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症候群✕症候群  作者: ひみこ
Karte02 『追放症候群』
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第5話 『追放症候群』④


「さて、レビンくん。君はこれからロックくんたちのパーティでこれまで通りやっていくつもりはあるかい?」


「あるわけないだろ。こうなってしまったら謝られたって許すつもりもない。こんなパーティは僕が抜けて、僕のありがたみをせいぜい思い知ればいいんだ」


 レビンさんはもう本性を隠すつもりも無いようだ。


「ふむ。それが本音か。それで? ロックくんたちはどうだい?」


「レビンがそう言うなら、俺たちが先に追放なんて言い出したことでもあるし、レビンの好きにするといいと思う。レビンが抜けて、あんたの言う通り、それでこの先俺たちのパーティが弱体化したとしてもそれが俺たちの実力だからな。それを受け入れるべきだろうな」


 ロックさんたちもレビンさんとの絆はすでに修復不可能なところまで砕け散ってしまったことは理解できているようだった。


「ふむ。もっともだ。悲しいことにすれ違いを止めることはできなかったというわけか」


 ――すれ違いを決定的にしたのは先生ですけどね


「さて、問題はレビンくんだ。君をこのまま追放して放置すればまたどこかのパーティで同じことが起きてしまいかねない。ボクが診た│患者ロックくんに│疾患が再発ふくしゅうしたなんてことは絶対にあってはならないからね。しっかりと根治させてもらうとしよう」


「な、何をするつもりだ!」


 先生は、焦るレビンさんを指さして言った。


「レビンくん君は――――追放クビだ!」


 ――え?


 その場の全員が同じ反応だった。


「な、何を言ってるんですか? 先生」


「だから、追放だよ。追放。ただし、追放を決定したのはこのボクだ。ロックくんたちを逆恨みするのはやめてもらおう」


 先生は追放の恨みを自分に向けたいということかな。かなり無理やりだけど。


「はっ! 何を言い出すかと思えば」レビンさんは馬鹿にしたように笑って言った。


「別にいいさ! どうせ、僕がいなくなればこいつらのパーティは今後は活躍できなくなるんだ。直接手を下して復讐するまでもない。どうせ後になってやっぱり戻ってきてくれって泣きついてくるに決まってる。だがそうなってももう遅い! 僕はもう戻ってやらないからな!」


「あっはははははっ!」


 先生は愉快でたまらないといった笑いを上げた。この部屋で一人だけ浮きに浮いている。浮いているのは最初からずっとだけども。


「何がおかしい! 僕のスキルなしで苦しむことになるといったのはあんただろ!」


 先生、もうやめてください。これ以上刺激しないでください! レビンさんの顔が真っ赤に膨れ上がって今にも破裂しちゃいそうになっちゃってますっ!


「やれやれ……君の頭には綿ガーゼでもつまってるのか? 一度そのスカスカの頭蓋骨トウガイコツを開頭して内容物を詰め直してあげたいくらいだよ、まったく」


 と、先生は呆れるように言うのだけど、それがまたレビンさんを刺激してしまう。


「いいかい? 君はもう本当にこのパーティに必要なくなったんだ。完全にだ。ロックくんたちはすでに君の能力を理解している。そのうえで君の追放を認めると言ったんだよ。それがどういうことかわかるかい? 君の想像するような展開にはならないってことだよ。そうなる前に彼らは自分たちの本当の実力を知ったのだからね。今後は仲間と協力しあって身の丈に合った旅を楽しく続けることになるのさ。君抜きでね!」


 先生が探偵が犯人を指すような決めポーズ。


「そんなうまくいくもんか!」


 レビンさんは腕を振りながら力説する。


「どうせこいつらはこれまでのレアドロップの恩恵が忘れられないんだ。結局また僕を頼ることになるに決まってる」


「だからそんなことにはならないんだってば。そもそも君は他のメンバーとはあまりうまくいっていなかっただろ。君の態度や他のメンバーの様子を見ていれば十分察しはつく。追放なんていうのは、よほどのバカじゃない限り、それなりに悩んで出した結論なんだよ。ま、中には大した理由もなく追放と言い出す本物のバカもいるにいるんだが……。それは置いておいて。たしかに彼らは君の能力を見抜くことができなかった愚か者たちだ。だが、君を追放しようとした理由は君が役に立たないからというだけじゃない。君は彼らに嫌われていたというのが本当のところじゃないのか?」


「そんなはずは……。―――っ!!」


 レビンさんがロックさんたちの方を見るけど、英雄の皆さんは一斉に視線を下に落としてレビンさんと目を合わせようとしなかった。

 つらいつらいつらい! なにこれ! 帰りの会で糾弾されてる人みたいになってるっ! 見てるこっちが心が痛いよっ!


