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推しの彼女になりました



推し。それは好きな人であり、応援している人であり、人生を豊かにしてくれる存在である。


「いや〜〜〜今日も天宮くんは輝いてますな」


窓際後ろから二番目と三番目の席に女子二人。遠目に廊下を見ながらクラスメイトで一番仲のいい友達である瑠花(るか)はニヤついた笑みを浮かべながら呟いた。廊下では同級生ならば知らない人はいないほどイケメンで有名な天宮昴(あまみやこう)くんがサラサラの黒髪を靡かせていた。うん、今日も神々しい。


天宮昴。晴園(はるぞの)西高校2年生。容姿端麗頭脳明晰天然黒髪(ここ重要)。校内で知らない人はいないのではないかというくらいその評判はとどまることを知らない。生徒会に推薦されてるだの、ファンクラブがあるだの、最近では男子生徒にさえ告白されているだの。とにかくその顔面の良さは老若男女問わず魅了している。もちろんわたしもその一人である。

芸能界にいて不思議ではないくらいだが、人前がどうやら得意ではないらしく、数多のスカウトを蹴っているという噂だ。

そのおかげでこうして同じ学校に通えているのだから本当によかったけれど。



「天宮くんは西校の宝です」


「宝て」


我が校、晴園西高校は天宮くんが入学してくれたことに感謝しないといけないと思う。ほんとうに。学校の栄誉学生として表彰されてもいい。というか、人間国宝でしょあの顔面は。



「存在しているだけで目の保養…天宮くんはこの学校の栄養剤だよ……天宮くんを見るために学校来てると言っても過言ではない……」


「同じクラスだったら最高だったのにね」


「いやいや……同じクラスだったら眩しさで目が焼けてたから命拾いしたと思う…」


「雪…ほんとに天宮くんファンだよね」



ファンとかいう括りすらもはや超越しちゃってるくらいすきです。生きる糧です。

そんな推しが同じ学校で、さらに隣のクラスにいるなんて。まさに前世の自分は相当徳を積んだに違いない。ありがとう、前世の私。

静かに手を合わせてからもう一度廊下を見やるとカチリ、と合う目。長い前髪の隙間から覗いた優しげな目がゆっくりと細められた。天宮くんが笑っていた。


「え!待って今こっちみて笑わなかった?!」


瑠花がわたしの肩を勢いよくゆする。

なんだあの微笑みは。一瞬死んだかと思って自分の脈を急いで確認した。よかった、死んでない。

確認したと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


(なんという破壊力……)


あの一瞬の微笑みを思い出して、午後の授業は全く身が入らなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



下校時刻。瑠夏はテニス部の部活があるため颯爽と去っていった。私はというと何の部活も入っておらず、委員会などの特殊行事もなかったためそそくさと昇降口へ向かっていた。


(今日はバイトもなかったよなあ…家帰ったらとりあえず宿題して…)


ぶつくさと今日の予定を計画しながら下駄箱で靴を取り替えていると重なる大きな、影。



「なに帰ろうとしてるの?」



透き通るような綺麗な低音。ふっと顔を上げるとサラサラの黒髪が風でふわりと靡いた。


「ぎゃあああああああ!!!!」


あまりのことにテンパってカバンを投げた。ボスっと鈍い音が後方で鳴る。叫んだ後に一気に後退りをしてカバンを拾って抱えた。

それを見て彼、天宮くんは苦笑して数歩私に近づく。


「ごめん、驚かせて」


「えっ?!?…あっ…なっ………??!」


「いやだって、一緒に帰ろうと思ったのに先に帰ろうとしてるから……」



動揺で頭が回らない。

一緒に…?!帰る?!誰が?!誰と?!!?あわあわと口が回らないなりにジェスチャーで自分の天宮くんを交互に指す。

天宮くんはそんな私を見てちょっと拗ねたような顔をしてからズンズンとまた距離を詰めてぎゅっと私の手を取る。えっ…顔が綺麗…じゃなくて近い!!!



「あのさ…………もう付き合って2ヶ月なんだから、そろそろ慣れてくれないと…困る」



少し照れた顔で言い放たれた言葉に思考が止まる。



え?誰と…誰が………?


シーーーーンと10秒ほどの沈黙が続いた。



「え……嘘……無かったことにされてる…?」



天宮くんが弱々しい声を発した。

かと思えばガシッと両肩を掴まれ詰め寄られる。


「2ヶ月前!資料室で!告白したよね?!俺?!」



2ヶ月前………資料室………………

ぽわんと混乱する頭で思い出す。

差し込む夕日。顔の赤い天宮くん。古い書籍に囲まれた室内。




「えっ……………………あれって夢だったのでは…?」



ガン!という効果音がつきそうなくらい天宮くんは表情を曇らせた。

対してわたしは冷や汗ダラダラである。

確かに。確かに2ヶ月ほど前に天宮くんと付き合うなどというあまりにもあり得ない夢を見た。

すごくリアルだったが故に自分の妄想での天宮くんの解像度もここまで行ったかと感心したほど。

夢くらいと思って即刻OKした記憶はある。いやいや、でもそれが現実でしたなどというオチがあるのか?!?いや絶対にありえない!!

推しが彼氏?!え?!そんな少女漫画みたいなことある?!?!


