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君を君たらしめる手作りの魔法  作者: 天海 七音
     五幕 予期していたこと
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74.悪い予感ほどよく当たる

「そしたら師匠、なんて言ったと思います!?」

「どうせ出来をボロクソ言われたんでしょ」

「そうなんですよ!『学校通ってまだその程度かよ』って!まだ半年なんですけど!悔しい!」

 入学してから半年も経てば食堂での食事も慣れたもので、自然な流れで朝食のお盆を受け取って飲み物を貰う。機械的に配膳しながら、ひと月ぶりに会ったつーちゃん先輩に休み中の愚痴をこぼした。

「そこで感想が『悔しい』になるのがあんたよね。普通『ひどい』とか『悲しい』とかじゃないの?」

「何でですか?実力が無いのは事実ですし」

 つーちゃん先輩は半目で私を一瞥したのち、手元に視線を戻した。

 王立魔法学術院の前期と後期の間には、ひと月の休みがある。年末の宣言通りその休みを師匠の店で過ごした私は、ばっちりアルバイトをした。大して成長していないなどと言われたものの、約束通りお賃金をいただいたので今後の創作活動が楽しみで仕方がない。

 そんな愚痴交じりの報告をつーちゃん先輩に受け流されつつ、食堂内で適当に席を見つけて座った。すると、何やら気位の高そうなご令嬢が数人、眉を吊り上げながら近づいてくるのが見える。

 こちらを見ているような気はするがきっと気のせいだということにして、朝食をせっせと口に運んでいると、やはりというか何というか、色んな意味で上の方から話しかけられてしまった。