「理解できたかい? もう一度いうが、君はこのパーティにはもう不要だ」


「このクソガキ……好き放題いいやがって。俺のお陰で手に入れたレアアイテムのおかげでここまでなれたんじゃないか。恩を仇で返しやがって。これから俺抜きであんな強力な装備が手に入るとでも思っているのか? 英雄だなんだいったところで伝説の装備なしじゃそこらの有象無象と対して変わらない連中じゃねえか」


 レビンさんの口調が変わり、目つきもひどく濁ったものになってきている。これ以上追い詰めるのはまずいんじゃないだろうか。


「君はもう部外者なんだ。余計な心配は不要だよ」


 先生は冷たく言い放つ。

 さらに先生はポケットから小さな瓶を取り出した。

 見た目はただのポーションか解毒薬か、そんな感じのビンに入ったアイテムだ。しかもいくつも、大量に次々に出してきた。まだなにかする気なの。

 そのうちの一つを2つの指で挟んで見せる。


「これは傷を治す薬。ロックくんにかけてあげてくれ。体が動かせるようになるはずだ。これは気付け薬だ。アリシャくんに使うといい。あとこれはすごいぞ。運気が上昇する薬だ! レアアイテムのドロップならほぼ確実に出るくらいには強力な代物だ。女神の祝福クラスの恩恵を受けることができる。これでレビンくんの抜けた穴くらいは十分に埋めることができるはずだ」


 それはもう医者が調合できるレベルを超えていると思うのですが。

 先生の薬を使うと、ロックさんはようやく体を動かせるようになりアリシャさんは目を覚ました。


「これでわかっただろうレビンくん? 君はもう完全にパーティに必要なくなった。後は復讐するんだったかな? だが君を追放したのは今となってはこのボクだ。復讐してくれてもいいが……十分にレベルを上げて装備を整えてくることをおすすめするよ。仲間もたくさん揃えた方がいい。……揃えられたらの話だけどな」


 ぷちっという効果音が聴こえたような気がした。

 レビンさんは雄叫びを上げた。


「お前は! お前はぁぁぁぁぁ! 一体なんなんだ! 何なんだよお前ぇぇぇぇ! どうして俺の邪魔をするんだ!」


「ボクは医者だよ。それに邪魔なんてするつもりはないよ。ただ治療しに来ただけだ」


「邪魔してるじゃないか! 邪魔してるんだよ、今ぁ! 邪魔なんだよ! 邪魔邪魔邪魔邪魔ぁぁぁ―――っ! なんッッッでわかってねえんだよお前ぇわよぉぉぉぉっ! お前さえ、お前さえいなければ、お前さえ現れなければ! コイツラは! 俺を追放したコイツラがよ!! 俺を追放したことを後悔した挙げ句に、俺の新しいパーティから「ざまぁ」されるはずだったんじゃないのか!? お前のせいで、お前が邪魔したせいで俺の未来が狂ってしまったってことじゃねぇか! お前が全部悪いんじゃねえか!」


「残念だったねぇ……もう「ざまぁ」できないね」


「ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!」


 レビンさんはとうとう我を忘れてしまい、ナイフを構えて先生に斬りかかろうとした。

 先生は態度は大きいけれど体は小さい。わ、私が護らなきゃ!


 ――先生危ないっ!! ってこのパターン、ついこの間見たばかりのようなっ!?


 私が先生の前に飛び出でようとする前に、いつの間にか鎧を着たセリヌンさんが先生の前に立ちふさがった。

 強力な鎧の前にナイフは木の枝のようにへし折られてしまった。

 さらにロックさん、アリシャさん、シャルロットさんも先生の前に立ち、レビンさんから先生を護るように武器を構える。


「お前らぁぁぁぁ! そこをどけよ! 俺の! 俺のお陰で今まで楽な思いをしていたくせにっ! 恩を仇で返すつもりか!? その武器も、装備も、アイテムも! 全部全部全部! 俺のおかげで手に入ったんだろうがぁぁぁぁぁ! 邪魔をするなぁぁぁぁぁぁ!」


 ロックさんは剣をレビンさんの前に突きつけた。

 いくらレビンさんがレアスキルをもっていても所詮は盗賊。伝説の武器を装備した英雄ロックさんに敵うわけがなかった。


「レビン、もう一度言うぞ、お前は――追放クビだ」


 四度目の追放宣告だった。

 ロックさんは最初の時の嫌な感じとは違って、どこか悲しげな表情を浮かべていた。

 レビンさんはがっくりと肩を落とし、何か言い返そうとしていたが、最終的には諦め、黙って部屋の出口へと向かって力なく歩いていった。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  Twitterではお世話になっています。  いわゆるお約束をぶっ潰す話なのですね。スゲー! [一言]  ポイント入れときました。応援しています(๑•̀ㅂ•́)و✧
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