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症候群✕症候群  作者: ひみこ
Karte06 『ラスボス』症候群
28/44

第28話 『ラスボス症候群』②





 光が収まった時、私たちは診察室ではなく、どこかの神殿のような場所にいた。


「おお、召喚は成功だ! しかも二人もだぞ!」


 白い布で統一した服装の神官のような人たちが私達を囲むように並んでいる。なんだか嬉しそうに歓声を上げている。この人達に私たちは異世界召喚されてしまったということ?


「先生、これは……」


「ああ、ボクたちはどこかの世界に召喚されてしまったみたいだね」


 見たこともない文字。見たこともない服装。見たこともない神殿。

 だけど何故か言葉はわかる。


「言葉は通じない症例パターンもあるんだけどそれだと何かと不便だからね、言葉くらいは通じることの方が多いんだ」


「そういうものなんですね。でも、そんなことより、私達これからどうなるんでしょうか……?」


「おそらくボクたちは転生ボーナス、つまり何か特別な能力を与えられているはずだ。それを期待して異世界から召喚したんだからね。ということはセットで何かしらの『使命』も与えられることになるだろうね」


「ただでさえ世界をひっくり返せそうな力を持つ先生がさらに特別な能力を手に入れちゃったら大変なことになりませんか」


「そんな力は持ってないよ。ボクが使える力は医術だ」


「先生の医術は医術の域を大幅に超えていますけどね」


 先生の医術は、私の脳波を読み取ったり、相手の神経のみを傷つけ麻痺させたり、麻酔銃を大量に召喚したり、それはもうめちゃくちゃだ。


「それより、君はどんな能力を手に入れたんだろうな?」


 と先生が言ったところで、私たちは神官たちに囲まれてしまった。

 白い服を身にまとった神官たちは全員が髭をはやしたおじいさん。

 そのおじいさん達の胸元には神殿に飾られているシンボルマークと同じものが刻まれていた。剣のような槍のような形。


「あなた達は100年に一度の儀式によってこの世界に召喚されたのです」

「生贄をささげ我ら神官による祈りの力でこの世界へ召喚されたのです」

「あなた達は伝承によればこの世界の救世主です」

「今この世界は魔王フォーミダブルによって人類滅亡の危機にひんしています」

「あなた達にこの世界を救っていただきたいのです」


 輪唱のように次々と、とてもわかり易く説明いただいた。練習してたのかな。


「私、なんとなく異世界転生とか異世界転移された人の気持ちがわかりました。これ、けっこうなストレスですね」


「ああ、なんていうか思いっきり向こうの都合を押し付けられている感じがして非常に不愉快だね」


「はい。こっちはいきなりこんな目に合わされて混乱中だというのに向こうの都合ばっかりです!」


 先生はずいっと前に出て、ほんの少しだけ膨れた胸部を強調するように張って力強く答えた。


「だが、断る!」


 神官たちはざわついている。


「そんな!」

「我々が滅んでもいいというのか!」

「お前たちは救世主ではないのか!」

「この神聖な儀式を何だと思っているんだ!」

「生贄まで捧げたというのになんと無責任な!」


 次々に神官たちに文句を言われる私達。


「そんなものは、知らん!」


 先生はさらに叫んだ。


「なぜいきなり呼び出された挙げ句、お前たちの言いなりにならないといけないんだよ。そんな魔王退治なんて危険な任務をこなしてボクたちになんのメリットがあるっていうんだ」


 そうだそうだ。もっと言ってやってください。


 神官たちはさらに口々に、輪唱するように抗議してきた。

 次々と喋る人が変わるので首が疲れる。


「それは、あなた達は魔王を倒さないと元の世界に帰れないのです」

「魔王の力によって世界のゲートが不安定になったのです」

「そしてあなた達がこの世界に呼び出されたのです」

「あなた達には世界を渡る際に特別な能力を与えられています」

「その能力を使ってあれやこれやすればきっと魔王を倒せると伝承に記されているのです!」

 


「だがーーーーーーーーー断る!」


 先生、そのセリフ気に入ったんですね。


「なぜだ!?」と、神官さんが叫ぶ。


「やり方が気に入らない。なんで無理やり連れてきておいて、ただ帰るだけのためにお前たちの望みを叶えなくちゃいけないんだよ。だいたい、別に元の世界に変えるくらい自分の力でできるしな!」


 と先生は言い放つ。

 先生は異世界を渡る力もある。本人はそれも医術と言い張っているが。

 行き先は私達が元いた世界なら先生は迷うこともなく元の世界へと帰ることができるはずだ。


「さあ、そこをどけ! この世界をちょっと観光してからボクたちは元の世界に帰らせてもらう!」


 そうだそうだ!

 って、先生、観光するつもりなんですか!?

 だけど、神官たちは包囲を解くわけもなく、私達の行く手を塞いでくる。


「そうは行かぬ」


 神官たちは私達に向かって手のひらを向けてきた。


拘束魔法バインド!!」


 私達の周りに光の輪が数個現れ、収束し、足や腕を拘束されて身動きが取れなくなった。

 この世界には便利な魔法があるようだ。


「なんだ? 説得に失敗したら次は暴力か? それとも洗脳か? この世界の神官はずいぶんと血なまぐさいんだな」


 光の輪でぐるぐる巻きになっているのに先生は余裕の表情を崩さない。

 神官たちはそれまでとは打って変わって醜く顔を歪ませた。


「だまれ!」

「こうなったらやむを得ん」

「貴様らには洗礼が必要なようだ」

「神の力よ」

「神の怒りよ」

「神の祝福よ」

「この者たちに正しき世界の道標を」


 神官たちが口々にそれっぽいなにかを言いながら、なにか怪しい呪文なのか祈りなのかわからないものを唱えだした。

 それっぽい光が、神官たちの祈りに合わせて増幅していく。


「せ、先生! なんだかまずいですよ。私達なんか神聖な力っぽいもので洗脳されちゃいますよ。そして奴隷のように働かされちゃいますよ!」


「仕方ないな。やっつけるか!」


 先生もすぐ暴力に頼りますよね! 全然文句はありませんからささっとやっちゃってください!


「ところでリコくん、君はなにか能力を手に入れたんじゃないのか? それを使ってみるというのはどうだろうか」


 先生は光の輪に縛られたまま、首だけくるりと私の方を向いてそんなことを言い出す。

 そういえばそうだ。たしか転生や転移するとなにか能力に目覚めるという。


「ど、どうやって使うんです?」


「さあ、なんていうか、こう、集中して、ぶわーって」


「そんないい加減な……でもやってみます。私もせっかく異能力に目覚めたというのなら使ってみたいですからね!」


 私はよくわからないまま頭の中で念じてみた。


 ――私の能力よ目覚めよ!


 私の体が光に包まれる。


「おお! すごいぞリコくん! なんて神々しい光なんだ!」


 そして、光が弾け飛んだ。


 と、同時に私の着ていた服も全部、弾け飛んだ。



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