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症候群✕症候群  作者: ひみこ
Karte07 『空から女の子が』症候群
43/44

第43話 『空から女の子が』症候群⑦



 そして夜。

 私たち三人が西の最上階に侵入してケビンさんがとらわれている部屋の前で待機していると、人影が見えた。

 黒い服に身を包んだ小柄な人影。


「あれはバカ王女で間違いないにゃ」


 ナナコさんは夜目が効く。先生はともかく、私は暗くてよく見えないのだけれど、ナナコさんが言うならおかしな黒い衣装を来ている人影は王女で間違いない。


「せ、先生。王女様本当に来ちゃいましたね」


「ああ、これは初期診断イニシャル・プラン通り、症候群発症者キャリアの可能性が高まってきたぞ」


 王女は拙い足取りで西の塔の最上階までやってきた。

 もちろん見張りやその他諸々はすでに先生とナナコさんが排除済みだ。

 それから王女は辺りに人がいないのを確認してケビンさんがとらわれている部屋へと入っていった。

 私たちもすかさず後に続く。もちろん先生の認識阻害があるのでよほど目立たない限りは気づかれることはない。


「サイン! な、なぜここに来てしまったんだ。見つかったら全てが終わりになるというのに。俺のことは忘れてくれと言ったのに……!」


(聞いたか? リコくん。さっきまで助けに来てくれなかったらどうしようって泣いていたくせにずいぶんカッコつけるなあいつ!)


 先生の念話が届く。二人の感動の再開を目の前に完全に野次馬な私たち。


「別にあなたのためではありません。私が王位についた時にケチがついたら困る。ただそれだけです」


 ――王女も見事なツンデレっぷりですねー。でも割りとギリギリまでケビンさんのこと見捨てようか迷っていましたけどね!


(王女なんてそんなもんにゃ。にゃにゃコはあいつキライにゃ)


 ナナコさんの声も念話で直接脳内に聞こえてきた。


 ――ナナコさん!? ナナコさんも念話使えたんですかっ!?


(ボクが中継している。この距離なら二人同時に念話を行うくらい問題ない)


 ――それはすごいですけど、また私の意志関係なくダダ漏れですね。そして本人の同意なくやるのは犯罪ですね……


(にゃにゃコはそんなもの気にしないにゃ。リコが嫌ならにゃにゃコと先生だけで会話するにゃ!)


 ――そ、それはちょっと……仲間外れはやめてくださいっ!


 私たちが盛り上がっている前で、王女とケビンさんの方も盛り上がっていた。


「俺は、俺はっ! お前のためなら死んでもかまわなかったんだ!」


 盛り上がったケビンさんが王女様の肩をつかんで叫ぶ。


(ぷぷぷ。どうやって逃げようか必死で考えてたのにな! あいつ)


 ――先生! 笑っちゃ悪いですよ。ぷぷ!


「どうして私のためにそこまで……! 私は」


 月明かりに照らされた二人はそれはそれはドラマチックで。


(どうしてもこうしてもないだろうに。あの王女もずいぶんととぼけるものだな。ねんねちゃんでもあるまいし)


 ――ねんねちゃんって……先生おじさんみたいですよ。今いいところなんですから。そりゃあ女の子ならもっと相手に言わせたいじゃないですか。どれだけ自分のことを好きなのかって


(リコ性格悪っ! ナナコなら最初から好きなら好きっていうしキライならキライっていうけど)


 ――ちょっとナナコさん、にゃ言葉使ってくださいよ! 本気で引くのはやめてくださいっ!


「そんなの、お前のことが好きだからに決まってるだろ!」


「…………!」


 月明かりで青白く染まった部屋でケビンさんの渾身の告白が炸裂。


 ――きゃー!! 言いました! 言いましたよ! 愛の告白ですよっ! うわー私他人の愛の告白を見るのなんて初めてです!


(リコうるさいにゃ!)


(さあ、どうするお姫様?)


 私たちが一層注目する中二人の愛の劇場は続く。


「でも私には決められた相手が……」


 顔をそらし、力なく答えた王女様の肩をさらに力強くつかみケビンさんが再度叫ぶ。


「それでも俺はお前のことが好きだ。だから、お前が俺に教えてくれた理想の国作りを達成するためなら、お前の夢のためになら、俺は死んでもかまわないと思えたんだよ」


「ケビン……」


 二人は見つめ合う。

 そして徐々に近づく顔。

 私は聞こえてしまわないか心配になるほど心臓が激しく打ち鳴らされていた。


 ――き、き、キス――!! 他人のキスなんて初めて見る――っ!


「二人ともそこまでだ! 動くな!」


 そこで先生がまるで刑事のようなセリフを吐きながら割って入ってしまった。いいところだったのにどうして!

 認識阻害が外され、私とナナコさんも彼女たちの視界に入る。


「ひっ!? あ、あなた達は! どうしてここにいるの!?」


 当然驚く王女様。ケビンさんは警戒して王女様を背中に隠し、私たちに対して警戒心をむき出しにしている。


「サインくん。君はやっぱり『空から女の子が症候群』に罹患してしまっていたようだね」


「また貴女という人はそんな訳のわからないことを……。今回ばかりは、さすがに言い逃れは出来ませんよ。王宮内にまで侵入するなんて、衛兵は何をしているのかしら!」


 王女様は前と違って縛られてもいないし、出会うのも二度目だ。それに今はそばにケビンさんも側にいるのでいくらか余裕があるように見える。

 だけど、衛兵がしっかり仕事をしていたら、そもそも王女様はここまでこれていないということには気づいておられない。

 衛兵に見つかれば、もちろん私たちは大変な目に合うだろうけど、王女様やケビンさんにとっても都合が悪いはずだ。

 そんな事を考えているのかいないのか、たぶん全く考えていないだろう先生は王女様の脅しなど聞こえていないようで。


「王女さま。君は今、一体何をしようとしていたのかな? 君にはたしか身も心も捧げた相手がいたんじゃなかったのかな?」

 などと空気をぶち壊す発言をした。


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