「あなたが『詩苑座(しおんざ)』の衣装担当かしら?」

 ――『詩苑座』、初めて聞いた単語である。劇団や旅芸人などの団体を「~座」と呼ぶことがあるからには、恐らく「縹組」亜種の単語とみていいだろう。

 表に出て歌う詩苑を中心とした見方をすると「詩苑座」、裏の作り手側を中心とした見方をすると「縹組」。そういう感覚だ。

 つまり暗に、詩苑と一緒に定期発表に取り組んでいる私が気に食わない、と言っているのかもしれない。

 何と答えると今後のためになるか、匙を運んでいる途中の口を開けたまま考えを巡らせていると、痺れを切らしたご令嬢は眉を顰めながらも口元には笑みを浮かべた。

「平民は言葉も知らないのかしら」

 いったん匙を下して首を傾げる。

「つーちゃん先輩、詩苑座って知ってます?」

「初めて聞いたけど、どうせあんたたちのことでしょう」

 つーちゃん先輩は面倒そうにしながらも答えてくれた。私はそれに一つ頷くと、ご令嬢に顔を向けて神妙な面持ちを作った。

 ご令嬢を見上げてから、意識を顔に集中させ目を合わせる。なるべく時間をかけてゆっくりと深呼吸をしてから下腹に力を入れて目を逸らさずに口を開く。

「――じゃあそうみたいです」

 重要なことでも言ったかのように勿体ぶると、ご令嬢はぴくぴくと眉を震わせた。

「どうやって取り入ったのかは知らないけれど、身の程を弁えた方がよろしくてよ」

 そしてそれだけ言い残して、さっさとその場を立ち去った。

「学院的には身分が関係ない以上、どういう立場でどういう身なら何なのかまで、教えてくださると有難いんですけどね」

 止めていた匙の上の朝食を口に放り込みながら呟く。

「目をつけられてるじゃない」

「そうは言っても、真面目に衣装を作っているだけなのですけどねえ」

 ふと顔を上げると食堂内でささやかに視線を集めていた。

 そろそろ思考を放棄している場合ではなくなってきたかもしれない。


 *


 いつも通り夜が更けた頃、後期が始まったことだし一度は顔を出しておくかと思い、第三談話室にやってきた。

 今朝のお嬢様方のこともあるし、課題も立て込んでいることだし、特に何もなければ直ぐに退散しようかと思っていたところ、詩苑がみんなに話したいことがあると言い出した。

「担当講師が良いこと思いついちゃったとか言ってて」

「良いこと?」

「そう。前期発表を観て後期発表の課題を思いついちゃったんだって」

 話の途中でも隙を見て退散しようと思っていたが、定期発表の件なら残らざるを得ない。それに詩苑の担当講師の良い思いつきは気になる。

「どんな課題なの?」

「その一、縹が主題を考える。その二、澄麗さんが絵を描く。その三、山蕗が曲を作る。その四、俺がスキャットのみで歌う。その五、萌稀が衣装を作る。その六、縹が演出を考える…とそれぞれが何を想像して作っているのかを教えてもらわないまま、各自で分析して、作って、っていうのを順繰りにやって、その末に舞台上で何を表現できるか。というとても複雑な課題」

 指折り数えながら説明する詩苑に、私は目を輝かせた。

「面白そう!!」

「言うと思った」

 詩苑はげんなりとした顔をしている。こんなに創作意欲を刺激される、楽しそうな課題なのに。

「なかなか冒険的な取り組みだが自由度が高い分、何をやっても間違いではないんだよな…」

「一から作曲ね…」

「スキャットで一曲歌いきる未来が見えないんだけど」

「私の絵が先で大丈夫かしら」

 私以外はみんな複雑そうな顔をして心配事を漏らしている。

「俺の担当講師が既にそれぞれの先生には合意を得ていて、みんなが反対しなければ早速この方向で進めたいらしいんだけど」

 詩苑の担当講師は仕事が出来る人に違いない。その行動の迅速さは是非とも見習いたいところだ。

「賛成!」

「萌稀が賛成なのは分かってる」

「むしろどこに反対する理由が?」

 心底疑問しかない私は、詩苑の言葉に不満を募らせた。

「僕、今まで原曲がある作品か、詩があるものしかやったことないんだよね」

「そうだったんだ」

 私の疑問に答えてくれたのは山蕗だった。両手で頬杖をついて目を伏せている。

「そもそも僕の所属は作曲科じゃなくてピアノ科だし」

「そうだったんだ!」

 ピアノを弾く学科という認識しかしていなかったけど、琳先輩と比和(ひわ)先輩が言うには「山蕗はピアノが上手い」のだとか。家族全員音楽家らしいし、演奏する方の学科であることは納得がいく。

「不安だなあ」

「でもそれぞれ絶対ひとつ、成長できそうじゃない?」

「そうよね、やったことがないからと言って不安がっていても、次には進めないものね」

 私の次に賛成してくれたのは澄麗先輩だ。

「その通りですよ澄麗先輩!」

 前向きに事を捉えてくれる澄麗先輩に、私は拍手を贈った。

「ああ、澄麗さんが萌稀ちゃん化していく…」

「どういう意味かしら、山蕗」

 きっと睨みをきかせると、山蕗はふいっと私から顔を背けた。

「澄麗さんがやる気なら縹もやるしかないね」

「俺は元々反対するつもりはないがな」

「げえ」

「逃げ道はないみたいだぞ、山蕗」

「分かったよ…」

 山蕗と詩苑はこそこそ言いつつ、逃げられないことを悟ったのか覚悟を決めた。

「日程的には、それぞれ二週間ずつを目処に素案提示、二週間で仕上げと同時に次の人が素案検討で進めて、都度進捗は全体で共有ってところか」

 縹さん、澄麗先輩、山蕗、詩苑と順番にやると、私の出番は五番目。予定通り二週間ずつ作業開始がずれたとして、私の出番がくるまで二ヶ月は空くことになる。

 情報を共有するとは言っても、全部に参加しなくともどうにかなる。それなら詩苑と無闇に会わなくても済むかもしれない。

「それなら暫くは私の出番は無さそうね。目を付けられたことだし、学科の課題に専念しようかしら」

「目を付けられたって、何かあったの?」


【雑な用語説明】

スキャット:意味のない言葉で歌う方法。ラララとかそういうやつ。

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