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症候群✕症候群  作者: ひみこ
Karte02 『追放症候群』
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第6話 『追放症候群』⑤



「あ、待ってくれよ、レビンくん。まだ話は終わってないよ。君には新しい仲間パーティを用意しておいたんだ」


 先生? 先生?? 

 まだなにかするおつもりですか……?

 もう……やめてあげてください。レビンさんのライフはゼロかマイナスですよ


「は? なんだよ。いいよ別に。いらないよ、そんなもの。もう僕は僕で好きにやらせてもらうよ。復讐も諦めたし。これで満足だろ」


 レビンさんはもう何もかもどうでもいいといった様子で、目にはもう精気がなかった。


「そうはいかない。さっきも言っただろう。ボクは患者のアフターケアまでしっかりと面倒を見るんだ。君のような悪性で再発の恐れが高い患者はどこかでしっかり管理しておく必要がある。さあ、君の新しい仲間を紹介しよう! おーい入ってきてくれ!」


 ドアが勢いよく開いた。

 むわっと男の人の匂いと強烈な汗臭さとともに大勢の男性が続々と部屋に入ってきた。彼らの身なりは、上品とは言い難く、汚れているというか、野蛮と言う言葉が一番合いそう。

 先生以外の全員の目が点になっている。誰も、言葉を発することができない。


「紹介しよう! レビンくんの新しい雇用主になるヴローレンくんだ! 彼はこのあたりの盗賊団の頭をやっている」


 盗賊団!? どおりで皆さんアウトローな雰囲気がふんだんに。というか先生は盗賊団と知り合いなの?


「ふ、ふざけんな! なんで俺がそんなやつらの仲間にならなくちゃいけないんだよ!」


「君の職業は盗賊だろ? 君にとっては能力を最大限活かすことのできる、最高の職場さ! こうなることはわかっていたから前もって呼んでおいたんだ。ちょうどお頭が人手を欲しがっていてねぇ」


「おう先生! こいつが先生の言ってた新しい団員ですかい!」


 と、でかい声をだすのはのは筋肉隆々の大男。

 もはや熊と間違えるほどの迫力だ。

 おそらくこの方がヴローレンさんだろう。他のメンバーと比べても、圧倒的な存在感を放っている。

 私ならこんな怖い人に声をかけられたら固まってしまって何も話せなくなってしまっていたところだろうけど、やっぱり先生はまったく臆することなんてなかった。


「そうだ。なんと彼は貴重なレアドロップ率アップのスキルを持っているぞ! 君たちの力になること間違いなしだ!」


「そいつはすげぇや! さすが先生様だ!」


 ブローレンさんがぶっとい腕でレビンさんの細い肩をがっしりとつかんだ。


「おい、お前! これからは俺たちがたっぷりと面倒を見てやるからな!」


「い、嫌だ! 盗賊団だなんて! 僕は次こそ美少女に囲まれて、ちやほやされるんだ! 復讐するんだ! 僕はかわいそうなポジションで誰かを恨みながらざまぁするんだ――――!!」


 レビンさんは半泣き、いや、もう全泣きだ。


「安心するといいレビンくん。盗賊団には鉄の掟がある。団員は皆家族の契りを交わしている。裏切り者にはそれはもう凄まじい制裁が待っているからね。二度と追放される心配はないぞ。それにヴローレンくんは面倒見がとても良いことで有名でね。心配しなくてもその腐った性根ごと鍛え直してくれるぞ! 良かったな!」


 たぶんなにも良くないです先生。


「よし、野郎ども――――っ! 今夜はこいつの歓迎会だ!! 連れて行け!」


 レビンさんは盗賊団の皆さんに担ぎ上げられて、泣き叫んで激しく抵抗していたけれど、レビンさんの職業は盗賊。逃げようにも高レベルの盗賊団に囲まれてしまっては無理な話だった。


