第29話 『ラスボス症候群』③
「え?」
先生の目が点になっている。先生にしてはとても珍しい顔だ。
「え?」
私は自分の体を見る。
見事に全裸である。
「きゃあああああああああああああ!!」
当然悲鳴をあげる私。
いきなり目の前の女性が全裸になってうろたえる神官たち。
なにかの詠唱が一瞬途切れた。
一足先に我に返った先生は、素早く私に白衣を羽織らせると、いきなり全裸になった私に驚いて拘束魔法がゆるんだ隙を突いて神官たち全員を医術で眠らせた。
同時に私達を拘束していた光の輪も消えた。
「なんなんですかこれ!? 何の能力なんですかこれーーーーー!!」
白衣を抱きしめうずくまってしまった私。
「うーん。なんだろう。全裸になる能力?」
「聞いたことありませんよそんな能力! それが何に使えるんですか!」
「そんなことボクにきかれても。風呂にはいるときには便利……ではないか。服が破けてしまうしね」
私の服が弾け飛んだ以外にには何も起こっていないようだった。
まさか本当に全裸になるだけの能力!?
それに、それに……
「私、男の人に裸を見られちゃいましたよぅ……う、うぅぅ。もうお嫁に行けません。うえぇぇぇ」
「な、泣かないでくれよ! ほら、光の輪で大事なところは都合よく見えなかったし、それに神官たちの記憶を消しておいたから!」
「ホントですか!? そんなこと……できますね、先生なら」
先生は脳波もろもろを操作することが可能だ。あやしい『医術』で。
「まあね。本来は違法行為だしボクのポリシーにも反するんだけど、緊急事態だ。もちろん、君も見逃してくれるよね?」
「わかりました。あ、いえ。ありがとうございます!」
「うむっ。じゃあまずはここを出よう。こいつらはしばらくは目を覚まさないが、他にも誰がいるとも限らない」
私たちはあたりを警戒しつつ、神殿を抜け出した。
神殿らしき建物は大きな白い宮殿の一部だったようで、私たち宮殿を抜け出して人目の付かない建物の裏に隠れて、一旦休憩を入れた。
「ところで、先生はどんな能力を手に入れたんです?」
私はいまだ白衣一枚の下は素っ裸で痴女のよう格好のままだった。早く何処かで服を手に入れたい。
「さあ、ボクは別に異能力なんてほしくないからなあ。どうでもいいよ」
「試してみてくださいよ」
「どうやって?」
「だから、集中して、ぶわーって」
「なんだよそれ。意味分かんないんだけど」
さっき先生がそう言ったんですよ!
「まあ、やってみるか」
先生は目を閉じると
「発言せよ! ボクのすごい能力!」
先生の体が光り輝く。まさか、先生も私のように服が――!?
そして光が収まる。
すると、先生の姿が、二周りほど大きくなっていた。
先生の身長が伸びていた。
それだけじゃなく、髪も伸び、体つきも成長していた。
と、言っても、十代後半の少女に見えるくらいだけど、いつもの童女に比べればかなりの成長だ。
「なんだこれ。これがボクの能力とでもいう気なのか」
先生の能力は体の『成長』? それは能力と言うよりは変化では。
「それで先生、何か能力が強くなったとか、頭が冴えるとか、新しい能力に目覚めましたか?」
「い、いや特段なにも変わってないと思うが……」
「体の変化だけ……童女が少女になっただけってことですか」
「誰が童女だ」
私と先生はこの世界をおしゃべりしながら本当に観光した。
外国に旅行に来たようでそれなりに楽しい。
王宮の城下町は栄えていて、私達の世界にはないような珍しいものがたくさんあった。
「意味不明だよ。『全裸』と『成長』が一体魔王退治にどう役に立つと言うんだ」
と、先生不満げな声を出しつつも顔は満足そうで、たまに胸の大きさを確かめては「いしし」とおかしな笑いを浮かべていた。
私はそんな先生の様子を微笑ましく眺めながら答えた。
「全く役に立つとは思えませんね……。これ、やっぱり何かの間違いじゃないんですかね? また別の召喚者が喚ばれるんじゃないですか?」
「だけどあの神官たちは異世界召喚は100年に一度とか言ってなかったかい? ボクたちが魔王退治をしなかったら向こう100年は魔王にやりたい放題にやられちゃうんじゃないか?」
「確かにそんなこと言ってましたね……先生はこれからどうするおつもりなんですか?」
「どうするって……」
観光も終わったし、いつもの先生なら間違いなく帰還一択のはずだ。
だって、先生には転生・転移ボーナスなんてなくても、万能の医術がある。
その力を使えばすぐにでも元の世界に帰れるはずだったのに。
それなのに。
「んじゃあサクっと魔王退治でもやってみるか!」
先生はちょっと成長した少女の体で可愛らしくポーズを決めながら言った。
私は先生の言葉が信じられずに叫んでしまった。




