! モラ姉さん! お久しぶりっす」
「アキト君、この人は?」
「あぁ、アマネさんとたかしは知らないんすね。オーク討伐の時に手伝ってくれたんすよ」
「はじめましてー。モラよ。それでタクト君は何をしているのかしら」
「前の団長と一騎打ちっすよ」
「ふーん。タクトくーん! その団長さんに勝ったら、お姉さんがいいことしてあ・げ・る」
な、なんでモラさんがいるんだよ。応援のつもりだろうけど、気が散るな……
俺が大剣を構えていると、今度はアキトが何か言いだした。
「姉さん、いいことってなんすか?! 兄貴だけずるいっす。でも、頑張ってくださーい!」
「ちょっと! タクトを誘惑しないで! タクト、しっかりやんなさい!」
「リーダー、油断しちゃだめですよー!」
「……気を抜くなよ、大将」
なんかいろんな応援が聞こえてくるな。俺が苦笑いを浮かべていると、少し離れたところにいる団長が震えていた。あ。あれは怒ってるな。
「なんでお前にだけ女子の声援があるんだよ! ずるいじゃねぇか!」
「いやいや、団長。よく聞いてください。男性もいますよ」
「野郎の声援なんかどうでもいいわ! もう許さないからな。覚悟しろ!」
なんだろう。皆の応援がかえって団長の怒りを買ってしまったらしい。
「……仕方ない、やるか」
俺は呟いて、強化魔法と防御魔法を自分にかけた。