 あっという間にレビンさんは連れ去られ、部屋に静けさが戻り、男たちの残り香と大量の足跡だけが残った。

 私は、ただ呆然と立ち尽くしていた。記録することも忘れて。

 最初に我に返ったロックさんが先生に近づいて言った。


「せ、先生、いくらなんでもこれはやりすぎでは……? 俺たちはなにもレビンをそこまで嫌っていたわけじゃ……」


「何を言っているんだ君は。一歩間違えれば君たち全員、危険な状態に陥るところだったんだぞ。医者の言うことには素直に従っておくもんだよ」


「そ、そういうものですかね……」


 ロックさんはそれっきり返す言葉を持たなかった。

 女性陣は部屋の隅の方で小さくなって先生と目を合わせようともしなかった。



 帰り道。


「でも、私、少しだけレビンさんの気持ち、わかる気がします」


「ん? どういうことだい?」


「私も学生時代はあまり仲がいい友達が少なかったというか、いなかったというか……。そんなだったので、私がいなくなって皆が私の大切さに気づいてくれたりしたらいいのにな、なんて考えることありましたもん」


「それは……いじめられてたってことかい?」


「い、いえ! いじめとかそういうのではなかったと思います。殴られたり、お弁当隠されたりしたりはしませんでしたし。ただ、あだ名は「牛」って呼ばれてました」


「そ、そうなのか……う、牛……。そ、そうだ! 今日はボクのおごりで君の好きなものを食べに行こうじゃないか! 君の歓迎会をするのをすっかり忘れていたよ!」


「本当ですか!? やったあっ! じゃあ焼肉がいいです!」


「いいだろう。ボクの知っているうまい店に連れて行くよ。霜降り牛を腹いっぱい食べさせてやるぞ!」


 なぜか先生はその日、私にとっても優しかったです。




『追放症候群』 症例886

患者名:ロック・フェスティバル及び紅の牛のメンバー3名(計4名)

性別:男性1名、女性3名

年齢:16歳~25歳


【症状】

紅の牛メンバーのレビン・マクスウェル(仮名)を能力の把握ができてないまま追放してしまうという不幸な思いのすれ違いによって、追放したメンバー全員に症候群の集団発症が見込まれた。


【経過】

レビン氏への追放告知の時にレビン氏の能力の詳細を感染予見者キャリアらに説明。

行き違いを解消した。

までで良かった気もしますが……

その後担当医師によって

レビン氏がメンバーから微妙に嫌われていること

レビン氏がメンバーを逆恨みしていたこと

を問診によって暴露。

レビン氏とメンバーとの心の溝は大きくこじ開けられることに。

さらに担当医師はレビン氏の能力の代わりとなるアイテムまで投与。

レビン氏はついに発狂。

さらにさらに担当医師は再発ふくしゅう防止のためレビン氏を予め用意していた盗賊団に入団させる措置を行った。


【担当医師所感】

悲しい症例じけんだったね。

いつもながらすれ違いというものは残酷な結果を生むものだな。

まったくもって残念で不幸な出来事だったと言えるよ。

なに?

お前が言うな?

なぜだ。

ボクはいつも思ったことを包み隠さず言っているじゃないか。

え?

それが間違ってる?

どういうこと?


【同行者所感】

まさに針のむしろでした。

先生はあの空気の中でよくあんな活き活きしてられるものですね。

信じられません。

レビンさんを見る皆さんのあの視線は忘れられそうにありません。

レビンさんも新しい職場で少しでも楽しく過ごしてくれることを願っています。

あと紅の牛の皆さんはあの後、ロックさんを取り合って女性陣がドロドロの愛憎劇を繰り広げることになったらしいです。

男女比率が変わってしまったことによる弊害だそうで、実はレビンさんがいたほうがあのパーティはうまく回っていたのかもしれません。

だとしたら私達がやったことって一体……。

紅の牛の皆さんにも幸ありますように……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お約束を症候群と称して治療(?)していくという斬新なスタイル! ハチャメチャな医者(?)のメチャクチャな治療(?)に付き合わさる常識人である助手のリコを主人公に巻き起こるドタバタ劇。 …
[良い点] ファンタジーものあるあるを症例(じけん)として、ちょっとひねって解決する、そのアイディアが素晴らしいです。 先生とリコの関係が、可愛いです。 続きを楽しみにしています。
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