テンパってぐるぐるぐるぐる思考がまとまらない。

そんなわたしを見てまた拗ねたような顔に変わった天宮くんはゆっくりと私の手を離した。



「だからか…。付き合ったのに何もアクションないし…いつも絶妙に距離取られてて話しかけられないし…目があっても何もリアクションがないし……おかしいと思ってたんだ」


「あの…えと………」


「じゃあ今ちゃんと理解して。俺は2ヶ月前髪桐山さんに告白しました。そんでもってOKもらって、彼氏になったんだけど」


「ぅ…あ……」


「もしかして恥ずかしいのかなってちょっと舞い上がってて、ペース合わせようって思ってたのに全然違ってたみたいだ………ならもう我慢しなくてもいいよね?」


「へ……」


「桐山さんにちゃんと自覚してもらうためにも、これからはガンガン行かせてもらうから」


よろしくお願いします、と。キラキラの顔面がさらにキラキラした。

いや無理です。刺激が強すぎます。顔が良すぎます。

これも夢なのでは、と疑うも心臓のドキドキがこれは現実だと訴える。



「と……とりあえず………眩しすぎるので離れてもらっていいですか……?」




どうやら私、推しの彼女になったらしいです。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あのさ…俺、桐山さんのこと好きなんだけど」


「俺と…付き合ってもらえません…か…?」



ガバッと起き上がって鳴り響くスマホのアラームを止めた。

するとスマホの通知欄に天宮昴の名前とメッセージ。



[おはよ。校門前で待ってるから、一緒に教室いこ]



なるほど。まだ夢の中か。

頬を思いっきり両手で叩いたがこの夢から目覚めることは叶わなかった。

しかし昨日天宮くんに詰め寄られたことで告白された時の内容をしっかり思い出した私である。


あの日は日直の仕事で大量の資料を運ぶのを担任にお願いされていて、偶然廊下で会った天宮くんが手伝ってくれたのだ。

推しと急に二人きりでど緊張して一言も喋らなかった私だったけれど天宮くんも資料室までの道中一言も喋らなかったからすごく助かった記憶がある。

そして資料室にて告白なるものをされたわけだが。


いやいや、おかしい。

だってそもそも天宮くんと私接点ないですが?!

同じクラスや委員会になったこともないし、そもそも私が勝手にファンしてて見てただけだし!逆ならまだわかるけど何で天宮くんが私に告白するなんて天地がひっくり返ってもあり得ないことが起きている?!?!?!


やっぱり夢か…二度寝しよう…


冷静にもう一度布団に潜り込もうとした時、部屋の外から遅刻するわよ!!と母の声がしたのでしぶしぶ起き上がる。


まあ…夢だったらそもそも校門にいないよなウン。





「あ!桐山さん!おはよ」


と、思っていたが高速フラグ回収である。



い、いるーーーーーーー!!!!

動揺で返事もできない。

心配したように顔を覗き込んでくる天宮くんの顔面がいつものごとく美しく眩しすぎてものすごい勢いで後退りしてしまった。ついでに直視できないようにカバンでもガードした。


やっぱり夢じゃないんかい!


絶対おかしい。だってだってあの天宮くんだよ?わたしなんて月とスッポン。もはや月と塵くらいの差じゃない?!

恐る恐るカバンをどけて顔を盗み見る。

2メートル離れてても顔がいい!眩しい!


いややっぱりおかしいよ。罰ゲームとかなんじゃ?でも罰ゲームだからって天宮くんはこんなこと絶対しないという私の中の解釈がある。うん。私の推しはそんな性格悪くない。いつだって優しい。


そうこうぐるぐると考えているといつのまにか離れた距離を詰めていた天宮くんがわたしの右手を握った。



「それじゃあ、いこっか」

「え………」


繋がれた右手を二度見する。


「言ったでしょ?もう我慢しないって。俺ずっと桐山さんと繋ぎたかったんだ」



なんて、照れた顔で言うものだからその顔がわたしにダイレクトアタック10000ダメージを与えた。

私のライフはもうゼロです助けてください………



そこからの道中、それはそれは道ゆく生徒たちみんなに稀有な目で見られ、それはそれは恥ずかしく、気まずく、申し訳なく、私は一度も顔を上げられませんでした。


全校生徒の皆さんすみません。皆さんの天宮昴の左手を私は独占しております。すみませんすみません…一生かけて懺悔します…お許しください…

もう背後から刺されても文句は言えまい。このような下賎な女が隣を歩いて申し訳ございません…


謝罪の言葉を誰に言うでもなく頭の中で唱えながら廊下を進み、ようやく教室前へ。廊下にいる生徒たち、そしていつもの窓際の席の瑠花と遠目に目があったがまさにみんながみんな目が点だった。

そうですよねそうなりますよね私もわからないんですこの状況が。



「それじゃあ、また昼休み迎えにくるね」


「えっ…………」


「一緒にお昼食べたいから。だめだった?」


「ぁ…ぇっ…と…め………めっそうもございません」


「よかった。それじゃあまたあとで」



なんて言って惜しむように手を離してひらひらと輝く笑顔で小さく手を振って隣の教室に入って行った。

その瞬間時が止まっていた周りが一気にざわつき始めてこちらを見てひそひそと話し始める。


すみません。すみません。

絶対に天宮くんの評判を落としてしまう…なんということだ…しかし推しには逆らえない…無力な私をどうかお許しください…………

そそくさと教室に入ると瑠夏が早足で近づいてきて首がもげるかと思うくらい肩を揺すられた。



「ちょっと!!雪!どういうこと?!」


「これには海より深い事情がございまして………」


「事情って何?!手繋いでたよね?!あの天宮くんと!!!」


「あのそれが私も夢かと思っててうまく説明できないんですが……」


「だから何があったわけ?!」


「その……天宮くんと……お付き合いすることになったみたいです?」



はあ〜〜?!と瑠花の声に混じり教室のみんなの声が重なる。



本当にごめんなさい。私が一番状況を理解できておりません。





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