表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を君たらしめる手作りの魔法  作者: 天海 七音
     四幕 脇役の心得
76/241

71.脇役にも応援は必要


 一度食堂に寄ってお茶道具一式と軽食を確保し、練習場に戻った。出会ったご令嬢に死ぬほど見られた気がするのは、気付かなかったこととする。

「縹さん、どうですか?」

 改めて全身を衣装で整えた詩苑を縹さんに確認してもらうと、満足そうに頷いてくれた。

「ああ、いいな。旅をしながら詩を書いている人の雰囲気がある」

「じゃあとりあえずこれで一度、やってくれる?」

「うん」

 布の粗さ、縫製の粗さ、靴のボロさ。詩苑のキラキラ具合を打ち消すには十分だろう。

「澄麗さんもお待たせしてすみません」

「いいえ。昨年の発表も観させてもらったけど、やっぱり衣装を着ると雰囲気ががらっと変わるわね」

「詩苑をこんなにボロボロにするのも、萌稀ちゃんくらいだよね」

 興味深そうに詩苑を観察する澄麗さんに、山蕗が口を挟んだ。

「仕方ないじゃない。紫戯(しぎ)はこんなにキラキラしていないのよ」

「そうなの?」

「詩人だし、そんなに稼いではないでしょう、きっと」

 そう、詩人だからね。定職に就かず、気ままに旅しながら言葉を紡ぐのが詩人だ。多分。


 *


 前期の発表に向けては、山蕗と澄麗さんの息を合わせるため、繰り返し練習が行われた。作品が段々と磨かれていくのを間近で見るのが楽しくて、機会を見つけては積極的に見学した。

 詩苑は気負いすぎないよう、寝そべったり隠れたりしながら練習していて、その様子も少し、否かなり面白かった。

 事ある毎に私にも意見を求めてくれて、これがみんなで作り上げるということなんだと、改めて実感した期間だった。


 そしてついに、入学してから初めての本番を迎える。

「いよいよ本番ですね」

 毎度のことだがやはり緊張する。今回からは在籍学生としての評価もつく。ばくばくと主張を繰り返す心臓を落ち着かせるために、ゆっくり呼吸をした。

「上手く…出来るかしら」

 隣に立つ澄麗さんは眉尻を下げ、固く両手を握りこんでいる。その両手を包み込むように持ち上げ、自分の額に寄せた。

「上手く出来なくてもいいんだと思います。表現したいことを、みんなで表現し切りましょう」

 創立記念祭の少し前から今日まで、澄麗さんは練習を重ねて欠点の克服に努めた。そして未熟ながらも作品を描き上げたのだ。

 今日の本番を以て、本来の意味で作品が完成する。是非とも自信を持ってやり切ってほしい。

 そう願いを込めて包んだ手を胸元まで下して、澄麗さんを見つめて口角を上げた。澄麗さんは大きく目を見開いたあと、つられるように微笑んだ。

「ありがとう、萌稀さん。一緒に、やり切るわ」

 今朝、縹さんから澄麗さんに関する今後の方針をちらっと聞いた。どうやら今日の結果次第では、少し良いことが起こりそうなのだ。

 絶対に澄麗さんもまんざらでもないし、早いところどうにかなってしまえばいい。澄麗さんはどう考えているのか、あまり表には出してくれないけれども。

「澄麗嬢ばっかりずるくない?俺のことも応援してよ」

 私と澄麗さんが美しい友情を演出していると、横から邪魔が入った。声の方を見遣ると、詩苑が不満そうにこちらを見ている。

「俺も頑張ったんだけど」

 今更私に言われずとも、この男は本番でやるべきことを正しく理解しているだろうに。

 ただこのまま私が澄麗さんを独占していると、縹さんの出る幕がないなと思い直して、詩苑に構うことにした。

「どうしてほしいの」

「え…じゃあ俺の手も握って」

 私の問いかけに一瞬戸惑ったあと、詩苑は両手を差し出した。どうぞと言われてもこれをどうやって握るのが正解なのか、私には少々理解しかねる。そもそも詩苑の方が手が大きい。

 悩んだ末に、適当に両側から両手を挟んだ。

「頑張れ頑張れ」

「応援が雑!」

「文句ばっかり言わないの。ほら、始まるよ」

 不満をおさめないままの詩苑をひっくり返し、舞台に向かせる。その背中をバシンと強めに叩いて送り出す。

 横目に澄麗さんを見ると、縹さんと何やら顔を近づけて話している。うんうん、良きかな。

「僕も応援されたい」

「山蕗も程好く頑張れ」

「程好くね、了解」

 舞台が転換し終わると、山蕗、詩苑の順に表に出る。澄麗さんは下手(しもて)舞台袖ギリギリで絵を操る。

 私は縹さんと、澄麗さんの少し後ろで見守る。


次回本番、本日このあと12時に更新します。

山の日なので山を感じてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